本調査では、我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力について、研修員受入と専門家派遣をプログラムの総体と考え評価を実施した。そして、アフリカと比べて我が国による貿易・投資分野協力実績が多いインドネシアをアジアの事例と位置付け、比較の対象とした。
本章では、前章までのプログラム評価と貿易・投資分野におけるアジア・アフリカ協力の検討を踏まえ、第3回アフリカ開発会議(TICAD III)に向けた、アフリカに対する貿易・投資分野協力全般への考察を行う。
6-1 第3回アフリカ開発会議と我が国の貿易・投資分野協力
2003年9月末に開催を予定している第3回アフリカ開発会議(TICAD III)は、1993年に開催された第1回アフリカ開発会議(TICAD I)から10年目という節目に開催される。この間、アフリカ開発協力の動きとしては、TICADプロセス以外にも、米国がサブサハラ・アフリカとの貿易関係を促進するため「アフリカ成長機会法」(AGOA)を成立させたこと、EUがコトヌ協定を締結し、EBA*1を成立させ、アフリカとの貿易機会拡大に努めていること、またアジアでは中国が「北京宣言」を通じ、アフリカと中国との通商関係を強化している等の動きが見られた。
一方、先進諸国における経済成長の鈍化や、2001年9月11日に米国で発生した同時多発テロ、アフガニスタンやイラクにおける国際問題が続いたことにより、世界の耳目がアフリカ以外の地域に向けられ、アフリカ開発への関心が低下することについての懸念が見られる。しかし、アフリカ開発は、依然として、国際社会における最重要課題の一つであり、貧困問題やHIV/AIDSの蔓延、民族紛争等、多様な開発課題への挑戦が続いているのがアフリカの現状である。
こうした状況の下で開催が予定されているTICADIIIは、アフリカ開発の問題意識をドナー並びにアフリカ諸国と共有・喚起する場としてだけでなく、具体的なアフリカ支援策と実行を検討する場としても、重要な会議として位置付けることができるであろう。
アフリカにおける貿易・投資分野の開発は、アフリカ諸国の貧困削減戦略や国家開発計画において経済開発の原動力として位置付けられている。そして、TICADプロセスにおいても「アフリカの世界経済への参画」を進めるための方策として明記されている。
貿易・投資分野協力の成果は、開発協力の努力だけによって達成されるものではなく、実際の貿易・投資活動を担う民間部門の積極的な参画があって初めて可能となる。アフリカに対する貿易・投資分野協力でも、民間の活動を重視した取組みが必要であり、すでにTICAD IIの「東京行動計画」には、「民間セクターの開発」がセクター目標の1つとして位置付けられている。
我が国がアフリカに対して実施した貿易・投資分野協力プログラムを評価した結果から得られた教訓では、プログラムの目的は、TICADプロセスにおけるドナー国としての役割に照らして妥当性を備えたものであったと思われる。しかし、研修員受入後のフォローアップ体制が十分ではないことの他、貿易・投資分野の実際的な活動を担う民間部門に対して協力のインパクトが十分繋がっているとは言い難い点も確認された。
一方、インドネシアを事例とするアジアでは、貿易・投資分野協力プログラムが広くインパクトをもたらしており、協力の波及効果がアフリカよりも広い範囲にわたっている点が見受けられた。さらに、アフリカに対する貿易・投資分野協力と比べて、インドネシアに対する協力では、民間部門の育成を意識した研修コース設定が見受けられ、貿易・投資分野協力の開発拠点の発展と共に、人材育成や技術移転の方法として、地方に対する活動の展開が見られる点も特徴的である。
こうした我が国のアジアに対する貿易・投資分野協力事例を踏まえると、我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力についても、さらに有効性とインパクトを高める余地が残されていることが認められる。そして、アジアに対する貿易・投資分野協力から得られた利点や教訓をTICADプロセスにおいて共有することは、第3回アフリカ開発会議においても有益な取り組みであると思われる。
*1 | EBA: EUは2001年3月、後発途上国で生産される武器以外の全産品(Everything but Arms)に無関税、 割当制限なしで市場参入を認める新しい措置の導入を決定した。特に最も貧しいとされる49カ国の後発途上国を対象とする。但し、農業1次産品(米、砂糖、バナナ等)について、長期の移行期間を設けている。 |