広報・資料 報告書・資料

第4章 アフリカ貿易・投資分野協力の評価と教訓・提言

4-4-1 プログラムの総合評価
(1)プログラムの目的

 アフリカに対する貿易・投資分野協力のプログラム目的は、専門知識の付与やその運用能力の向上を通じて、貿易・投資政策立案や実施に寄与すること、また、同様に貿易・投資分野活動の推進に貢献することと考えることができる。これらのプログラム目的は、我が国の援助政策や、TICADII「東京行動計画」、アフリカの開発ニーズに照らした場合、整合性を備えていることが検証された。

(2)プログラムのプロセス
 プロセスの検証では、アフリカに対する貿易・投資分野での研修員受入と専門家派遣の実施プロセスについて適切性を検証した。研修員受入の割当国選定や研修員選考
では、適切な運営が行われたことが確認されたが、研修員の選考については、受益国における候補者選考の段階から我が国が関与することへの要請が確認された。また、研修終了後のフォローアップが十分に実施されていないことも検証された。
 専門家派遣のプロセスでは、要望調査から専門家派遣までに1年近い時間を要する場合が確認され、派遣プロセスの時間的短縮と受益国ニーズ(最も適切な専門家の確保・派遣)のバランスに配慮する必要性が確認された。また、専門家が赴任してから、業務環境の改善や対処に苦慮することが多い点も検証され、業務の効率的な実施に向けて、我が国とアフリカ受益国の間の緊密な連携が望まれる。

(3)プログラムの結果
 プログラムの結果の検証では、アフリカに対する貿易・投資分野での研修員受入と専門家派遣の実施を通じて、人材育成の有効性や技術移転のインパクトを検証した。研修員受入による人材育成の有効性について、研修員自身の業務に応用可能な研修に参加することへの期待が確認されたが、概ね、研修実施に対しては、高い評価が見られる。一方、専門家派遣を通じた人材育成の有効性は、所属機関におけるカウンターパートの配置や所属機関内部における意思決定等によって、左右されることが検証された。
 技術移転のインパクトについては、研修員OBによる所属機関内での知識共有化や、派遣専門家の業務を通じた技術移転の取組みに委ねられている。研修員OBによる知識共有化の取り組みは、アンケート調査でも何らかの形で大半が実施していることが確認されており、政府部門での技術移転は、多少のインパクトをもたらしていることが窺われる。一方、政府部門から民間部門への技術移転は、政府部門と民間部門の連携が緊密ではないことから、波及効果が限定的であることが検証された。


4-4-2 プログラムの評価から得られた教訓と提言
(1)プログラムの目的評価から得られた教訓と提言

TICADと我が国の貿易・投資分野協力の関係性の明確化
 我が国はTICADプロセスを推進している主要国として、アフリカ諸国に対する開発協力もこのTICADプロセスを踏まえることが前提になると思われる。アンケート調査では、アフリカ諸国は、TICADプロセスと我が国の協力の強い関連性を意識しないまま協力を受け入れている場合があるように見受けられる。この意識の乖離の背景として、我が国のアフリカに対する協力の意志や情報が、アフリカ諸国に充分伝達されていない可能性が考えられる。
 我が国の貿易・投資分野協力プログラムが、TICADプロセスの持続的な実施に向けて、TICADとの関係性のなかで進められていることをアフリカ受益国も認識できるような取組みが求められる。

(2)プログラムのプロセス評価から得られた教訓と提言
フォローアップ実施のための体制造り
 本調査を通じて、研修員受入に係る貿易・投資分野協力に対するフォローアップが実施されていないことがアンケート調査の回答によって確認された。その理由として、フォローアップ体制が十分に構築されていない点が挙げられる。
 研修員が帰国後、継続して同じ職場や部署に在籍しているとは限らないため、フォローアップ体制の構築自体が難しい面があるが、今後、研修員受入事業を進める上で、留意すべき点であると思われる。フォローアップの実施法法として、「同窓会ネットワークの構築」や「E-learningの利用」等の要望が研修員OBから聞かれたが、通信事情が許されるなら、新たなフォローアップ実施方法として検討に値するのではないかと思われる。

