本章では、アフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムの目的の妥当性・整合性、プロセスの適切性、結果の有効性・インパクトを検証する。ここでは1998~2002年度に実施された我が国のアフリカに対する貿易・投資分野の研修員受入と専門家派遣をプログラムの総体として位置付け、総合的に評価する。
なお、本調査では、エジプト並びにケニアでの現地調査の他、研修員受入と専門家派遣実績のあるアフリカ諸国に対しては、当該在外公館、JICA在外事務所の他、当該国の研修員OB、研修員派遣機関、専門家、専門家受入機関へアンケート調査を実施し、これらの情報を基に評価を行った。我が国の研修員受入と専門家派遣を通じたアフリカに対する貿易・投資分野協力は、第3章で概観したように必ずしも実績が多いわけではない。そのため、評価を行うための情報源としての聴き取り調査結果やアンケートへの回答・コメントも限られた範囲であったことを予め付記する次第である。
4-1 プログラムの目的についての評価
プログラムの目的の評価では、アフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムの目的が、我が国の援助政策、TICAD IIにおける「東京行動計画」、そしてアフリカ受益国ニーズに照らして、妥当性・整合性を備えた目的であった否かを検証する。プログラムの目的の評価を行うにあたり、まずアフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムの目的について整理を行う。
我が国の技術協力の実施機関であるJICAは、研修員受入事業について「開発途上国・地域の中核となる行政官、技術者、研究者に、それぞれの国で必要とされる知識や技術を伝えること」*1を協力の意義として掲げ、専門家派遣事業については「経済、社会開発の中心となる行政官や技術者に、実情に即した技術を移転したり、提言を行い、人造り、組織・制度づくりに貢献すること」*2を協力の意義として掲げている。
JICAは、貿易・投資促進関連協力への取り組みの背景として「途上国が貿易・投資自由化のメリットを享受するためにはルールおよび運用方法に関する理解、人材リソース、政策立案能力、交渉能力、国内法実施能力等の不足」*3を挙げ、途上国に対する貿易・投資分野での人材育成、技術移転の必要性を掲げている。
一方、アフリカに対する貿易・投資分野の協力については、これまでの協力実績から人造りを中心に支援が行われ、貿易振興や投資誘致等とも関係する「市場経済システムを担う人材の育成」等に重点が置かれている*4。
本調査では、研修員受入と専門家派遣の各技術協力から構成される貿易・投資分野協力の総体を1つのプログラムとみなしているが、上述のJICAによる各技術協力の実施の目的、貿易・投資分野の協力の取り組み、そしてアフリカに対する貿易・投資分野の協力の取り組みを踏まえると、プログラムの目的の1つとして、貿易・投資分野の専門知識の付与、その知識の運用能力向上を通じたアフリカ受益国政府の貿易・投資政策立案・実施への貢献、さらにアフリカ受益国政府の貿易・投資活動推進への貢献を挙げることができる。
また、アフリカに対する貿易・投資分野協力としては、ODA中期政策に「人材育成及び政策立案・実施能力構築への支援」、「経済自立に向けた工業・農業等の開発への支援」が示され、同時にTICADIIの「東京行動計画」では「経済開発」支援策に重点が置かれている。こうした背景から、ドナー国の役割に照らして妥当性を備えた協力を行うことをプログラムの目的の1つと考えることができる。
さらに、貿易・投資分野の協力を行う際、アフリカ受益国の開発計画等を踏まえた協力が必要であるという前提から、アフリカ受益国の開発ニーズと整合性のある協力を行うこともプログラムの目的の1つと捉えることができる。
以上により、本調査では、アフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムの目的を下表のように整理し、これらに基づきプログラムの目的の評価を行うこととする。
アフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムの目的
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4-1-1 我が国の援助政策に照らしたプログラムの目的の妥当性
我が国の援助政策は、ODAの援助実施理念を定めたODA大綱を基軸として、ODA中期政策、さらに中期政策の下部に位置付けられ個別の受益国に対する援助政策を示した国別援助計画あるいは国別援助方針による一連の政策体系に基づいている。以下、これらの援助政策で示された貿易・投資分野協力に照らして、プログラムの目的が妥当性を備えていたか否かを検証する。図4-1は、我が国の援助政策体系における我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力の目的を体系化したものである。
図4-1 我が国の援助政策体系におけるアフリカに対する貿易・投資分野協力の目的体系図
以上の検証により、アフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムの目的は、我が国の援助政策に照らして妥当性を備えたものであったことが窺われる。 4-1-2 TICADII「東京行動計画」に照らしたプログラムの妥当性 1998年に開催された第2回アフリカ開発会議(TICADII)の議論を通じて採択された「東京行動計画」では、開発項目の一つとして「経済開発:民間セクターの促進」が明記され、次のサブセクター目標が設定された。
このサブセクター目標に対して、受益国の行動計画とドナー国の行動ガイドラインが示されている。このサブセクター目標の中で、本調査が主に対象とするのは「民間セクター開発」と「工業開発」である。「民間セクター開発」に関するドナー国の役割として、次の項目が掲げられている。
また、「工業開発」に関するドナー国の役割として、次の項目が揚げられている。
図4-2は「東京行動計画」を体系化したものであるが、色付けしているところは我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムと関係していると思われる部分を示している。 図4-2 我が国のアフリカに対する貿易・投資分野協力プログラムと「東京行動計画」との関係性 |
4-1-3 アフリカ受益国の開発ニーズに照らしたプログラムの整合性 (1)北アフリカ地域
一方、「産業開発」では、輸出振興の基盤としての民間セクター開発を重視しており、その戦略としては、次の11項目を掲げている。
貿易分野の重点事項の1つである「国際貿易」では、「生産及び輸出能力の開発」が掲げられており、プログラムの目的の1つである「貿易分野の専門知識の付与、運用能力の向上」と整合性を備えていることが窺われる。 チュニジアの事例 (2)東アフリカ地域
これらの政策目標の中で、貿易・投資分野は、「持続的且つ急速な経済成長の促進」における分野別重点政策の一つと位置付けることができる。この政策目標達成のため、6つのセクター別優先開発戦略があげられているが、その内の1つ「観光・貿易及び産業セクター」が貿易・投資分野に密接に関連していると思われる。 エチオピアの事例 (3)西アフリカ地域
この政策項目の中で我が国のプログラムの目的と関係が深いと思われるのは、「民間セクターと起業家の育成」である。ここでのガーナ政府の開発ニーズは、民間セクターを成長させるための環境整備である。貿易分野については、市場経済に基づく貿易自由化を推進することとしており、他方、投資分野では、民間投資促進や民間投資保護のための政府機関設置が示されている。 カメルーンの事例
この開発テーマの中で、「貿易自由化と地域統合を深化・促進する」、「輸出拡大」は貿易分野のニーズを示しており、また、「民間投資を誘発する環境を生み出すための良好なガバナンス、透明性の確保、責任説明の促進」が投資分野のニーズを示している。さらに、投資分野については、政府及び民間の両セクターによる投資促進支援の構築、投資機会に関する公示と研修メカニズム構築の施策・実施も開発ニーズとして掲げられている。 (4)南アフリカ地域
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