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要約

第1章 調査の背景・目的、評価対象範囲、評価方法

1-1 調査の背景と目的
【調査実施経緯】
 2003年秋に開催が予定されている「第3回アフリカ開発会議(TICADIII)」に向けて、我が国はアフリカ開発支援として「人間中心の開発」、「経済成長を通じた貧困削減」、「平和の定着」の3つの柱を示している。1998年のTICADII以降に実施された、アフリカに対する貿易・投資分野協力を振り返り評価を行うことは、我が国のアフリカに対する同分野協力を検証し、今後の協力に対する提言を得る上で重要であるだけでなく、TICADプロセスにおけるアフリカ支援策のあり方を検討する材料としても大きな意味がある。

【調査の目的】
 本調査は次の点を主な目的として実施された。

(1) TICADIIが開催された1998年度以降、我が国が行なったアフリカの貿易・投資分野に対する協力を対象として、これらの協力の総体を一つのプログラムと考え総合的に評価を行い、その結果を通じて教訓・提言を得ること(プログラム・レベル評価)
(2) 2003年秋に開催が予定されているTICADIIIに向けて、東アジアに対して実施された貿易・投資分野協力とアフリカに対する同協力の比較・分析を行うことによって、「アジア・アフリカ協力」の意義並びに可能性についての検討を行うこと。
(3) 調査を通じた評価結果を公表することによって国民に対して説明責任を果たすこと。

1-2 調査の対象範囲
【評価対象】
 貿易・投資分野協力では、人材育成に係る分野の他、経済インフラ整備等を含め、多様な分野が検討される場合があるが、本調査では貿易・投資促進のための人材育成・技術移転を中心課題とした貿易・投資分野協力をその対象とする。具体的には「研修員受入」と「専門家派遣」をプログラム評価の対象とする。そして、これらの協力を一つの総体とみなして評価を行うこととする。

【評価対象期間と評価対象国】
 1998年のTICADIIで「貿易・投資の拡大」という開発テーマが提起された経緯を踏まえ、本調査は、1998年以降の貿易・投資分野協力の実績と成果を検証することが重要であるという認識に基づき実施した。そのため、本調査では、我が国がアフリカに対して実施した「研修員受入」と「専門家派遣」の評価対象期間として、1998~2002年度を設定した。現地調査はエジプト、ケニアを対象とした。一方、「南南協力」としての「アジア・アフリカ協力」の可能性を検討するため、東アジアの一国である、インドネシアを評価対象国として含めた。

1-3 評価の方法
【評価手法】
 本調査の実施にあたり、「評価枠組み」(表参照(PDF))を策定し、それに基づき総合評価を行った。本評価では、プログラムの目的、プロセス、結果に分けて検証を行った。


第2章 アフリカの貿易・投資分野の現状と開発課題

2-1 アフリカ経済の動向
 1998~2002年のアフリカ各地域*1における国内総生産(GDP)前年比の推移は、アフリカ全体では平均3%台~4%台を維持している。地域別に見ると、北アフリカ地域は、2001年まで上昇傾向を見せていたが、2002年には2.8%に下落している。反対に、東アフリカ地域は1998年に2.5%であったが、2002年には5.2%へ上昇している。他地域と比べ変動幅が小さいのが西アフリカと南アフリカ両地域で、平均3.0%前後で推移している。
 一方、アフリカにおけるGDPに占める産業別割合は、1980年と2000年の比較を通じ、各地域において変化が見られる。南アフリカ地域では、第1次産業の割合が2000年には減少し、代わって、第2次産業の割合が拡大している。その反対の傾向として、西アフリカと東アフリカ両地域では、2000年には第一次産業の割合が拡大し、2000年の第1次産業の割合が全体の35%超を占め、アフリカの中でも第1次産業の割合が高い地域であることが分かる。また、北アフリカ地域は、2000年に第1次産業の割合が最も低く、第2次産業が減少する代わりに、第3次産業の割合が拡大している。

