5-3 我が国のアフリカとアジアに対する貿易・投資分野協力の比較
本節では、アフリカとアジアに対する貿易・投資分野協力プログラムの実績並びに評価の比較を行い、両地域におけるプログラムの相違を整理する。
5-3-1 協力実績についての比較
アジアは我が国のODA大綱でも重点地域と位置付けられ、且つ、我が国の民間部門の貿易・投資先としての位置付けから、我が国政府・民間双方にとって極めて関心の高い地域である。一方、アフリカは、アジアと比べると、開発段階において基礎的社会インフラ(教育、保健部門)等への開発ニーズが依然として高く、我が国の民間部門にとっても貿易・投資先としての関心は必ずしも高いとは言えない。
こうしたアジアとアフリカに対する認識の相違は、我が国のアジアとアフリカに対する貿易・投資分野協力の実績の相違にも歴然と表れている。第2章で示したように、1998~2002年度にかけて、我が国がアフリカから研修員を受け入れた数は114人であるが、アジアの事例として、インドネシア一国だけを取り上げても、研修員受入数は206人に上る。また、1998~2002年度にかけての派遣専門家の数も、短期・長期の専門家の数を足しても、アフリカには9人を送っているにすぎない。一方、インドネシア一国だけの事例を見ても、同期間における派遣専門家数は45人である。
5-3-2 研修コース名、専門家指導科目についての比較
アフリカに対する研修員受入の場合、一般集団研修が多く、研修コース科目は「貿易・投資促進」、「投資環境法整備」、「貿易保険」等である。また、アフリカに対する専門家派遣は、エジプトの貿易研修センター運営支援に関係するものが多く、研修講師として派遣された短期専門家の指導科目は「貿易促進」、「輸出戦略」等が見られる。
同センターは2002年に研修コースを開設したばかりであるため、研修コースの数や種類は限定的である。
他方、アジアの事例としてのインドネシアに対する協力では、アフリカの研修員に対する研修コース科目の他、「物流」、「商社設立」、「マーケティング」、「国際商契約」、「工業デザイン」等、民間部門への裨益を意識した科目が多く含まれている。
5-3-3 協力に係る情報量の比較
アフリカに対する専門家派遣では、案件数自体が少なく、概して協力実施に向けて派遣専門家へ提供される情報が少ないと思われる。事前研修において赴任国の専門分野に関する情報への要請が高いのも、アジア諸国への赴任と比べ、情報が少ないことに起因していると考えられる。他方、アジアの事例としてのインドネシアでは、派遣専門家の数が多いことや、貿易研修センターに対する支援が長年にわたることから、情報量も多いことが窺われる。
5-3-4 貿易・投資分野協力の有効性・インパクトについての比較
これまでのアフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムの評価からは、受益国政府職員に対する人材育成の有効性や技術移転のインパクトが確認されているが、民間部門に対する有効性・インパクトという点では、必ずしも十分に波及しているとは言いえないことが確認された。他方、インドネシアを事例とするアジアに対する貿易・投資分野協力の評価では、民間部門を含めた人材育成の有効性やインパクトを見ることができる。
アジアに対する貿易・投資分野協力プログラムについて、有効性・インパクトをもたらしている要因は、インドネシアを事例とするならば、貿易研修センターを中核として政府職員や民間部門の人材育成が進められ、インドネシアの地方においても、同様の研修コースの提供が行われ、人材育成の機会が設けられている点が挙げられる。さらに政府職員である研修員OBと民間部門との接触が多く、政府部門から民間部門への裨益を行う機会が多いことも見受けられる。政府部門から民間部門への裨益の機会という点では、インドネシアの事例は、政府・民間部門の間に比較的強い連携・交流関係が見られ、アフリカの脆弱な政府・民間関係と異なる点である。
アフリカでもエジプトでは貿易研修センターの運営が進められており、我が国からも短期・長期専門家が派遣されている。アフリカの同センターの研修コースは2002年度より運営を開始したばかりであるため、インドネシアのように研修コースの地方での実施にまでは至っていない。