専門家派遣に要する時間と業務環境の改善
 専門家派遣のプロセスについて、要望調査の実施から専門家の派遣にいたるまで1年近くの時間を要す場合があることが確認された。その間に受益国の担当者が代わってしまうという事態も指摘されており、より迅速な専門家派遣のプロセスと共に、在外公館やJICA在外事務所による受益国のニーズの継続的な調査が求められる。また、専門家の赴任に際しては、事前に専門家が理解していた業務範囲と実際の業務内容が異なる場合も見られ、赴任後の業務環境の改善や対処に関し、赴任前後の時点で、十分な検討と調整を進めることが必要である。更に、専門家の業務遂行に関しては、機材の不足や言語上の問題、また、指導相手や上長の方針等により人材育成やインパクトに関し多大な影響がもたらされることが本調査で確認されたことから、在外公館やJICA在外事務所等と専門家の緊密な連携と共に派遣専門家への継続的な支援が望まれる。

(3)プログラムの結果評価から得られた教訓と提言
研修内容の適切性―応用を重視した研修内容ヘの移行
 本調査では、より実践的且つ研修員の国情を踏まえた研修内容の提供が期待されていることが確認された。我が国の研修内容への全般的な評価は高いものの、研修員が帰国後に、学んだ知識・技術を自国の貿易・投資分野に応用することが可能であれば、我が国の研修事業への評価はさらに高まると思われることから、より具体的事例的なカリキュラムの設計の検討が望まれる。

貿易・投資分野協力における民間部門への波及効果
 我が国の研修員受入、専門家派遣を通じた貿易・投資分野協力では、直接的な裨益者は受益国政府職員とする場合が多いが、受益国政府職員に対する技術協力の成果は、民間部門へも移転され、貿易・投資促進に活用されることが期待されるものである。
 アフリカ諸国の場合、政府職員の能力向上を図るニーズも依然として強いが、それ以上に、民間部門の貿易・投資分野における基礎的知識が乏しい、という点が指摘された。例えば、FOB(Free on Board)*1という貿易実務の基礎となる知識に乏しい地場業者も少なく無いと言われる。こうした現状を踏まえ、研修員OBや派遣専門家を通じた民間部門の人材育成や技術移転が重要であることヘの意識を研修員や派遣専門家に付与する方法を検討して良いのでないかと思われる。

技術移転のインパクトを高めるための「政府・民間連携」ヘの支援
 研修員受入と専門家派遣を通じた技術移転の有効性やインパクトを高める方法は、現在、研修員OBや派遣専門家の意欲と自主的な活動に委ねられており、現状では、こうした波及効果を高めるための環境・制度造りが十分に行われているとは言えない。
 我が国の貿易・投資分野協力が政府職員を中心に今後も実施され、その協力を通じて民間部門の育成を支援する場合、アフリカ受益国内での、ビジネス・政府関係の緊密化が不可欠であると思われる。こうした観点から、貿易・投資政策の策定やその促進が、政府と民間の相互協力があってはじめて実現することを踏まえれば、アフリカにおけるビジネス・政府関係を強化させるための支援も重要な協力になるものと思われる。

受益国におけるデータベース構築の支援
 貿易・投資分野に関する情報は、迅速且つ正確に政府を通じて民間へ伝達される必要があるが、データベースの未整備により、受益国の貿易・投資活動の円滑化への支障が懸念される。情報管理上の機材不足や人材不足は多くのアフリカ諸国において見られる課題であるため、プロジェクト方式技術協力等のスキームを一例として、貿易・投資分野協力のデータベース構築の支援を行うことも今後必要と思われる。


*1 イ本船渡条件。受主荷側に運賃支払い、船積み決定権があり、買手が手配した本船に約定品を積み込むまでに要する一切の費用とそこまでの危険を売手が負担する。(出所:社団法人日本ロジスティックス協会監修「基本ロジスティックス用語辞典」白桃書房)。


このページのトップへ戻る
前のページへ戻る次のページへ進む目次へ戻る