1.中国・「地方都市上下水道整備3事業(10都市)」 第三者評価実施者: 堀 健二 株式会社エヌジェーエス・コンサルタンツ 宮川 朋弘 監査法人太田昭和センチュリー |
中国は1978年に端を発する改革・開放政策を受け、多くの都市で近代化政策を推進した結果、商工業の発展、人口の都市集中化、生活水準の向上等による水需要が急速に増加、各都市にて水不足が顕著となり社会問題化していた。また、配水管未整備と漏水による配水圧の低下、地下水の過剰汲み上げによる地下水位の低下、浄水施設の過負荷運転による水質の悪化といった問題も生じるに至った。このため、特に緊急に状況改善の必要が認められる計10都市(南京、成都、徐州、鄭州、天津、合肥、鞍山、厦門、重慶、昆明)において水不足を改善し、将来の水需要の増大に対処するために、合計317万立方メートル/日の給水施設を整備することが必要となった。本評価は、1)四都市上水道整備事業、四都市上水道整備事業(2)(南京、成都、徐州、鄭州)、2)三都市上水道整備事業(天津、合肥、鞍山)並びに3)三都市上水道整備事業(厦門、重慶、昆明)をまとめて評価したものである。
本事業により給水施設能力整備は、対象3事業合計で計画時の317万立方メートル/日に対し、実績が314万立方メートル/日とほぼ目標を達しており、その結果、現在の水需要がカバーされるとともに、都市によっては将来の水需要に十分対応できる給水能力のある施設が整備された。
事業効果について、天津を除く9都市において生活用水の給水量が増加している。増加理由は、住民の生活レベルの向上による水道使用量の増加によるものであるが、給水能力が向上したことで、逼迫していた水道需給の改善につながり、結果的に家庭衛生環境の改善等が図られたと考えられる。また、各都市の市政府公用局または市政管理局に所属する自来水公司(水道事業公社に相当)によると、水事業の完成により、天津市を除く9都市で水質の改善がみられたとの報告があり、その理由として、本事業の浄水場の処理水質の良さを挙げているものが7都市を占めた。
自来水公司の組織・構成は事業体の規模および多角的事業を行うなどの経営方針によって各都市毎に異なるが、各都市とも省都または省を代表する大都市であり、水道事業体としては大規模である。特に、維持管理面については、自来水公司の本部機構に修理工作室が設置され、ポンプ、モーター、メーター、弁類の修理が可能で、工員は30人から50人規模で配属されており、平常の維持管理には十分な体制が組織されている。水質管理面でも、各浄水場で水質分析室が設けられ、また自来水公司内に水質分析センター、監視センターが設けられ、水道法による項目を分析、監視しており、十分な体制がとられている。
2.フィリピン・「メトロマニラ交通網総合インパクト評価」 第三者評価実施者: 家田 仁 東京大学大学院教授 溝上 章志 熊本大学教授 城所 哲夫 東京大学大学院助教授 |
フィリピンに対する円借款の開始以来、メトロマニラにおける交通プロジェクトに数多くの円借款が供与されており、それらプロジェクトは都市交通のみならず、都市全体およびプロジェクト影響圏の社会経済活動や人々の日常生活に大きなインパクトを与えたものと考えられていた。今回、下記円借款交通10案件のインパクト評価を実施することによって、交通混雑、安全、大気汚染、生活環境等の住民の生活に関する種々の影響を明らかにした。
