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第4章 アフリカ貿易・投資分野協力の評価と教訓・提言

4-2 プログラムのプロセスについての評価
 
 本節では、アフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムを構成する、研修員受入並びに専門家派遣のプロセスが適切に実行されたか否かについて検証する。
 研修員受入と専門家派遣は異なる実施プロセスを有するため、各々について実施プロセスを検証する。
 なお、本調査では貿易・投資分野の研修員受入と専門家派遣を対象としているが、他の協力分野(例えば、農業分野等)と比較した場合、プロセス自体には大きな差は見られない。

4-2-1 研修員受入のプロセスの実態と適切性
 貿易・投資分野協力における研修員受入には、多様な国からの研修生が混合する「一般研修(集団研修)」、特定国への仕様に基づく「国別特設研修」、さらに専門家派遣、研修員受入、機材供与などを有機的に組み合わせ、計画の立案から実施、評価までを一貫して実施する「プロジェクト方式技術協力」*7を通じた研修に大別される。ここでは、これらの中で代表的な協力形態である一般研修(集団研修)のプロセスについて検証する。

(1) 研修員受入のプロセスの実態
 研修員受入のプロセス検証にあたり、概ね下記のプロセスによって協力が実施されることが確認された。

1)研修実施の検討
 研修実施の検討では、在外公館を通じて「統一要望調査」を受益国政府に対して行う際、研修コースについて要望の打診を行う。

2)研修実施案の策定
 統一要望調査の結果を受け、JICA国内事業部、JICA国際センター、研修実施機関との間で、研修内容等について協議を行い、研修実施案の策定を行う。

3)研修員選考と決定
 受益国政府において選考・決定した研修員候補者リストが、大使館、JICA在外事務所へ通報され、JICA国際センターへも伝達される。研修員候補者リストを元に、研修実施機関、JICA国際センターの間で、研修コースの目的や受講条件等を考慮に入れ選考を行う。

4)研修の実施
 研修の実施に際しては、研修員による中間検討会の実施、研修成果報告書の作成・発表が行われる。研修終了後、帰国した研修員は、受益国政府への帰国報告を行うことが期待されている。

5)研修業務の終了
 研修を担当した研修実施機関並びにJICA国際センターは、反省会を開催し、研修の「完了報告書」を作成する。反省会並びに完了報告書は、次年度以降の研修員受入事業の参考資料として活用される。

 次項に示した図4-3は、研修員受入のプロセスをフローチャート化したものである。

図4-3 研修員受入プロセスのフローチャート(PDF)


(2)研修員受入のプロセスの検証
研修コース策定の適切性
 統一要望調査に基づき割当国案を作成する際に、外務省や研修実施機関と十分な協議を行ったかという問いについて、研修実施主体であるJICA国内事業部からは「ある程度協議した」という回答が示された。
 研修コース策定については、地域によって対応に温度差が見られることが確認された。例えば、外務省経済協力局技術協力課に対する聴き取りでは、我が国のアジアに対する貿易・投資分野協力プログラムの事例として、第5章で取り上げるインドネシアについては、貿易・投資分野の観点から関心が高く、研修コース案件策定時にも関係者より多くの意見が出されるが、アフリカ諸国に対しては、それほどの強い関心は見られないとのことであった。
 なお、我が国の貿易・投資分野協力では、日本貿易振興会(JETRO)などを通じた協力も行われていることから、JICAの協力内容と重複が無いよう、JICA以外の同分野協力内容を確認した上で、JICAによる協力案件を策定していることが外務省経済協力局技術協力課への聴き取りによって確認された。

割当国選定の適切性
 割当国選定に際しては、外務省経済協力局技術協力課や、研修実施主体であるJICA国内事業部が中心となり、審議を行うことが確認された。JICA国内事業部に拠れば、「割当国選定に際しては、外務省や研修委託機関との間で、ある程度協議をしたが、受益国の国家開発計画等はあまり検討しなかった」という回答も示された。外務省経済協力局技術協力課への聴き取りでは、この段階での割当国の選定については、とくに基準を設けているわけではなく、要請を受け、その国に対する国別援助計画・方針などに示された重点事項を踏まえ、要請が妥当なものであるかを検討していることが確認された。また、政策的な判断から割当国の選定が行われる場合もあり、選定調整は状況によって異なることも確認された。
 なお、割当国選定について、アフリカの研修員OBの一部からは、「アフリカと中東の研修員を一緒にすると、中東からの研修員がアフリカの研修員を見下すような対応を取るような場合がある」と指摘され、一般研修を行う場合の割当国選定に際しての配慮を要することが確認された。