2-2 アフリカの貿易・投資動向
 持続的な経済成長率を達成しているにも関わらず、アフリカが貿易を通じて扱う取引価額は、世界貿易全体に照らすと極めて小さな規模に過ぎない。世界貿易機関(WTO)がまとめた統計によれば、1998~2002年にかけて、アフリカの商品輸出額並びに同輸入額は、世界全体の貿易取引額に対して2.0%程度の割合である。サービス貿易についても殆ど同様の傾向が示され、アフリカの世界貿易に占める割合は極めて小さいことが分かる。

2-3 アフリカに対する開発支援と貿易・投資分野協力
 我が国は1991年に国連総会においてアフリカ開発支援の重要性を提起し、1993年、「第1回アフリカ開発会議」(TICADI))を開催した。冷戦の終焉を受け、アフリカ諸国でようやく民主化と市場経済化に向けた改革が開始された中で、国際社会のアフリカ開発に対する関心が低下していた時期でもあり、アフリカ開発への関心を喚起する点においてTICADIの開催は大きな意味があったと評価される*2。続く、1998年に開催された「第2回アフリカ開発会議」(TICADII)では、同会議の議論を通じて採択された「東京行動計画」において、「社会開発と貧困削減:人間開発の促進」、「経済開発:民間セクターの育成」、「開発の基盤」を主要テーマと位置付け、「経済開発:民間セクターの育成」では、製造業を中心とする産業開発を重視し、民間企業活動のための環境整備、直接投資・貿易・輸出の促進、中小企業振興を目標として位置付けている。 
 東京行動計画では輸出と投資促進のための枠組み強化(健全なマクロ経済政策、為替・貿易システムの自由化、開放経済の確立・維持)及びインフラストラクチャー整備が強調されている。そして、国際的に求める行動項目に関しても、直接投資の奨励や南南協力の拡大促進などを個別的に取り上げている*3
 アフリカ自身による開発努力の動きも活発化している。「アフリカ開発のための新パートナーシップ」(NEPAD)は、南アフリカのムベキ大統領の「アフリカ自らによる自身の再発見により、アフリカの自信を取り戻すこと」を説いた「アフリカン・ルネサンス」を基本的な思想として、2000年の「ミレニアム・アフリカ再生プログラム」(MAP)策定と、ワッド大統領の「オメガ・プラン」が統合され、最終的にOAUで承認されてNEPADと命名されたことに始まる*4。このNEPADを通じた開発イニシアティブに対して、2001年のジェノヴァで開催された主要国主脳会議(G8)では「アフリカのためのジェノヴァ・プラン」が発表され、アフリカの開発課題に対するテーマが提起された。
 経済上の統治及びコーポレート・ガバナンスの改善や、民間投資の促進、アフリカ諸国間の貿易及びアフリカと世界の貿易の増大といった、貿易・投資促進に係るテーマが掲げられており、貿易・投資分野推進への期待が見られる。


第3章 我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力実績

3-1 JICAによる貿易・投資分野協力の概要
 JICAは貿易・投資促進の協力として、次の3つを大きな柱として位置付けている*5

  • 貿易・投資促進のための基盤作り(商事関連法律の制定、経済インフラの整備)
  • 貿易促進のためのキャパシティ・ビルディング
  • 外国直接投資促進のためのキャパシティ・ビルディング

 これらの協力事業には、今回の調査対象である研修員受入や専門家派遣による技術協力の他、開発調査、経済インフラ整備の協力が含まれる。
 JICAの事業実績統計では、「貿易・投資」という分類はないが、小分類として「商業・貿易」が見られる。我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力と言った場合、本調査が評価対象とする「研修員受入」と「専門家派遣」の殆どは「商業・貿易」分類に位置付けられている。