プロジェクトが実施されなかったと仮定した場合との比較において、交通シミュレーションに基づく定量的な分析の結果、各プロジェクトの経済的内部収益率は高く、対象プロジェクト全体で33%、道路建設・改良プロジェクトは48%、交差点改良プロジェクトは24%であった。 また、各プロジェクトは直接的あるいは間接的に都市圏の経済成長に貢献した。交通量削減については、プロジェクトが実施されなかったと仮定した場合と比較して、マニラ首都圏の道路の平均混雑率は10%減少し、平均走行速度も7%上昇した。利用者アンケート調査や沿道住民アンケート調査の結果、首都圏内のモビリティ(動きやすさ)およびアクセス性が高まったとの回答を得ており、利用者・住民の満足度は高い。プロジェクト影響地域住民は、プロジェクト完成後大気汚染状況が悪化したと感じているが、これは交通量の増加によるところが大きい。しかし、都市圏レベルでみると、円借款プロジェクトが仮に無かったとすると、汚染物質の総排出量は円借款プロジェクトがあった場合に比べてかなり大きいことが2015年を対象とした分析から明らかである。全プロジェクトによる削減量は、CO2で4.2%、NOxで0.6%、SOxで3.0%、SPMで1.7%と推定された。
3.タイ・「環境保護促進計画」 第三者評価実施者: 佐々木俊治 株式会社三菱総合研究所 林 欣吾 株式会社三菱総合研究所 高木 健氏 株式会社三菱総合研究所 |
1990年代初頭、タイでは高度成長が進展する一方で、環境の悪化が問題となっていた。本事業は、工業に起因する環境汚染問題を解決するため、民間企業の環境対策装置 (公害防止装置) の導入促進を目的に実施された。借款形態は、円借款資金をタイ産業金融公社(IFCT) に貸付け、それを原資としてIFCTが中長期・低利・固定金利の公害防止装置購入・設備導入資金をエンド・ユーザーたる民間企業に転貸(サブローン)するという、ツー・ステップ・ローンの形式をとっている。
環境保全対策への取り組みが遅れている民間企業を対象に低利融資を行うという本事業の目的は、当時の同国の国家経済社会発展計画とも合致し、妥当であったと言える。また、本事業により環境対策装置を導入した企業において、何らかの環境改善効果がなされており、事業計画は概ね妥当であった。
貸出実行期限を当初の1998年5月から1999年5月に1年間延長したものの、IFCTに対する円借款貸付実行総額が当初計画額の7割程度に留まった。原因としては、タイ国内の経済情勢の変化から企業の環境関連投資が大きく減少したことと、市中金利が本事業の転貸金利を大幅に下回る水準になったことにより、実施時期の当初では想定していたほど企業からの応募が多くなかったことなどが考えられる。
本事業を通じて環境対策装置を設置した企業の多くでは、環境改善効果が得られており、事業に対する企業側の評価も高かった。本事業による貸付金全体の84%が排水処理施設の設置に使われ、結果としてBODなどの水質汚濁物質の排出負荷量が低減し、地域社会に対してより清浄で安全な大気、水などが提供された。環境改善によるインパクトを経済的に分析した結果からも、一定の効果がみられると言える。しかし、同国全体のレベルで見ると、本事業での実施工場数は非常に少ないうえ、各工場の規模も小さく、広域にわたり明確な影響を及ぼしているわけではない。
現地調査において訪問した5工場を対象として、環境対策装置の設置による環境への効果について費用便益分析による経済的評価(仮想市場評価法
現地調査を行った工場では、設備は順調に稼働しており、環境改善効果は十分果たしている。しかしながら、一部では、維持管理状況は必ずしも良好とはいえない工場もあった。
4.タイ・「大規模湖沼漁業開発事業」 第三者評価実施者: 松本 彰 株式会社アイ・シー・ネット 井田 光泰 株式会社アイ・シー・ネット |
タイ内陸部貧困地域に位置する3湖沼(ブンボラペット湖、ノンハン湖およびクワンパヤオ湖)はいずれも、堰等の老朽化により十分な水位が維持できず、漁業資源が減少するとともに、洪水調整能力も低下していた。タイ政府は第6次国家経済社会開発5ヵ年計画(1987~1991年)で地方の貧困緩和を重要視しており、本事業は、湖沼改修と種苗放流の増加による湖沼の漁業資源(漁獲高)の増大、種苗の生産・供給の増大および養殖技術普及による周辺地域の養殖事業の振興、湖沼改修による水位調整機能の強化とそれに伴う農業生産の拡大への貢献を目標とし策定され、長期的には内陸部貧困地域における農漁民の所得向上・栄養状態改善への貢献が上位目標であった。
