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第5章 インドネシアに対する貿易・投資分野協力の評価とアジア・アフリカ協力

 本章では、インドネシアに対する我が国の貿易・投資分野協力の現状を把握し、その評価を行う。ここでもアフリカに対する貿易・投資分野協力プログラム同様、1998~2002年度に我が国によって実施された研修員受入と専門家派遣を1つのプログラムの総体とみなして評価を行う。アジア諸国の中でも、我が国の対インドネシア貿易・投資分野協力は、研修員受入数や派遣専門家数において最も多くの実績を有している。また、インドネシアは地域の開発への取組みや「南南協力」への関与が見られるため、我が国のアジアに対する貿易・投資分野協力プログラムの事例としてインドネシアを取り上げ、アフリカに対する同協力プログラムとの比較・検討を行うことにより、アジア・アフリカ協力の可能性について検討を行う。

5-1 インドネシアに対する貿易・投資分野協力

5-1-1 インドネシアの貿易・投資動向
 インドネシアは、経済発展を通じた貧困削減、地域格差是正を国家開発(5ヵ年計画)の目標に掲げているが、1997年のアジア経済・金融危機は、インドネシアの経済成長にも影響をもたらした。経済構造改革のため、1997年10月、インドネシアは国際通貨基金(IMF)の支援を受けると共に、貿易自由化、外国直接投資誘致を踏まえた規制緩和政策を進めている。2000年以降、インドネシア経済は、年率3~5%程度の成長を持続するとともに、為替、物価も安定的に推移しており経済回復を見せている。
 表5-1に見るように、インドネシア貿易収支は大幅な黒字を計上している。1998年以降の貿易額は、輸出額及び輸入額において、2000年に大幅な増加が見られたものの、翌年再び減少傾向に転じており、安定して増加傾向にあるとは判断しきれない。 
 インドネシアに対する外国直接投資額(認可額)は、アジア経済・通貨危機の影響を受け、外国企業全体では、1999年から2000年にかけて対1998年比で3分の1の水準にまで減少したが、2001年以降1998年の半分程にまで回復した。一方、日系企業の直接投資額に関しては、2001年に上昇傾向に転じたものの、1999年以降減少傾向にあり、2000年及び2002年には、1998年の8分の1程度にまで落ち込んだ。(表5-2参照)。

表5-1 インドネシア貿易の推移

表5-1 インドネシア貿易の推移
出所:JETRO貿易白書 原典:インドネシア中央統計局(BPS)



表5-2 インドネシア外国直接投資の推移

表5-2 インドネシア外国直接投資の推移
出所:インドネシア投資調整庁(BKPM投資認可金額)



図5-1 インドネシア外国直接投資の推移

図5-1 インドネシア外国直接投資の推移


5-1-2 インドネシアに対する貿易・投資分野協力の実績
 インドネシアは、2億人以上の人口を有し、我が国に対する石油・ガス等の天然資源の供給国としても位置付けられている。1997年のアジア経済・金融危機以降、適切な経済改革を通じた経済の回復と民生の安定を図ることが重要な課題となっており、アセアン経済の発展と安定においても、その中核として重要な役割を担っている。こうした背景を踏まえ、インドネシアに対する我が国の2国間ODA供与額は、他ドナーとの比較では、開発途上国国別援助実績でみた2000年までの累計において第1位であり*1、協力分野も多岐に渡っている。特に、貿易・投資分野におけるインドネシアに対する研修員受入や派遣専門家を通じた協力実績は、アセアン諸国の中でも人数の規模で最大である。
 インドネシアからの貿易・投資分野の研修員受入数は、年度によって大きく変動しているが、1998~2000年度にかけては合計206人の研修員を受け入れている(表5-3参照)。2000年度には、108人と研修員受入数に著しい増加が見られたが、このうち105名は「インドネシア貿易研修センター」での研修受講者である。また、2002年度の70人のうち、60人は同センターがインドネシアの地方で開講した貿易促進能力向上コースの研修受講者によって占められている。
我が国へ研修員を招聘する形での協力は、1998~2002年度にかけて、平均3~5人程度である。一方、派遣専門家についても、その殆どが貿易研修センターにおける研修講師としての派遣である。
 こうした背景から、我が国のインドネシアに対する貿易・投資分野協力は、貿易研修センターの事業を中核として進められていると言える(Box4参照)。

表5-3 我が国のインドネシア研修員受入・専門家派遣数(商業・貿易分類)

表5-3 我が国のインドネシア研修員受入・専門家派遣数(商業・貿易分類)
出所:JICA管理データより作成。注:派遣専門家数には短期専門家を含む。



Box 4:インドネシア貿易研修センター(IETC)運営支援

 わが国によるインドネシア貿易研修センター(IETC)運営支援は、1989年のフェーズ1から現在のフェーズ3(2002~2006)にかけて、15年が費やされている大型プロジェクトである。
 IETCは、1989~1990年の設置準備を経て1990/91年度より研修事業を開始した。当初、運営は我が国による機材供与や、人材育成、IETCの建設等の支援によって進められてきたが、2002年には、ほぼインドネシア政府からの補助金額と同額の収入(品質検査手数料、研修受講料)を得ることが出来たことで、IETCの自立発展性も軌道に乗りつつある。
 IETCはインドネシア国内における研修事業の他、域内協力の一環として、日本・アセアン諸国との「遠隔会議・ビジネスマッチング*2」を実施している。
 IETCの運営支援は、プロジェクト方式技術協力の形態を取り、専門家派遣の他、IETCの運営に携る人材育成のための研修員受入、インドネシア人研修講師の養成並びに機材供与が行われている。ジャカルタに開設されたIETCは、研修事業を地方にも展開するようになり、現在は、スマトラ、ジャワ、カリマンタン、スラウェシ、バリ、東西チモール、マルル、イリアンジャヤの8地方で研修事業が実施されている。

区分 年度 協力内容
フェーズ1 1989~1994年 ■長期・短期専門家派遣
    ■センター建設、機材供与、図書館整備
    ■カウンターパート研修
フォローアップ 1994~1995年 ■長期・短期専門家派遣
フェーズ2 1997~2001年 ■貿易部門の人材育成
    ■機材供与
    ■長期・短期専門家派遣
    ■カウンターパート派遣(日本へ招聘)
フォローアップ 2001~2002年 ■長期・短期専門家派遣
フェーズ3 2002~2006年 ■地方貿易研修・振興センター設立(RETPC)


*1 「政府開発援助(ODA)国別データブック」2001、外務省経済協力局編
*2 「遠隔会議・ビジネスマッチング」は、インドネシア、タイ、日本の3ヶ国をネットワークで結び、遠隔会議を開催し、製品の競争力の強化、貿易の拡大についての方策を探ることを目的に過去2回実施されている。


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