3-2 形態別に見た我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力の実績と特徴
【アフリカ研修員受入数の実績】
 1998~2002年度の貿易・投資分野でのアフリカ研修員受入総数は114人である。この数字には第三国研修や国別特設による研修の実績も含まれている。1998年に15人であった研修員受入数は、1999年に27人に増加、2001年に19人とやや減少したものの、2002年には再び27人となり、総じて20~27人の間を推移している。
 各国実績を年度別に見ると、研修員受入数が最も多い対象国は南アフリカ共和国で、1998~2002年度にかけて32名が研修に参加している。南アフリカ共和国を対象とした研修が多い理由は、同国向け国別特設研修を実施したことが挙げられる。次いで研修員受入数が多いのは、エジプト(13人)、タンザニア(11人)、ケニア(8人)であり、エジプト、タンザニア、ガーナは、年度別に見ると継続的に研修員受入の対象国であることが窺われる。他方、ガーナ以外の西アフリカ諸国は、1998~2002年度にかけての研修参加者数は1~3人程度の人数に留まる。
 我が国の協力実績のあるアフリカ諸国を暫定的に地域分類すると、研修員受入数が最も多い地域は、南アフリカ共和国が含まれる「南アフリカ地域」で44人、次いで、「東アフリカ地域」の35人、「西アフリカ地域」の18人、「北アフリカ地域」の17人という結果である。

【アフリカへの専門家派遣の実績】
 アフリカへの専門家派遣数は、短期、長期をあわせても、必ずしも多いとは言えない。表3-5で示したように、アフリカへの専門家派遣は、多くはエジプトへの派遣である。1998~2002年度にかけてのアフリカへの専門家派遣では、9人中、7人がエジプトへの派遣となっている。
 この背景として、エジプト貿易産業省の管轄下にある「エジプト貿易研修センター」の運営支援のため専門家が派遣されている他、この研修センターで開講されている研修コース講師としての専門家が派遣されていることが挙げられる。


第4章 アフリカ貿易・投資分野協力の評価と教訓・提言

4-1 プログラムの目的についての評価
 アフリカに対する貿易・投資分野協力のプログラム目的は、専門知識の付与やその運用能力の向上を通じて、貿易・投資政策立案や実施に寄与すること、また、同様に貿易・投資分野活動の推進に貢献することと考えることができる。これらのプログラム目的は、我が国の援助政策や、TICADII「東京行動計画」、アフリカの開発ニーズに照らした場合、整合性を備えていることが検証された。

4-2 プログラムのプロセスについての評価
 プロセスの検証では、アフリカに対する貿易・投資分野での研修員受入と専門家派遣の実施プロセスについて適切性を検証した。研修員受入の割当国選定や研修員選考では、適切な運営が行われたことが確認されたが、研修員の選考プロセスについて、受益国における候補者選考の段階で改善の要請が確認された。また、研修終了後のフォローアップが十分に実施されていないことも検証された。
 専門家派遣のプロセスでは、派遣要請から実際の専門家派遣までに1年近い時間を要す場合が確認され、派遣プロセスの時間的短縮の必要性が確認された。また、専門家が赴任してから、業務環境の改善や対処に苦慮することが多い点も検証され、業務の効率的な実施に向けて、我が国とアフリカ受益国の間の緊密な連携が望まれる。

4-3 プログラムの結果についての評価
 プログラムの結果の検証では、アフリカに対する貿易・投資分野での研修員受入と専門家派遣の実施を通じて、人材育成の有効性や技術移転のインパクトを検証した。研修員受入による人材育成の有効性について、研修員自身の業務に応用可能な研修に参加することへの期待が確認されたが、概ね、研修実施に対しては、高い評価が見られた。一方、専門家派遣を通じた人材育成の有効性は、所属機関における人材の配置や所属機関内部における意思決定等によって、左右されることが検証された。
 技術移転のインパクトについては、研修員OBによる所属機関内での知識共有化や、派遣専門家の業務を通じた技術移転の取組みに委ねられている。研修員OBによる知識共有化の取り組みは、アンケート調査でも何らかの形で大半が実施していることが確認されており、政府部門での技術移転は、多少のインパクトをもたらしていることが窺われる。一方、政府部門から民間部門への技術移転は、政府部門と民間部門の連携が緊密ではないことから、波及効果が限定的であることが検証された。