3湖沼に隣接する漁業ステーションで、種苗生産および養殖技術普及活動を実施した結果、種苗生産量は増加し、生産された種苗は事業対象湖や県内の川に放流されるほか、農民の共同池に無料配布されるなど、貧困農民の支援に貢献した。種苗生産量増加および湖沼改修による湖沼の水位上昇により、特にブンボラペット湖で、養殖事業が拡大しており、養殖従事世帯数、面積、生産量ともに倍増している。3湖沼のうち、ノンハン湖およびブンボラペット湖で貧困緩和インパクト評価のため簡易農村社会調査等を実施した。その結果、ノンハン湖周辺では、貧困世帯中で最も便益を受けたのは湖沼周辺に土地を持つ小規模零細農家であり、湖沼からの水が安定的に供給されることで乾期の作物栽培が可能となり、所得向上につながったことが認められた。土地なし農民や漁民の一部も乾期作物栽培への労務提供という形で収入の手段を増やすことができた。また、湖沼周辺の農民は自家消費用に漁獲を行う世帯が多く、湖沼への放流事業が安価な食材を提供するという側面もあった。一方、漁民については、在来種の減少、漁獲サイズの小型化により収入面で厳しくなっているとの声があがっている。また、商業ベースの養殖業に従事する世帯は少なく、養殖による所得向上というインパクトは見られなかった。ブンボラペット湖では、専業漁民が多く、湖沼への放流事業は直接彼らの生活を支える活動となっていた。また、周辺農家が湖沼からの安定した水供給を利用して乾期に作物栽培を始め、乾期における農作業と養殖業への労務提供という形で土地なし農民が収入の手段を増やすことができるようになった。ノンハン湖と同様に、低所得者への安価な食材提供の役割についても認められた。一方、当初は漁業ステーションの種苗は販売と放流が主目的であったが、他機関との連携による各種地域開発事業の支援事業としても側面も持つようになり、初等教育局と連携し、学校給食事業を支援する例など貧困緩和に寄与するものがある。本事業で建設された施設については、各漁業ステーションが維持管理にあたっており、人員面、予算面で、事業により整備された施設の運営維持に必要な措置が取られている。
5.タイ・「小規模灌漑事業(4)~(6)」 第三者評価実施者: 松本 彰 株式会社アイ・シー・ネット 井田 光泰 株式会社アイ・シー・ネット |
本事業対象地域であるタイ北部および東北部は、雨期には十分な稲作灌漑用水を得ることができず、また、乾期には畑作灌漑さえ困難である他、時には旱魃による生活用水の不足も生じていた。従って、これらの地域で小規模灌漑施設を建設し、貯水を行うことは緊要であった。本事業は大規模水源施設の恩恵を受けない農村地域に小規模・多数の用水施設を設け、灌漑・畜産・養魚・生活用水を確保し、農業生産の増加・安定および民生の向上を目指すことを目的とし、タイ北部および東北部を中心に計2,094ヶ所の小規模灌漑施設(貯水池、堰、水量調節施設等)を設置し、併せて建設及び補修用の機器・スペアパーツを調達した。
本評価では、主に事業による貧困緩和インパクトを評価することを目的とし、対象地域のうち、事業サイト数が最大のタイ東北部の中で、一人当たり県民総生産が最も低いシーサケット県を相対的な貧困地域とみなし、そのうち23サイトにて質問票調査および簡易農村社会調査(RRA)を実施した。結果、殆どの施設で水が供給され、かつ何らかの形で灌漑施設が利用されていた。更に、生活用水および飲料水の確保による民生の向上、灌漑用水の安定供給による稲作の増産、および漁獲による魚摂取量の増加や収入向上において、大きなインパクトが見られた。その一方、漁獲が盛んになるにつれ、住民間で合意された期間や漁法に従わない者が現れるなど、魚の確保をめぐる住民間の争いというマイナスのインパクトも生じた。当初予期されなかったインパクトとして、タイ正月(ソンクラーン:水かけ祭り)の際の水利用、さらに灌漑施設建設に伴うアクセス道路整備による交通利便が挙げられた。なお、期待された通りにインパクトが見られなかったものとして、家畜(特に水牛)の増産が挙げられた。