研修員選考の適切性
 研修員選考では、基本的には援助実施機関であるJICAによって選考が進められることが確認された。
 受益国側での研修員選考については、多くの研修員OBあるいは研修員派遣機関より、概ね適切に実施されたという認識がアンケート調査結果で示されている。しかし、研修員選考は、基本的に受益国側の責任において行われることになっているため、ドナー国である我が国もこの研修員選考に関与しても良いのではないかとする要請も見られる。例えば、「民間部門を含めた多様なステークホルダーによる共同作業として、研修員選考に係るニーズアセスメントが必要ではないか」とする指摘や、「研修員の選考段階から日本側も積極的に参加することが望まれる」とするコメントが寄せられている(エチオピア貿易産業省/研修員OB回答)。
 実際のプロセスでは、受益国より推薦された研修員を、我が国の関係諸機関が選考し、最終的に研修員を決定するため、我が国が研修員選考のプロセスに十分に関与していないわけではない。但し、本調査で得られたコメントでは、研修員選考プロセスに日本側が一層、関与できる余地が残されている点が窺われる。
 また、研修員選考の対象についても、「政府職員だけを対象とするのではなく、民間部門の人材にも対象を拡大すべきではないか」とのコメントが見られる。
 エジプトの貿易研修センター運営支援では、協力対象は政府職員であっても、同センターの研修を受講するのは、エジプトの民間部門が大半である事実から、間接的ながら民間部門へも裨益している実態を見ることができる。しかし、一般集団研修を通じた研修員受入では、政府職員を対象とする場合が多いが、貿易・投資分野については民間の役割が大きいことから、民間部門に裨益する協力のあり方を検討する余地が残されている。民間部門を直接・間接裨益者として位置付けるか否かという課題は、プログラムの結果における「技術協力のインパクト」という観点からも重要と思われる。

研修運営の適切性
 本調査では、研修運営について大きな問題点は見受けられず、研修事業実施の際の評価会や反省会から得た教訓についても、十分に活用されていることが示された(JICA国内事業部回答)。同回答では、研修員や実施機関によるコメントを次年度の研修プログラム作成に反映させるように留意していることも指摘されている。研修形態の多くは、日本へ研修員を招聘する形であるが、アフリカにおいて研修を実施し、第三国からの研修員を受け入れる場合もある(Box 2参照)。また、受益国側からは「多くの政府職員に対して研修参加機会を与えるために、早い時期に年間プログラムを送付して欲しい」との要望が示された。

フォローアップの適切性
 フォローアップの適切性について検証を行った結果、研修員OBに対するフォローアップは十分に実施されていないことが確認された。フォローアップについては、JICA在外事務所等を通じて組織的に実施する体制が整備されておらず、研修員OBへの帰国後のバックアップが不足していることが確認された。また、研修員OBのアンケート回答にも、フォローアップの不十分さを指摘するコメントが見られ、フォローアップへのニーズが強いことが判明した(エチオピア貿易産業省/研修員OB回答)。
 この点についてはJICA国内事業部によるアンケート回答でも、研修員OBとの交流は殆ど無いとの認識を示しており、その理由としてフォローアップ体制が整っていない点を挙げている。

Box 2:「WTOに関するセミナー」研修生による研修評価

 エジプトで開催された「WTOに関するセミナー」は、日本よりWTOの専門家を派遣し、エジプトの他、アフリカ諸国の政府職員を対象として実施された。このセミナーはJICAとエジプト技術協力基金(EFTCA)の共催によるもので、WTOに関する基本的知識、WTO協定、WTOにおける紛争処理システム等についての知識を深めることを目的とし、アフリカ各国政府職員を対象とした。主としてWTO協定に関する講義と質疑応答によって構成され、研修終了後、エジプト技術協力基金は参加者に対してアンケート調査による、研修の事後評価を行っている。
 セミナーの目的をどの程度認識していたかという設問には、参加者の殆どが「認識していた」、「十分認識していた」という回答を示した。また、カリキュラムの設計については、全員が「適当」という回答を示した。レクチャーや議論の時間配分については、一部、「レクチャーが多過ぎる」、「時間が長過ぎる」、という回答も見られるが、殆どは「適当」という回答であった。
 セミナー管理については、宿泊施設等への評価は大半が「適当」、「良い」とする回答であったが、参加者への支給金については、半数以上が「極めて貧弱」と回答した。費用が不足していたとするコメントの理由として、カイロの宿泊先近辺での食事代として資金が不足した点が挙げられる。
 管理面については、多少の不満が見られるものの、セミナーにおける参加者同士の社交プログラムの設置は高く評価され、参加者同士のコミュニケーションも半数以上が「良い」という評価をしている。そしてセミナーを通じた知識の獲得については、全員が、「十分に得た」、あるいは「得た」と回答している。
 全体として、同セミナーに対する参加者の達成感、満足度は高かったことが窺われる。