4-4 プログラムの評価から得られた教訓と提言
(1)プログラムの目的評価から得られた教訓と提言
TICADと我が国の貿易・投資分野協力の関係性の明確化
 我が国はTICADプロセスを推進している主要国として、アフリカ諸国に対する開発協力もこのTICADプロセスを踏まえることが前提になると思われる。アンケート調査では、アフリカ諸国は、TICADプロセスと我が国の協力の強い関連性を意識しないまま協力を受け入れている場合があるように見受けられる。この意識の乖離の背景として、我が国のアフリカに対する協力の意志や情報が、アフリカ諸国に充分伝達されていない可能性が考えられる。
 我が国の貿易・投資分野協力プログラムが、TICADプロセスの持続的な実施に向けて、TICADとの関係性のなかで進められていることをアフリカ受益国も認識できるような取組みが求められる。

(2)プログラムのプロセス評価から得られた教訓と提言
フォローアップ実施のための体制造り
 本調査を通じて、研修員受入に係る貿易・投資分野協力に対するフォローアップが実施されていないことがアンケート調査の回答によって確認された。その理由として、フォローアップ体制が十分に構築されていない点が挙げられる。
 研修員が帰国後、継続して同じ職場や部署に在籍しているとは限らないため、フォローアップ体制の構築自体が難しい面があるが、今後、研修員受入事業を進める上で、留意すべき点であると思われる。フォローアップの実施法法として、「同窓会ネットワークの構築」や「E-learningの利用」等の要望が研修員OBから聞かれたが、通信事情が許されるなら、新たなフォローアップ実施方法として検討に値するのではないかと思われる。

専門家派遣に要する時間と業務環境の改善
 専門家派遣のプロセスについて、要望調査の実施から専門家の派遣にいたるまで1年近くの時間を要す場合があることが確認された。その間に受益国の担当者が代わってしまうという事態も指摘されており、より迅速な専門家派遣のプロセスと共に、在外公館やJICA在外事務所による受益国のニーズの継続的な調査が求められる。また、専門家の赴任に際しては、事前に専門家が理解していた業務範囲と実際の業務内容が異なる場合も見られ、赴任後の業務環境の改善や対処に関し、赴任前後の時点で、十分な検討と調整を進めることが必要である。更に、専門家の業務遂行に関しては、機材の不足や言語上の問題、また、指導相手や上長の方針等により人材育成やインパクトに関し多大な影響がもたらされることが本調査で確認されたことから、在外公館やJICA在外事務所等と専門家の緊密な連携と共に派遣専門家への継続的な支援が望まれる。

(3)プログラムの結果評価から得られた教訓と提言
研修内容の適切性?応用を重視した研修内容ヘの移行
 本調査では、より実践的且つ研修員の国情を踏まえた研修内容の提供が期待されていることが確認された。我が国の研修内容への全般的な評価は高いものの、研修員が帰国後に、学んだ知識・技術を自国の貿易・投資分野に応用することが可能であれば、我が国の研修事業への評価はさらに高まると思われることから、より具体的事例的なカリキュラムの設計の検討が望まれる。

貿易・投資分野協力における民間部門への波及効果
 我が国の研修員受入、専門家派遣を通じた貿易・投資分野協力では、直接的な裨益者は受益国政府職員とする場合が多いが、受益国政府職員に対する技術協力の成果は、民間部門へも移転され、貿易・投資促進に活用されることが期待されるものである。
 アフリカ諸国の場合、政府職員の能力向上を図るニーズも依然として強いが、それ以上に、民間部門の貿易・投資分野における基礎的知識が乏しい、という点が指摘された。例えば、FOB(Free On Board)*6という貿易実務の基礎となる知識に乏しい地場業者も少なく無いと言われる。こうした現状を踏まえ、研修員OBや派遣専門家を通じた民間部門の人材育成や技術移転が重要であることヘの意識を研修員や派遣専門家に付与する方法を検討して良いのでないかと思われる。