10村で収集されたインタビュー結果によると、「本事業により生じた機会をうまく活かした世帯」は農地、農機具等の資産や労働力を有し、かつ投資のリスクに耐えうるような比較的裕福な農民であった。便益としては、灌漑による土地の有効利用、乾期の作物栽培、漁獲や水生食用動物の販売による収入向上、トラクター等の農業投入財購入による農業生産の増大、さらには米関連のビジネス(仲買業、精米業等)による収入向上など多岐に渡っている。他方、「貧しい世帯」(所得が低くかつ土地や労働力が不足している世帯)は、生活用水の確保や漁獲による栄養摂取、農繁期における労働提供など、貧困緩和につながる一定の便益を受けているものの、灌漑用水を受ける農地がない(借地もしていない)等の理由で、灌漑施設の直接的な利用による経済便益(所有地での稲作生産量の増産、乾期作物栽培など)は小さかった。
全般的には「小規模な灌漑施設」による水供給は生活用水の確保となり民生の向上に貢献している。ただし、受益者の状況によって、事業からの便益の程度が異なっていることに留意する必要がある。
6.バングラデシュ・「ジャムナ多目的橋建設事業における住民移転評価」 第三者評価実施者: Hossain Zillur Rahman, Power and Participation Research Centre |
本事業は、東西間交通のボトルネックとなっているジャムナ川に、将来的に送電線、鉄道、通信、ガスパイプラインを敷設する多目的橋(片側二車線道路)を建設することにより、増加する東西間交通両に対応し輸送上の問題の解決を図ると共に西側地域の経済活動を活性化することによって東西間の地域格差是正を図り、バングラデシュの経済発展に寄与せんとするものである。
東岸堤防、東西の洪水防止用堤防やアプローチ道路などの建設のために2,860ヘクタールの用地取得が必要となり、事業の影響を受ける人々(Project Affected Persons:PAPs)の移転と補償に関する「住民移転計画」(その後改定)が策定された。本事業は、実勢価格に基づく補償額の支払いや、法令上補償対象外であった人々の生計向上支援を行うなど、従来以上に包括的な枠組の中で補償問題が取り組まれたバングラデシュでの最初の事例となった。
本事業における住民移転の補償内容には、無条件の補償と条件付きの補償があり、無条件の補償には、土地・家屋を損失したPAPsへの現金補償(50%の上乗せ金を含む)、農民や農業労働者等への一括現金補償、家屋等を失ったPAPsに対する住居移転・建設用の現金補償などが含まれる。条件付き補償には、代替土地購入者への法定評価額と実勢価額との差額支払および印紙税払い戻し、移転受入先でのコミュニティ施設の建設、本事業で整備された移転地に移転したPAPsへの土地の割当てなどがある。調査時点で、これら補償計画は明確な成果を収めている。しかし、その成果はPAPsにとって一様ではなく、ジャムナ川の東西で異なっている。全体的な世帯所得水準の向上や、地価や賃金の上昇、交通の便の改善など共通の傾向も見られるが、所得、地域の安定などの点で、ジャムナ川の東岸住民の方が西側住民よりも相対的に正の影響を受けている。これは、初期状況の違い、事業および補償計画の実施が東側で先行したこと、地元の指導者がより積極的かつ効果的な役割を果したこと、東側での用地取得面積が適度であったこと、などによるものと思われる。