4-2-2 専門家派遣のプロセスの実態と適切性

 専門家派遣は、短期並びに長期に渡る派遣に大別されるが、以下では、長期の専門家派遣を代表として、その派遣に係るプロセスを検証する。なお、専門家派遣は、受益国の要請に基づく単独の協力案件や、プロジェクト方式技術協力に係るものがある。

(1)専門家派遣のプロセスの実態
 専門家派遣プログラムのプロセス検証にあたり、概ね下記のプロセスを経てプログラムが実施されることが確認された。

1)要望調査の実施
 専門家派遣に際しては、在外公館並びにJICA在外事務所を通じ、受益国に対する専門家派遣の要望調査が出される。その結果は外務省、JICA並びに関係省庁に打診され、案件の協議・審査が行われる。その際、受益国の開発課題を把握し、総合的な観点から検討がなされる。

2)受益国政府による専門家派遣要請
 受益国政府より派遣要請書(A1フォーム添付)が在外公館並びにJICA在外事務所へ送付され、外務省本省、JICA本部を通じて専門家候補の推薦、リクルートを進める。

3)専門家派遣の通報
 派遣専門家が決定された後、在外公館並びにJICA在外事務所を通じ、受益国政府に対して専門家派遣決定の通報(B1フォーム)が行われる。

4)派遣専門家への事前研修
 派遣専門家の決定後、専門家に対する事前研修を行い、派遣が行われる。

5)派遣専門家の受益国への赴任
 派遣専門家はJICA在外事務所に着任の通知をし、受益国政府が専門家受入を行う。受益国政府との間で業務実施計画書について確認・合意がなされた後、専門家は業務を遂行する。専門家は「業務実施計画書」を作成し、受益国政府(受入機関)との間で、業務実施内容の確認・調整を行う。赴任期間中、派遣専門家は必要に応じセミナーまたはワークショップを開催し、受益国所属機関、JICA在外事務所等を含む現地関係者を交え業務実施の今後の方向について協議を行う。

6)派遣任期の終了
 任期終了に伴い、専門家は「総合報告書」を作成し、受益国政府並びにJICA在外事務所へ同報告書を提出する。提出された総合報告書はJICA本部へ転送される。
 帰国後、派遣専門家は外務省技術協力課、同関係局・課、JICA本部、その他関係省庁に対して帰国報告を行う。

 次項に示した図4-4は、専門家派遣プロセスをフローチャート化したものである。

図4-4 専門家派遣プロセスのフローチャート(PDF)


(2)専門家派遣のプロセスの検証
案件採否並びに実施案件形成の適切性
 専門家派遣の案件採否については、在外公館、関係省庁等、関係者を交えた協議がプロセスの一つとして位置付けられている。外務省経済協力局技術協力課によれば、その際、受益国の貿易・投資分野ニーズについても、ある程度検討されていることが確認された。また、同課への聴き取りでは、現地のニーズに関する情報は、本省よりも在外公館並びにJICA在外事務所の方がより多くの情報を持っているとの認識から、現地からの情報を重視していることも確認された。

専門家確保の適切性
 専門家候補者の選考にあたっては、外務省、在外公館、関係省庁、JICAの間で協議が行われる。JICA国内事業部に拠れば、「候補者が省庁推薦である場合、その推薦を受けJICAの責任で専門性・適格性を判断している」。専門家派遣に係る方針や案件については、複数の関係諸機関の合議に基づき形成されるが、候補者の選考以降は、基本的にJICA国内事業部に委ねられることが確認された。
 貿易・投資分野協力における専門家派遣では、民間企業における貿易実務の経験者や、JETROにおける貿易・投資促進実務の経験者を派遣することが多い。また、派遣専門家への応募については、日本での所属機関による紹介や、貿易・投資の関係省庁・機関からの推薦に基づく場合が多いことが確認された。
 要望調査の実施から専門家派遣に至るまでに要す時間は、半年から1年以上の時間を要する場合があることが在外公館への聴き取り調査を通じて指摘された。この点に関して、本調査では受益国側からの不満の声は確認されなかったが、受益国のニーズに迅速に応えるため、時間短縮の観点からしかるべき対応の余地があると思われる。

