広報・資料 報告書・資料

3.1 テーマ別評価(1999年度)


1.タイ・「東部臨海開発計画 総合インパクト評価」

評価実施者:
 下村 恭民  政策研究大学院大学教授(第三者評価実施者)
 JBIC

プロジェクトの目的

 「東部臨海開発計画」は、1980年代はじめより1990年代前半にかけて、シャム湾で開発された天然ガスを利用する重化学工業、および新設の国際コンテナ港周辺に立地する輸出指向型工業の2つを核に、バンコクの東南に位置する東部臨海地域の開発を進め、バンコク首都圏への産業の一極集中の緩和を図り、ひいてはタイにおける新たな産業基盤を確立することを目的としたインフラ整備計画である。


評価結果

 本評価では、同計画において円借款により実施された計16の個別インフラ事業の事後評価をベースに、東部臨海開発がもたらしたインパクトについての検証を行った。その結果、同地域は、当初目的通りバンコク首都圏に次ぐタイ第2の経済圏としての地位を確立したことが確認された。また、これら事業によりインフラが整備されたことが、民間資本が同地域に進出を決定する大きな要因となったことも明らかとなった。

  • (1)「東部臨海開発計画の変遷とその意味-途上国のオーナーシップと援助の有効活用-」(第三者評価実施者:下村 恭民 政策研究大学院大学教授)
     本評価は、東部臨海開発計画におけるタイ政府と世銀・日本等の援助機関の関係について詳細な事実関係を追い、タイ政府の独自の判断を可能とならしめた要因を政治経済学的視点から考察するものである。すなわち、途上国が主体性を持った意思決定を行う上で、行政制度の発達やテクノクラートの能力だけでなく、その国の固有の社会的・文化的特徴を生かしたチェック・アンド・バランスの仕組みや、かなりの程度自由な選挙と自由な報道などが効果的であり、「民主的な開発主義体制」の重要性を指摘するものである。
  • (2)「東部臨海開発計画 マプタプット工業港建設事業(1)~(3)、マプタプット工業団地建設事業」(評価実施者:JBIC)
     本事業は、マプタプット地区を重化学工業地区として開発するため、工業団地および同地区の輸送需要に対応する工業港を建設するものである。
     本事業により、マプタプット工業団地は、同地区に上陸するシャム湾からの天然ガスを利用した石油化学コンプレックスとして大きく発展し、タイ全体の石油化学産業の発展にも寄与している。また、マプタプット工業港の貨物取扱量の伸びも、アプレイザル時の想定を上回っており、同港は同工業団地における重化学工業の発展を物流面から支えている。
  • (3)「東部臨海開発計画 レムチャバン工業団地建設事業(1)・(2)」(評価実施者:JBIC)
     本事業は、バンコク港を代替する国際深海港(レムチャバン商業港)に隣接する利点を活かし、輸出加工業及び一般軽工業のための工業団地を建設するものであり、同工業団地の土地造成、道路建設、浄水場・下水処理場建設、排水設備・上下水道管敷設、標準工場建設等が含まれる。
     本事業により、当初想定を上回る雇用創出効果があった。具体的には、当初想定では2000年までにレムチャバン工業団地の入居企業により25,000人の雇用創出が見込まれていたのに対し、1997年末の時点で30,402人が雇用されている。また経済成長・工業化については製造業付加価値額を見ると、チョンブリ県は全国の2倍の速さで成長している。レムチャバン工業団地はチョンブリ県のおける主要な工業団地であることから、同県の工業化の進展に大きな役割を果たしたと思われる。
  • (4)「東部臨海開発計画 レムチャバン商業港建設事業(1)~(3)」(評価実施者:JBIC)
     本事業は、大型化するコンテナ船の直接入港に対応し、バンコク港を補完・代替することを目的として、深海商業港の新設をするものである。
     本事業の効果としては、貨物取扱量の増加、バンコク港の補完・代替、コンテナターミナルの効率的な運営が図られた。また、レムチャバン港建設により、東部臨海地域への工場進出が増加し、同地域の産業開発が後押しされた他、バンコク港の貨物取扱量減少に伴い貨物トラック輸送が減少、結果としてバンコクの交通渋滞の悪化を緩和した。
  • (5)「東部臨海開発計画 道路事業」(評価実施者:JBIC)
     本事業は、東部臨海地域の開発により、新たに大量の陸上輸送の需要が発生すると見込まれ、鉄道とともにこれに対応するために行なった道路網整備である。東部臨海開発計画に関わる高速道路事業は3件あるが、本評価で対象としたのはチョンブリ・パタヤ道路(延長約68キロメートル、往復4車線)のみである。
     東部臨海地域の南北交通(チョンブリ・パタヤ道路および並行して走る2つの一般国道)の約56%をチョンブリ・パタヤ道路が占めており、同道路は東部臨海地域の道路網の重要幹線として機能している。タイ国交通モデルを用いたシミュレーションによると、東部臨海開発計画によって新設・拡幅された道路事業が実施されなかった場合、これら事業が実施された場合の8割未満の交通量と7割の平均速度に留まっていたと試算されている(1997年時点)。また、チョンブリ・パタヤ道路を中心とする円借款事業のみが実施されなかった場合でも、全道路事業が実施された場合の8割未満の交通量と7.5割の平均速度に留まったと試算されており、チョンブリ・パタヤ道路の建設が東部臨海地域全体の道路交通に与えた効果の大きさがうかがえる。
  • (6)「東部臨海開発計画 鉄道事業」(評価実施者;JBIC)
     本評価対象の鉄道事業は、東部臨海開発計画の一環として、貨物専用線とコンテナ貨物の内陸中継基地を建設することにより、東部臨海地域に新設される港と工業団地の輸送需要に対応するとともに、東部臨海地域と他地域間の輸送需要に円滑に対応するものである。
     本事業により整備された鉄道網は、レムチャバン港で取り扱われるコンテナ(1998年:12,693千トン)の約21%を輸送しており、レムチャバン港を起点・終点とする物流のネットワークの重要構成部分として大きく貢献している。また、タイのLPG生産量(約180万トン)の約27%(タイ石油公社(PTT)の生産量の約52%)が同鉄道網によってタイ北部・東北部へ輸送されており、同鉄道網は東部臨海地域で生産されたLPGの長距離輸送にも大きく貢献している。
  • (7)「東部臨海開発計画 水源開発・導水事業」(評価実施者:JBIC)
     本事業は、レムチャバン地区が位置する西部沿岸部、およびマプタプット地区が位置する南部沿岸部、それぞれの工業用水および生活用水需要に対応するために、水源(ダム)開発と導水事業が実施されたものである。
     本事業により、西部沿岸部で工業用水9.4百万立方メートル、生活用水13.7百万立方メートル、南部沿岸部で工業用水58.6百万立方メートル、生活用水1.9百万立方メートルの導水量(1998年度)を実現しており、事業目的通り、東部臨海地域の工業化・都市化に伴う用水需要に対応する効果を上げている。