住民移転の実施過程から得られた教訓も上げることができる。1)本事業は、用地取得を伴わない場合の補償の原則を作る等一定の成果を上げたにも拘わらず、バングラデシュの開発事業において伝統的な課題である過度の用地取得という問題は皆無ではなかった。しかしながら、ジャムナ川の河道の変化が激しいために多少の過度な用地取得はやむを得なかったことは考慮に入れる必要がある。2)整備移転地では、東側は高い定着率で成功であったのに対し、西側は立地に恵まれず、住民の所得は大幅に減少し定着率も60%に留まっている。3)伝統的にある程度不正が関連していたバングラデシュの用地取得に関し、本事業は、不正がどの程度起こり得るのかを、また適切な措置を取ることで最終的には不正を食いとめることが可能であることを示した。4)住民移転計画実施における地域のリーダーシップが東岸では十分に発揮されたのに対し、西岸で著しく不十分であったこと、5)「住民移転計画」の実施等において重要な役割は果たしたものの、社会変革を促す役割を期待されたNGOは事業実施上の技術的パートナーに留まったこと等も上げることができる。
7.インド・「アラバリ山地植林事業」 第三者評価実施者: 山下 彰一 広島大学大学院国際協力研究科教授 松岡 俊二 広島大学大学院国際協力研究科助教授 佐藤 寛 日本貿易振興会アジア経済研究所経済協力研究部主任研究員 |
本事業はインド北西のラジャスタン州、アラバリ山地の森林回復および地域住民の社会経済条件改善を目的とし、約15万ヘクタールの植林を行うものである。
1) | 標達成度:植林事業、事業による女性・指定部族・指定カーストの雇用創出、野生動物の生息環境改善という3目標は十分に達成された一方、地域の燃料・飼料等の充足については、目標の達成度は不十分である。総合的に事業の主要な目標は十分に達成されたと評価できるが、目標毎のデータ・モニタリング体制のプロジェクト・デザイン化の必要性などが課題として残る。 |
2) | 持続性:本事業は、森林局と住民による共同森林管理(JFM)スキームを通して、貧困と環境破壊の悪循環メカニズムをたち切り、地域における持続的森林資源利用のメカニズムを創出することを目指している。したがって、本事業の持続性評価の中心テーマは、JFMスキームが持続的に機能しているかどうかである。森林資源管理の主要なインセンティブは林地から得られる牧草であり、樹木の生育と牧草の生育を両立させることが村人による森林保護委員会(VFPMC)の持続性には必要である。現状のまま推移すると、JFMスキームに基づく森林資源管理システムが十分に機能しない可能性があり、事業の持続性を高めるためには、早期の枝打ちおよび頻繁な間伐実施などの施業体系の革新が必要であろう。 |
3) | 効率性:植林された樹木生存率は農家林業を除いて高く、また事業運営の費用と便益からみても、効率性は十分高い。 |
4) | インパクト:ポジティブなインパクトとして、家畜の質的構成の高度化(山羊などから水牛などへの変化)による環境圧力の低減、自治組織の活性化が観察されるが、ネガティブなインパクトとしては、植林地から排除された村人がいる可能性がある。 |
5) | 妥当性:本事業は、貧困と環境破壊の悪循環を断ち切る有力な施策の一つであり必要性は高い。植林事業の推進による土壌劣化および砂漠化の防止、環境改善といった本事業の目標は現時点においても有意義かつ合理的である。しかし、森林資源管理への継続的インセンティブを備えたJFMアプローチの設計という点では持続性評価にて分析したように未だ成熟したものとはなっていない。 |
6) | JFMとVFPMC:本事業は、広い意味での住民参加型開発プロジェクトに分類可能な社会林業事業であり、円借款事業がJFM支援を行った最初の事例として、貧困層を間接的にせよターゲットとして想定している点でも、先駆的な事業と言えよう。本事業は、植林関連活動への雇用、木材・燃料の優先供給などの便益という貧困層に対する経済効果があり、VFPMC活動を通じた社会開発的な効果も認められるが、これら効果は付随的なものであり、本事業の効果のみによって貧困から脱却できるとは考えにくい。 |