技術移転のインパクトを高めるための「政府・民間連携」ヘの支援
 研修員受入と専門家派遣を通じた技術移転の有効性やインパクトを高める方法は、現在、研修員OBや派遣専門家の意欲と自主的な活動に委ねられており、現状では、こうした波及効果を高めるための環境・制度造りが十分に行われているとは言えない。
 我が国の貿易・投資分野協力が政府職員を中心に今後も実施され、その協力を通じて民間部門の育成を支援する場合、アフリカ受益国内での、ビジネス・政府関係の緊密化が不可欠であると思われる。こうした観点から、貿易・投資政策の策定やその促進が、政府と民間の相互協力があってはじめて実現することを踏まえれば、アフリカにおけるビジネス・政府関係を強化させるための支援も重要な協力になるものと思われる。

受益国におけるデータベース構築の支援
 貿易・投資分野に関する情報は、迅速且つ正確に政府を通じて民間へ伝達される必要があるが、データベースの未整備により、受益国の貿易・投資活動の円滑化への支障が懸念される。情報管理上の機材不足や人材不足は多くのアフリカ諸国において見られる課題であるため、プロジェクト方式技術協力等のスキームを一例として、貿易・投資分野協力のデータベース構築の支援を行うことも今後必要と思われる。


第5章  インドネシアに対する貿易・投資分野協力の評価とアジア・アフリカ協力

5-1 インドネシアに対する貿易・投資分野協力の実績
 インドネシアからの貿易・投資分野の研修員受入数は、年度によって大きく変動しているが、1998~2002年度にかけては合計206人の研修員を受け入れている。2000年度には、108人と研修員受入数に著しい増加が見られたが、このうち105名は「インドネシア貿易研修センター」での研修受講者である。また、2002年度の70人のうち、60人は同センターがインドネシアの地方で開講した投資促進能力向上コースの研修受講者によって占められている。
 我が国へ研修員を招聘する形での協力は、1998~2002年度にかけて、平均3~5人程度である。一方、派遣専門家についても、その殆どが貿易研修センターにおける研修講師としての派遣である。

5-2 インドネシアに対する貿易・投資分野協力の総合評価
【プログラムの目的についての評価】
 インドネシアに対する貿易・投資分野協力は、インドネシア貿易研修センターの運営支援を通じた人材育成、知的支援の他、投資調整庁による国内外の投資促進が中心である。これまでの我が国のインドネシアに対する貿易・投資分野協力プログラムの目的は、ODA大綱、ODA 中期政策、さらに対インドネシア国別援助方針に示された我が国の援助政策体系に照らして妥当なものであったと言える。
 受益国であるインドネシアの開発ニーズに照らした場合も、貿易・投資分野における人材育成という側面において、整合性を備えた協力であったと言える。特に、人材育成を主眼としたインドネシア貿易研修センターの運営に対する支援は、我が国の援助方針に照らして、極めて妥当性のある協力であったと言える。
また、インドネシアによる地域への開発や「南南協力」の取組みに照らした場合、我が国のインドネシアに対する協力プログラムの目的は、整合性を備えていると思われる。
【プログラムのプロセスについての評価】
 プロセスの検証では、インドネシアに対する貿易・投資分野での研修員受入と専門家派遣の実施プロセスについて、概ね適切性が検証された。但し、研修員受入の候補者選考の効率性に関しては、改善点も若干指摘されたが、受益国政府機関内の組織運用上の問題といえる。
 一方、専門家派遣のプロセスでは、案件採否並びに実施案件形成に関して、適切性が検証された。また、中間報告書、総合報告書に関しては、在外公館やJICA在外事務所との意思疎通や次期専門家派遣への情報のフィードバックという点において適切なプロセスであったことが認められた。
【プログラムの結果についての評価】
 プログラムを通じた人材育成に関して、インドネシアの貿易研修センターでは、同センター運営にかかる幹部職員の育成から、研修・教育事業に携わる講師の養成まで派遣専門家の助言・指導のもと「専門知識の付与並びにその知識の運用能力の向上」を果たし、研修員OBが講師として独立して授業実施が可能になった。受講者は開発課題で揚げる地場の民間事業経営者や輸出担当者であり、研修・教育実施場所も地方展開を見せており着実な有効性の広がりを見せている。