2.中国・「衡水・商丘間鉄道建設事業(1)~(4)」

第三者評価実施者:
 林家 彬 中国国務院発展研究センター

プロジェクトの目的

 本事業は、中国南東部および沿岸工業地域への石炭供給量の拡大、および中国南北の貨物・旅客の輸送力の増強を目的に、飽和状態に達している北京-広州線および北京-上海線の輸送能力を補うためのバイパス路線を建設するものである。事業内容は、河北省衡水を起点として河北省・山西省を南下し河南省商丘に至る401キロメートルの非電化複線鉄道の建設である。


評価結果

 本事業は、計画当初は石炭輸送の強化を主目的に実施されたが、その後本事業が北京-九龍(香港)線の一部となったことから、当初予定されていなかった沿線の開発を誘発する効果が認められている。具体的には、事業当初の目的である石炭の輸送、エネルギー供給の円滑化を十分に達成できたのみならず、沿線地域の経済開発の促進、住民の生活機会の増大、在来路線の混雑緩和と過密ダイヤの解消、鉄道ネットワーク全体のリダンダンシー(輸送能力のゆとり)の増大による緊急時の迂回など、多方面に亘り大きな効果を発揮している。

 また、沿線地域の地方行政当局はいずれも京九線の一部である本事業の開通を、地域経済を振興する上でまたとない機会と認識しており、鉄道の地域開発効果を最大限発揮させようと、関連開発事業を推進している。なお、本評価の現地調査で訪ねた衡水市および商丘市においては、市政府責任者はいずれも円借款が本事業の建設を助けてくれたことに対して深く感謝の意を表明している。

 本事業の実施機関である鉄道部によると、1997年の東南アジア発の経済危機の影響を受けて中国経済も成長が鈍化したため、計画時の輸送量は達成していない。しかし衡商線全体で、1998年の旅客輸送量は事業が完成した1996年と比較して約6倍に増加しており、また同じく1998年の貨物輸送量については、1996年と比較して約12倍にも増加している。

 運営・維持管理については鉄道部の地方機関である鉄路局が行っており、現状良好に行われている。


3.中国・「長江4架橋建設事業」(「合肥銅陵道路大橋建設事業(1)(2)」、「黄石長江大橋建設事業」、「武漢長江第二大橋建設事業」、「重慶長江第二大橋建設事業」)

第三者評価実施者:
 盛  信博 株式会社コーエイ総合研究所
 桂田 俊貞 株式会社アルファテン

プロジェクトの目的

 合肥銅陵道路大橋建設事業は合肥―銅陵間123キロメートルを結ぶ2級公路(政治・経済の中心や大規模な工農業基地、港湾、駅を連結する道路)の新設及び同公路と銅陵市を結ぶPC斜張橋を長江に架橋する2つのプロジェクトからなる。黄石大橋建設事業は黄石市を流れる長江の西岸と東岸を結ぶ連続PCラーメン橋を長江に架橋するもの。武漢第二大橋建設事業は長江によって漢口地区と武昌地区に分断されている武漢市に第二の長江大橋(PC斜張橋)を架橋し、重慶第二大橋建設事業は長江及び嘉陵江の二つの大河によって分断されている重慶市に第二の長江大橋(PC斜張橋)を架橋するものである。