7) | JFMの諸効果:森林局が雇用する植林活動による賃金は一時的収入として十分な効果があり、植林地からの牧草・燃料入手による支出削減効果もある。JFM活動では、VFPMCが監視活動に参加し森林保護活動に直接的な貢献をしているところも見られた。しかし、森林保護活動を森林局の支援なしに主体的に行っているところはほとんどない。 |
8) | エントリー・ポイント・アクティビティ(EPA):EPAは本事業の対象外であるが、社会開発の視点からその重要性を勘案し評価の焦点とした。現在のEPAは住民の動機づけに時として効果を持ち、一定の社会的インフラ構築に寄与しているが、その効果の持続性には問題がある。 |
9) | JFMの課題:円借款による最初のJFM支援として本事業は一定の成果を上げている。ただし、社会開発・貧困削減の観点からは、住民組織化の方法、社会開発的活動のモニタリング体制、森林監視体制の持続性育成などに関する事前調査とモニタリングを含む、根本的な改善が必要と考えられる。 |
8.スリランカ・「大コロンボ圏水辺環境改善事業」 第三者評価実施者: 穂坂 光彦 日本福祉大学教授 佐藤 寛 日本福祉大学院生 |
大コロンボ圏はスリランカ最大の都市コロンボとその近郊地区であり、その大部分が海抜6メートル以下の低平地で構成されており、特に海抜1メートルの地域に点在する湿地帯は雨水等の一時的な貯留池(遊水地)として機能している。しかし、都市開発の進行に伴う湿地帯が減少、河川の排水機能の低下等から、毎年のように洪水が発生し、特に河川沿いに居住している都市貧困層(シャンティ・コミュニティ)の住居への浸水や疾病の蔓延などが大きな社会問題となっていた。このような状況の下、本事業は大コロンボ圏において、河川システムを整備する(河川改修、遊水地整備等)ことで毎年発生している洪水を制御すると共に、シャンティ住民の移転/居住地整備により生活環境の向上を図り、もって水辺環境の改善を図ることを目的として実施された。
本事業の実施により、河川の水位低下及び浸水頻度・被害の減少が見られた。事業対象河川の多くは2年確率(2年に一度程度)の規模の降雨にも耐えられない状態であったが、事業後の1999年4月の降雨は、25年確率の規模であったにもかかわらず、各河川の水位が堤防高以内に収まっていた。また、主要河川の最高水位は、事業完成後の方が、排水状況の改善により低水位にとどまっている傾向にあった。河川沿いの住民にアンケート調査を行ったところ、浸水頻度、浸水深、浸水時間の低下が顕著であったこと、また家屋、家財、道路交通遮断、欠勤等の洪水被害も軽減されている他、衛生状態の向上や疾病の減少等の効果も明らかとなった。
本事業において実施された住民移転および居住環境改善にかかるインパクトについても評価を行った。本事業により影響を受けたとされたシャンティは、1)オフサイトに移動した世帯が居住する再定住地区、2)同一地区内での移転や施設改善などの対象とされた改良地区、3)本事業に影響されたが関連整備がなされていない未改善地区、の3種類に分けて考えられる。結果的には、移転した住民の生活環境向上は明らかであった。特に洪水軽減、保健衛生向上、社会的認知の獲得、また地区によっては雇用増進にも好影響を及ぼした。一方、その過程において、強制立ち退きはほとんど見られなかったことが特筆される。しかし、住民は自発的に移動したのではなく、止むを得ない状況と諦めて移転した場合がほとんどであった。これは、実施機関側の工事日程や結果重視の計画思想が影響した結果であったが、他方、住民の反対や提案を受け止め、事業実施機関以外の多様なアクターの関与を認めていったスリランカの計画体制の柔軟さは、事業実施における有効な要因の1つであった。各地区における居住環境の変化は様々であった。再定住地区では、多くの場合、移転直後、施設整備の遅れがもたらした居住困難を経験した。しかし、その後、移転地での住民組織が再生され、事業実施機関側との交渉で施設建設が進められ、また本事業外のさまざまな団体や援助機関の活動の投資に伴い、住民自らが生活環境改善に積極的に関わる姿が見られた。