5-3 我が国のアフリカとアジアに対する貿易・投資分野協力の比較
【協力実績についての比較】
 アジアは我が国のODA大綱でも重点地域と位置付けられ、且つ、我が国の民間部門の貿易・投資先としての位置付けから、我が国政府・民間双方にとって極めて関心の高い地域である。一方、アフリカは、アジアと比べると、開発段階において基礎的社会インフラ(教育、保健・衛生部門)等への開発ニーズが依然として高く、我が国の民間部門にとっても貿易・投資先としての関心は必ずしも高いとは言えない。
 こうしたアジアとアフリカに対する認識の相違は、我が国のアジアとアフリカに対する貿易・投資分野協力の実績の相違にも歴然と表れている。第2章で示したように、1998~2002年度にかけて、我が国がアフリカから研修員を受け入れた数は114人であるが、アジアの事例として、インドネシア一国だけを取り上げても、研修員受入数は206人に上る。また、1998~2002年度にかけての派遣専門家の数も、短期・長期の専門家の数を足しても、アフリカには9人を送っているにすぎない。一方、インドネシア一国だけの事例を見ても、同期間における派遣専門家数は45人である。

【研修コース名、専門家指導科目についての比較】
 アフリカに対する研修員受入の場合、一般集団研修が多く、研修コース科目は「貿易・投資促進」、「投資環境法整備」、「貿易保険」等である。また、アフリカに対する専門家派遣は、エジプトの貿易研修センター運営支援に関係するものが多く、研修講師として派遣された短期専門家の指導科目は「貿易促進」、「輸出戦略」等が見られる。同センターは2002年に研修コースを開設したばかりであるため、研修コースの数や種類は限定的である。
 他方、アジアの事例としてのインドネシアに対する協力では、アフリカの研修員に対する研修コース科目の他、「物流」、「商社設立」、「マーケティング」、「国際商契約」、「工業デザイン」等、民間部門への裨益を意識した科目が多く含まれている。
【協力に係る情報量の比較】
 アフリカに対する専門家派遣では、案件数自体が少なく、概して協力実施に向けて派遣専門家へ提供される情報が少ないと思われる。事前研修において応用可能な情報への要請が高いのも、アジア諸国への赴任と比べ、情報が少ないことに起因していると考えられる。他方、アジアの事例としてのインドネシアでは、派遣専門家の数が多いことや、貿易研修センターに対する支援が長年にわたることから、情報量も多いことが窺われる。
【貿易・投資分野協力の有効性・インパクトについての比較】
 これまでのアフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムの評価からは、受益国政府職員に対する人材育成の有効性や技術移転のインパクトが確認されているが、民間部門に対する有効性・インパクトという点では、必ずしも十分に波及しているとは言いえないことが確認された。他方、インドネシアを事例とするアジアに対する貿易・投資分野協力の評価では、民間部門を含めた人材育成の有効性やインパクトを見ることができる。