事前研修の適切性
 専門家派遣に係る事前研修については、聴き取り並びにアンケート調査等によると、「役立った」とする感想と、「役立たなかった」とする感想に二分される。役立たなかった理由としては、「事前研修での情報として、現地着任後すぐに活用できるノウハウや情報が不足していた」という点が指摘された。例えば、「事前研修後、すぐに赴任する予定の専門家も見られるため、搬送・輸送機材の話は研修の前半に行う方が良い」との指摘もある(エジプト品質管理機構/派遣専門家)。そして「事前研修の中で、専門家OBによる経験談があると良い」との指摘も見られた(エジプト品質管理機構/派遣専門家)。また、事前研修を受けながらも、「JICA在外事務所へ提出する所定フォームの記入方法が分からず、現地事務所に相談した」というケースも見られる(エジプト貿易研修センター/派遣専門家回答)。こうした専門家並びに専門家OBのコメントを踏まえると、事前研修内容も、個別的、実践的且つ現実に則した内容にすることへの期待が窺われる。

業務実施環境の適切性
 専門家の業務は、専門家による業務実施計画書の作成と、受入機関との業務内容の調整を経て進められるが、赴任後に、受入機関との間で、当初予定していた業務範囲と異なる認識が見られる場合もあることが聴き取り調査で確認された。
 また、業務範囲の認識の相違だけではなく、業務を遂行するための職場環境についても、赴任前には予想できない障害が待ち受けている場合が多いことも検証された。機材の貸与や消耗品の支給についても、受入機関にリソースが不足しており、十分には支給されない場合があり、一部の派遣専門家は、自ら持参した機材を活用することで対応を迫られた旨、コメントを寄せている。また、言語環境への対処について、エジプトでは所属機関内での指導や提言も、アラビア語が主言語であり、専門家自身がアラビア語の素養を持っていることが必要であり、それが適わない場合でも、英語とアラビア語に堪能な秘書が必要であると指摘している。
 このように、派遣専門家の業務実施環境については、実際に専門家が赴任するまでは業務上の環境が不透明な場合も見受けられ、派遣専門家が着任後、効率的に業務を遂行するためにも、在外公館あるいはJICA在外事務所等を通じて事前の周到な準備・調整を受益国政府と行うことが必要であると思われる。

中間報告の適切性
 派遣専門家は適切に中間報告を実施しており、JICA在外事務所内にその報告書が保管されている。派遣専門家は、報告を通じて、業務の進捗や業務上の課題解決を常にJICA在外事務所へ提起していることが窺われる。また、こうした中間報告は、JICAによる専門家派遣事業の効率的な業務実施の把握と改善にも役立てられる。

最終報告の適切性
 外務省経済協力局技術協力課への聴き取りでは、JICA勉強会や専門家報告会を通じて、派遣専門家による「最終報告書」を入手し、次年度以降の協力を検討する場合の資料として十分活用していることが確認された。派遣専門家が赴任した国にJICA在外事務所が設置されている場合には、最終報告書は当該国のJICA在外事務所にも保管されている。特に継続的な協力の場合、こうした前任者による最終報告書は、後任の派遣専門家が業務に携る上で、貴重なリソースとして利用が可能であり、数少ないアフリカに対する専門家派遣の場合も、活用されていることが確認された(JICA在外事務所聴き取り調査、外務省経済協力局技術協力課聴き取り調査)。
 派遣専門家は業務終了時、最終報告書を、受益国政府(専門家受入機関)、在外公館、JICA在外事務所へ提出することとされている。最終報告書は、専門家自身による自己業務評価が含まれる他、専門家自身が直面した業務上の課題や今後のあるべき援助内容等へのコメントが盛り込まれている。これらの有益な情報は、技術協力に関わる関係者の間で十分に活用されることが期待されている。


*7 JICAは「『プロジェクト方式技術協力』の概念を基本に、類似の技術協力事業(専門家チーム派遣、研究協力、アフターケアなど)を統合して、より幅広く、柔軟にプロジェクトを展開できるよう、『技術協力プロジェクト』という考え方を2002年度から導入」している(JICA年報2002年度)。


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