9.ケニア・「ナクル上下水道整備に係る合同評価」 第三者評価実施者: 中村 正久 滋賀県琵琶湖研究所 辻村 茂男 滋賀県琵琶湖研究所 柿澤 亮三 財団法人山階鳥類研究所 |
我が国はケニア共和国への支援の一環として、有償資金協力(円借款)により大ナクル地域東部地区の上水道整備を行う「大ナクル上水事業」を実施し、引き続いて開発調査および無償資金協力「ナクル市下水道施設修復・拡張計画」によって、ナクル市内の下水・排水処理施設の修復・拡張を行った。
上水事業の施設は計画通りに完成しており、その機能に特段の問題はない。また、社会調査の結果、受益者は総じて健康・衛生状態等において便益を得ている。評価時点の給水量は、計画供給量の6~7割の達成率であるが、本事業による供給水量はナクル市の上水供給の3割近くを占めるものであり、同市の水不足解消に一定の効果を挙げていると言える。一方、水質検査・管理体制等に改善の必要性が見られるものの、供給水質については、これまで特に問題は発生していない。
下水事業の施設は基本設計通りに完成しており、その機能に特段の問題はない。しかしながら、下水処理施設は修復・拡張によってかつての過負荷状態は解消されたものの、下水接続率の低さ、下水管網からの漏水に加え、ナクル市における給水量が計画当初の見込を下回っているため、下水処理場への流入水が少なく、稼働率は処理容量の7割程度に留まっている。処理水の水質には特段の問題はなく、本下水処理事業はナクル湖の水環境への負荷の低減に貢献していると言える。
上下水道事業の実施によるナクル湖への環境インパクトについて第三者評価を実施しており、その結果は以下のとおりである。
10.メキシコ・「メキシコ市大気汚染対策関連事業」 第三者評価実施者: 佐々木俊治 株式会社三菱総合研究所 林 欣吾 株式会社三菱総合研究所 高木 健 株式会社三菱総合研究所 |
本事業の目的は、メキシコシティー首都圏における大気汚染の原因物質の一つであるSO2排出量の削減のために、メキシコ石油公社(PEMEX)がメキシコシティー首都圏に供給している重油とディーゼル油の硫黄含有量の削減、およびメキシコシティーにあるPEMEXのアスカポツァルコ製油所から放出されているSO2の削減を行うものである。本事業は、サブ・プロジェクトA(重油脱硫施設)、サブ・プロジェクトB(ディーゼル油脱硫施設)、サブ・プロジェクトC(硫黄回収施設)からなるが、サブ・プロジェクトCは、後にアスカポツァルコ製油所が廃止されたため実施されなかった。
サブ・プロジェクトAにより生産されている低硫黄重油のうち約6分の1がメキシコシティー首都圏に、約6分の5が首都圏以外の周辺部に供給されており、サブ・プロジェクトBによって生産されている低硫黄ディーゼル油のうち、約70%が首都圏に供給され、約30%が首都圏以外の周辺部に供給されている。また、計画段階で試算された2000年におけるSO2排出削減量(133,800トン/年)と実績値(85,750トン/年)と比べると、実績値は計画値の約3分の2となっている。また、首都圏内(40,130トン/年)での削減量は約3割となっている。
メキシコシティー首都圏の大気汚染改善に関与する部分として、脱硫装置の設置による環境への効果(SO2排出量の削減による人体の健康被害の減少)について、持続性咳(せき)・痰(たん)による所得減少および治療費用を算定し経済評価(EIRR)を行った。その結果、EIRRはサブ・プロジェクトAでは1.31~9.25%、また、トゥーラ製油所のサブ・プロジェクトBでは9.89~24.05%、サブ・プロジェクトAおよびBを合算すると4.37~13.85%と算定された。メキシコシティ首都圏に対する効果は、サブ・プロジェクトA並びにBとも十分な効果を得ているといえる。