5-4 貿易・投資分野におけるアジア・アフリカ協力の考察
【アフリカにおける民間部門への技術移転の促進】
 アジアとアフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムを比較した場合、民間部門の人材育成の効果や技術移転のインパクトに違いが見られ、アジア・アフリカ協力でも、民間部門の育成を意図した協力が重要と思われる。
 研修員受入と専門家派遣を通じた民間部門の育成には時間もかかり、協力の有効性・インパクトを計ることは容易ではない。それでもインドネシアの事例で見られるように、アジアでは、協力を通じた民間部門への技術移転が比較的進んでおり、貿易・投資分野協力の裨益対象の拡大が、経済発展にも寄与していると考えられる。
 アフリカに対して研修員受入を行う場合、アフリカの研修員OBによる帰国報告や技術移転を、自国の政府機関内部に対してだけでなく自国の民間部門をも対象として行うような誘因を持たせることが重要である。アジア諸国が政府部門から民間部門への技術移転を効果的に実施している経験と方法を伝えることは、アフリカ諸国が自国の民間部門への技術移転を行う取組みを促す契機になると思われる。
【貿易・投資分野における地方への技術移転】
 技術移転のインパクトは、受益国全土に広く伝播することが期待されるが、アジアにおける貿易・投資分野協力の地方展開は、アフリカにとっても示唆に富む経験であると思われる。インドネシアにおける事例では、貿易研修センターが地方において研修コ?スを開講している他、投資調整庁地方部局の投資促進活動は、投資機会拡大の活動、投資関連情報の発信に寄与している。こうしたインドネシアの事例に見られる地方展開の技術をアフリカに伝えることは、地方への技術移転の伝播が未発達であると思われるアフリカ諸国にとり、貿易・投資分野の開発を進める上で貴重な参考事例になるものと考えられる。
【アフリカにおける貿易・投資分野の開発拠点造りの支援】
 アフリカにおける貿易・投資分野での技術移転のインパクトを高めるためには、開発拠点造りを進めることが1つの方法と思われる。インドネシアの貿易研修センターは、インドネシア国内の貿易・投資分野の開発拠点であるだけでなく、東南アジア諸国における中核的な南南協力の拠点の1つとしても位置付けられている。また、インドネシアの他には、我が国や国連工業開発機関(UNIDO)の協力によりマレーシアに設置された「アジア・アフリカ投資・技術移転促進センター(通称ヒッパロスセンター)」*7も貿易・投資分野の技術協力の拠点として知られている。


第6章 アフリカに対する貿易・投資分野協力全般への考察(TICAD IIIに向けて)

6-1 第3回アフリカ開発会議と我が国の貿易・投資分野協力
 我が国がアフリカに対して実施した貿易・投資分野協力プログラムを評価した結果から得られた教訓では、プログラムの目的は、TICADプロセスにおけるドナー国としての役割に照らして妥当性を備えたものであったと思われる。しかし、研修員受入後のフォローアップ体制が十分ではないことの他、貿易・投資分野の実際的な活動を担う民間部門に対して協力のインパクトが十分繋がっているとは言い難い点も確認された。
 一方、インドネシアを事例とするアジアでは、貿易・投資分野協力プログラムが広くインパクトをもたらしており、協力の波及効果がアフリカよりも広い範囲にわたっている点が見受けられた。さらに、アフリカに対する貿易・投資分野協力と比べて、インドネシアに対する協力では、民間部門の育成を意識した研修コース設定が見受けられ、貿易・投資分野協力の開発拠点の発展と共に、人材育成や技術移転の方法として、地方に対する活動の展開が見られる点も特徴的である。
 こうした我が国のアジアに対する貿易・投資分野協力事例を踏まえると、我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力についても、さらに有効性とインパクトを高める余地が残されていることが認められる。そして、アジアに対する貿易・投資分野協力から得られた利点や成果をTICADプロセスにおいて共有することは、第3回アフリカ開発会議においても有益な取り組みであると思われる。

