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第4章 アフリカ貿易・投資分野協力の評価と教訓・提言

4-3 プログラムの結果についての評価

 本調査で評価対象としている、我が国のアフリカに対する貿易・投資分野の人材育成や技術移転を目的とする研修員受入と専門家派遣による貢献と、これらの協力がアフリカの貿易・投資分野の経済指標にもたらす変化の相関性を捉えることは容易ではない。また、評価対象であるアフリカに対する我が国の研修員受入と専門家派遣の実績の少なさを鑑みると、これらの協力の効果やインパクトを検証する場合も、定量的な評価を行うことは困難であると思われる。
 こうした事情から、本調査のプログラムの結果についての評価では、貿易・投資分野の経済指標等による定量的評価を避け、研修員受入と専門家派遣の関係者に対する聴き取り、アンケート調査への回答、並びに各事業における終了評価報告書等の既存文書を主な情報源として、次の評価項目に対しての定性的評価を実施した。

プログラムを通じた人材育成の有効性
我受益国における技術移転のインパクト
受益国における貿易・投資関連の情報蓄積の程度

4-3-1 プログラムを通じた人材育成の有効性
 貿易・投資分野協力のプログラムを構成する研修員受入と専門家派遣が、受益国政府職員の当該分野における人材育成に有効であったか否かについて、現地調査におけるヒヤリング、関係諸機関へのアンケート調査回答を情報源として検証を行った。
 研修員受入の場合、研修員自身の能力開発という側面が主として挙げられる。アンケート調査への回答では、我が国の貿易・投資分野協力は政府職員の人材育成に概ね役立っているとの見解が示された。研修員受入については、「途上国の貿易・投資上の課題に触れている点で、重要な役割を果たしており、また様々な国からの参加者の経験をシェアする機会でもある」として、研修コースの受講が、参加者の知識獲得や業務上の課題を検討する上で有益な機会であることが確認された。
 受講した研修コースの内容についても、概ね役立つものであったという回答が示される一方、「講義内容は一般的な内容を扱うことに終始している」という点も指摘されている。研修員OBの一部からは、「研修参加者が抱える貿易・投資上の課題を応用させた講義、あるいは貿易・投資分野でのOJT(On the Job Training)を通じた研修」の要請も示された。また、今後期待したい技術協力の分野としては、市場調査方法、投資促進、インキュベータープロジェクト*8の運営方法が挙げられた。
 アジア・アフリカ協力の観点からは、「日本や東南アジア諸国がどのようにして開発を成し遂げたのかという開発モデルの学習への関心」(ケニア輸出加工区庁/研修員OB)の他、「資源制約があるにも関わらず発展したシンガポールの政策」、「サービス貿易分野の改革への関心」(ケニア輸出振興局/研修員OB)が示された。
 こうした結果から、我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力としての研修員受入は、全体的に高く評価されていることが分かるが、研修内容については、各国の実情に照らした応用可能な研修等も望まれていることも窺われる。また、「特に貿易促進コースといったテーマでは、直接、民間部門に対しても提供されるべきである」という指摘も見られ(エチオピア研修員OB)、人材育成の対象を政府部門の他、民間部門にまで広げることによって、我が国が実施する研修の有効性の幅を広げる余地があることも確認された。
 一方、派遣専門家が実施する人材育成は、所属機関内部での派遣専門家の配属先や、指導相手の能力・職位によって、派遣専門家を通じた人材育成の有効性も異なってくることが検証された。例えば、派遣専門家が、受入機関により配属されたカウンターパートの指導に関し、そのカウンターパートが所属機間の上長によって評価されない場合、専門家によってカウンターパートに移転された専門知識や技術が所属機間内において、その影響力や波及効果が限定されたものに留まってしまう懸念が指摘された(エジプト/投資フリーゾーン庁・派遣専門家)。
 こうした所属機関内部の組織上の課題は、我が国の協力における管轄を超える問題と考えられ、改善を求めることは容易ではないと思われる。しかしながら、組織内部の課題が派遣専門家の業務遂行や協力の有効性に影響をもたらす場合、在外公館やJICA在外事務所との協議を通じて、受益国政府に対して、状況の改善要請を行うことも必要と思われる。