上記のように、サブ・プロジェクトA・Bの脱硫装置は計画通りに設置され、現在も順調に稼動しており、本件によって燃料に含まれる硫黄分が大幅に削減され、SO2排出量の削減に大きく寄与したことが明らかになった。ただし、当初の想定とは異なり、火力発電所の天然ガスへの大幅転換等によりメキシコシティー首都圏内での消費量が少なくなり、製品が他地域にある程度供給されることとなったため、SO2の削減が同首都圏を含む広域に及ぶこととなった。
実施機関であるPEMEXはメキシコ唯一の石油精製を行う機関として過去数十年にわたり製油所の運営を行っており、技術的にも財務面でも将来的にも問題ないと思われる。
11.ガーナ・「道路セクター計画(1996~2000)合同評価」 評価実施者:JBIC他複数ドナー及びガーナ政府 |
本評価は、ガーナ政府とガーナの道路セクターに援助を行っているドナー(国際協力銀行、デンマークDanida、世界銀行、ドイツGTZ、イギリスDFID、オランダ政府、アフリカ開発銀行、EU)が、1996~2000年のガーナにおける道路セクター計画につき合同評価を行ったものである。本評価は従来の個々の(しばしばプロジェクト別)評価とは一線を画すものであり、評価分野での一層の協調的取組みを反映したものである。評価の対象は、同期間をカバーする道路セクター支出計画であり、評価の目的は、1)持続性に焦点を当てつつ目標達成度を評価すること、2)重要事項、制約要因、問題点、長所・短所、成功部分を把握すること、3)今後の支援の改善を図るための教訓を得ること、である。
評価結果は以下の通りであった。
計画の妥当性については、個々のドナーにおいて重点付けの差異はあったものの、支出計画はガーナ社会のニーズとガーナ政府の政策に合致していたと評価された。
計画の効果については、目的別の達成度で見ると、費用回収は「良い」であり、民間セクターの参加とファイナンス及びドナー間の協調は「やや良い」であり、組織能力及び人材管理・懸案事項の処理・投資優先順位付けは「普通」、外国技術援助への依存度・環境面と安全面の評価・支出運用管理・道路交通関連法制は「やや悪い」、また「非動力交通(自転車や歩行者用道路)」については「悪い」、とされた。
計画の効率性の評価は、財務面と組織面に分けて行っている。前者は道路基金が設立されたことで維持管理資金が供給されるようになったものの資金供給は未だ不安定であり、資金支払いの遅れに伴い計画の進捗が阻害されている問題が指摘された。後者については、関連組織の縮小化は実施中であるも、人材開発の面等で問題ありとされている。
持続性については、同計画を持続的に実施するには資金面のみならず能力開発面でもドナーの支援が不可欠とされており、この点での達成度は控えめな評価となっている。ただ、ガーナ政府も種々の質的改善措置を実施しており、また道路網改善へ確固たる意思をもって取り組んでおり、道路網の質的維持には持続性が認められた。
インパクトについては、現状の調査から支線道路の改善が地方の貧困問題に有益な効果をもたらすことは示されるとしつつ、社会経済へのインパクトの最大化には長期的な道路維持管理に加え、農業金融・車輌の供与等他の支援手段も含めた総合的で調整のとれた地方開発が必要とされた。
以上の評価結果を踏まえ、道路セクター関係機関の再編成実施、国内研修プログラムの改善、公平配分と健全な経済原理とのバランスをとった投資、道路基金の財務基盤強化、コントラクターへの支払い承認手続の迅速化、軸重規制プログラムの重視、ドナー間手続の統一化、等多様な教訓が導かれた。