6-2 我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力のあり方
【地域性を踏まえたアフリカに対する貿易・投資分野協力と拠点造り】
 アフリカは地域によって、経済成長や産業基盤の状況が異なるため、貿易・投資分野協力についても、地域的な特色を考慮することが重要であると思われる。また、ODAの効率的且つ効果的な実施という観点からも、アフリカの地域性を考慮することの意義が考えられる。
 1998~2002年度にかけてJICAが実施した貿易・投資分野協力の研修員受入実績では、南アフリカ共和国(南アフリカ地域)、エジプト(北アフリカ地域)、タンザニア(東アフリカ地域)、ケニア(東アフリカ地域)、ガーナ(西アフリカ地域)に対する協力が多い。アフリカの特定国に対する援助配分は、これらの国を各地域の中核的な援助対象国と位置付け、その地域への援助効率を高めるという利点も見られると思われる*8
【アフリカの民間部門に対する裨益を意識した貿易・投資分野協力】
 プログラムの結果についての評価で見たように、我が国の研修員受入、専門家派遣を通じた貿易・投資分野協力プログラムは、受益国政府職員への裨益が中心であり、民間部門に対する協力の有効性・インパクトが十分に及んでいない点が確認された。こうした点から、我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力についても、民間部門への裨益を意識した協力を実施することが期待される。
【アフリカに対する貿易・投資分野協力における受益国リソースの活用】
 アフリカ受益国の人材等のリソースを活用することは、現地の貿易・投資分野の実情に精通した人材活用に繋がり、受益国のニーズをより適確に把握した上で協力を実施できる利点がある。アフリカにおいて第三国研修を行う場合も、アフリカの大学や研究機関、産業団体等から講師、教材作成の人材を採用することは、受益国のニーズや考え方に則した研修を実施することにも繋がることが考えられる。
【アフリカに対する貿易・投資分野協力と繋がりのあるその他の協力との連携の推進】
 本調査では、貿易・投資分野協力プログラムの具体的な形態として、研修員受入と専門家派遣を取り上げたが、貿易・投資分野協力では、これら以外に、「開発調査」や「経済インフラ整備」の協力を実施する中で、貿易・投資分野と繋がりのある協力を検討することも考えられる。その場合、プロジェクト方式技術協力のように、研修員受入と専門家派遣による協力を補完的に進める援助を常に検討することが望まれる。


*1 各地域に含まれるアフリカ諸国は次の通り:北アフリカ(アルジェリア、エジプト、リビア、モーリタニア、モロッコ、スーダン、チュニジア)、西アフリカ(ベニン、ブルキナ・ファソ、ケープ・ヴェルデ、コート・ジヴォアール、ガンビア、ガーナ、ギネア、ギネア・ビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、セネガル、シエラ・レオネ、トーゴ)、東アフリカ(ブルンジ、コモロ、コンゴ民主共和国、ジブチ、エチオピア、ケニア、マダガスカル、ルワンダ、セイシェル、ソマリア、タンザニア、ウガンダ)、南アフリカ(アンゴラ、ボツワナ、レソト、マラウィ、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、南アフリカ共和国、スワジーランド、ザンビア、ジンバブエ)
*2 財団法人国際開発センター、外務省委託「TICADIIIの開催へ向けての支援調査」(2001年12月)
*3 同上。
*4 同上。
*5 JICAホームページ「貿易・投資促進」。
*6 本船渡条件。受主荷側に運賃支払い、船積み決定権があり、買手が手配した本船に約定品を積み込むまでに要する一切の費用とそこまでの危険を売手が負担する。(出所:社団法人日本ロジスティックス協会監修「基本ロジスティックス用語辞典」白桃書房)。
*7 ヒッパロスセンターの設立は、1998年10月開催のTICADIIにおいて、民間セクターの役割を重視すると共に、アジアとの貿易、投資・技術移転の促進を通じて、アフリカの民間セクターの発展を実現していくための組織設立を小淵首相が表明したことを契機とする。1999年に設置された同センターの主な活動は、1)外国投資を求めるアフリカ諸国の経済状況、投資環境、投資機会等に関する情報の紹介、2)アフリカからアジアへ派遣される民間使節団の受入、3)アフリカ投資を考えるアジア企業へのアドバイス提供、4)アフリカ諸国の投資誘致能力向上のための技術協力である。
*8 この点については、外務省経済協力局技術協力課に対する聴き取りでも、地域への波及効果への期待が言及された。


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