4-3-2 受益国における技術移転のインパクト
 我が国のODAを通じた貿易・投資分野協力は、直接的な裨益者は受益国政府職員や政府機関職員を念頭において進められている。そのため、同分野の協力がインパクトをもたらす裨益対象は、第一に受益国政府と言えるが、貿易・投資分野の活動は、民間部門が主体であることを踏まえると、協力の成果が民間部門ヘも移転され、貿易・投資促進に対しても同協力が裨益することが期待される。その意味において、民間部門に対する技術協力のインパクトを検証することもここでの重要な視点である。
 第1の受益国政府内部における技術移転のインパクトについて、研修員受入を通じた協力では、研修員OBが帰国後、所属機関内部または所属部署等に対して、何らかの情報共有のための機会を設け、技術移転を図ろうとしたか否かという観点から検証を行った。その結果、大半の研修員OBは口頭あるいは文書配付によるプレゼンテーションを行い、研修で得られた知識の移転を図ろうとしていることが確認された。
 専門家派遣を通じた技術移転のインパクトについては、事例は少ないものの、カウンターパートに対して作成した提言書が評価されたという派遣専門家のコメントも見られ、受益国の政策立案等に対して知識の移転が認められる。
 第2の民間セクターに対する技術協力のインパクトに関しては、研修員OBが自国の民間部門と会合を設け、研修で得た知識や技術の移転を図っているとするコメントも一部には確認されたが、大半のアンケート調査回答では、政府・民間の間で会合の機会が乏しく、十分には民間部門に対して技術移転が行われていないことが指摘された。そして、民間セクターとの情報共有の機会が少ない理由として、アフリカ諸国においては、政府と民間の間で相互不信が見られ、協力関係が弱いという状況が挙げられた。
 派遣専門家は、原則として政府機関内部に所属し技術協力を行うため、直接、民間部門へのインパクトをもたらす機会は少ないと考えられる。それでも、ケニアの専門家の報告では、貿易実務に関するリーフレットを作成し、民間業者も利用できるようにしたことで、技術移転を民間部門にまで波及させた事例が見られる。
 こうした研修員受入と専門家派遣による技術移転のインパクトを民間部門まで波及させる仕組みは、現在、制度的に確立されているわけではなく、研修員OBによる知識共有化や民間部門への技術移転の取組み、派遣専門家による業務を通じた技術移転の努力等に委ねられていることが確認された。

4-3-3 受益国における貿易・投資関連の情報蓄積の程度
 プログラムのインパクトとしては、さらに受益国における貿易・投資分野関連の情報蓄積にどの程度、影響をもたらしたかという点を検証した。研修員受入を通じた情報蓄積では、研修で得た教材や資料を資料室に保管し、職員が閲覧できるようにしているという例(ケニア輸出加工区庁)の他、エジプト国内の主要企業リストの構築等*9が挙げられる。また、ケニアの派遣専門家は貿易実務のリーフレットを作成し、民間部門にも配付した事例は、情報蓄積の一つと捉えることができるであろう。
 しかし、多くのアフリカ諸国では、民間部門を含めアクセスが可能な、電子情報データベース等の構築が遅れており、カメルーンのアンケート回答でも、データベースを構築するための機材不足と人材不足が指摘された。

Box 3:エジプト貿易研修センター(FTTC)の運営支援と技術移転

 エジプト政府が運営しているエジプト貿易研修センター(FTTC)は、2002年にエジプト人への貿易・投資分野協力を目的に運営を開始し、現在までに21回の研修コースを開催、延べ473人の受講生を受け入れた。FTTCはエジプト政府が重点政策として掲げる貿易振興を進める一環として設立された政府系の研修機関であり、我が国はこのFTTC設置の準備段階から運営支援に至る現在まで、継続的に専門家を派遣している。
 受講対象者は、大学新卒者、企業でマーケティング経験を5~10年有している者、企業の教育・研修担当者、大使館の商務担当者・資格試験受験者、貿易省の商務担当者、各ビジネス団体のメンバー等が挙げられている。また、FTTCは、エジプト人の人材育成だけではなく、他のアフリカ諸国(特にアラブ諸国)への技術移転も念頭に置いて今後の運営を計画しており、アフリカにおける南南協力の役割を担う機関としても期待を集めている。
 現地調査で入手した資料に拠れば、受講生のうち、約20%は政府関係者で、80%は私企業と非政府団体関係者であった*10。我が国の支援は、FTTCの運営支援という位置付けではあるが、この協力を通じ、政府関係者を直接の裨益者とするだけではなく、民間部門へも広範に技術移転が進められていることが分かる。研修参加者に対して行われた事後評価では、研修後に研修員が学んだ知識を所属組織や同僚に移転しているかとの質問に対して、概ね報告をしていることが示された。
 現状では、FTTCによる研修は始まったばかりであり、幾つかの問題点も指摘されている。例えば、研修生の質が高くないこと、講師の選定方法が確立していないこと、教材が系統立てて改善されていないこと、が挙げられている。
 なおFTTCは、インドネシアの貿易研修センター運営(Box 4参照)にも関心を示しており、長期的な観点から今後の事業拡大が期待されている。


*8 インキュベーションとは、本来孵化、孵化期間を意味し、ここから計画や考えを具体的に実施・実現に移行するまで或る一定期間公的機関等による研究や助成の対象(プロジェクト)とすること(Oxford Dictionary)
*9 現地聴き取りに基づく。
*10 「エジプト貿易研修センター(FTTC)が実施した研修等の実績:所長及び各部担当者から聴取したもの」(派遣専門家より入手)。


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