評価結果

 交通部プロジェクトである合肥銅陵道路、銅陵大橋、黄石大橋ではいずれも実際の交通量は、アプレイザル時に比較して低い。これに対して重慶では実際の交通量が予測の85%に達している。また、武漢では、実際の交通量がアプレイザル時の予測をはるかに超えている。交通量予測と実際交通量の差異については、1)武漢、重慶は大都市であり、発展速度も著しいが、銅陵、黄石等の地方部では開発進展速度が比較的遅いこと、2)橋梁開通後も、遠隔地のフェリーを使用した渡河交通量に余り変化がみられないことから、実際には遠隔地のフェリーからの転換交通が少なかったと考えられること、3)銅陵、黄石では周辺道路の整備が遅れていること、などが理由として考えられる。なお、開通後の銅陵大橋、黄石大橋の交通量の伸び率は大きく、(それぞれ年約20%、40%)周辺道路の開発が進めば更に交通量が伸びる可能性がある。

 本事業の交通インフラ建設による波及効果は、プロジェクト地域の交通立地条件の改善に伴って民間施設整備の増加や物資輸送量の増加といった形に現われ、また地域の生産活動の活発化へと波及した。具体的には、下記の通りである。

 合肥・銅陵公路大橋が開通した後、合肥・銅陵道路沿いにプラスチック工場や製薬工場などの企業が立地し、また8つの経済開発区が建設された。黄石長江大橋の竣工後は、大橋を輸送に使用するようになったセメント工場が経営規模を拡大し、キ水県に開発区の労働者及び黄石市に通勤する人々のための住宅建設が進んだ。また、武漢長江第二大橋完成後、アクセスが向上したことにより青果物卸売市場が設置され、また、大橋両岸に活発な住宅団地の建設が見られる。重慶長江第二大橋については、架橋後、オートバイ工場、セラミック工場等地元資本による産業が盛んとなり、大橋南側に花渓経済技術開発区が建設された。また、大橋の南岸・北岸を中心に活発な住宅団地建設が見られる。

 中国の公益事業の料金設定は、近年、受益者負担の考え方が浸透しつつあり、本事業の各大橋管理局では独立採算による運営が求められている。料金設定は省の物価局、人民政府が他の交通機関との料金比較、他省との比較を行ない、最終許可を与える制度となっている。


4.フィリピン・「バタンガス港開発事業」

第三者評価実施者:
 エマ・ポリオ アテネオ・デ・マニラ大学教授

プロジェクトの目的

 フィリピン政府は1980年代から、メトロマニラの南方110キロメートルに位置するバタンガス港を、マニラ港に次ぐ第二の大規模港湾とする開発を計画していたが、バタンガス港は、接岸施設や後背地が極めて狭隘で混雑しており、秩序だった効率的な港湾運営が不可能であった。このような背景のもと、バタンガス港の狭隘かつ不十分な施設を整備、拡張することにより、物流の効率化による周辺地域の開発促進・交通環境の改善を図ることを目的に本事業は実施された。


評価結果

 本事業の整備・拡張で、特にRo-Ro船(トラック等の車両ごと貨物を輸送する船、旅客も同時に輸送可能)、高速旅客船、一般貨物船専用の目的別バースが建設されたことにより、車両、乗客、貨物の動きが分離され、貨物・旅客輸送の効率性や港湾内の安全性が高まった。なお、対岸カラパン港へのRo-Ro船による渡航時間はバース待ちの解消により、1~2時間短縮されている。地域への波及効果としては、ミンドロ島・ルソン島の貨物・旅客の輸送がより効率的となり、今後ミンドロ島の開発の促進が期待される。また、1995年時点ではバタンガス州に1つしかなかった工業団地が評価時点(1999年度)では15に増加し、進出企業の一部がコンテナ輸出を開始しており、今後、バタンガス港によるマニラ港の補完機能が高まることが期待されている。

 本事業実施には港湾周辺に居住する住民(不法居住者)の移転が必要とされたが、移転対象住民の中から強固な反対派が台頭し、政府側との交渉をリードするようになった。中央政府の高官が直接住民との交渉を担当する等、フィリピン政府は国レベルで本住民移転問題の解決にあたったが、交渉は難航した。1994年1月以降、政府は幾度も立ち退き通知を発出したが、住民側はこれに応じず、強制家屋取り壊しが実施された。

 本行および日本政府は、当初から一貫して、本住民移転についてはフィリピン政府の責任において平和的に執り行うよう要請していた。1994年7月、日本政府は、強制家屋取り壊しが日本側に通知なきまま実施されたこと等を受け、本事業への融資を凍結した。その後、住民移転への合意世帯数も増加する等フィリピン政府側の住民への移転合意取り付けに対する努力が認められたことから、1994年12月、日本政府は借款を再開した。この際、フィリピン政府より1)未同意住民への説得の継続、2)移転住民の生活改善措置の確約を取り付けた。日本政府および本行としても2)を支援するべく、草の根無償として、診療所の建設や医療機器の提供を行ったほか、本事業借款の一部に道路補修を追加した。

 フィリピン政府は強制家屋取り壊しを含めて、全ての手続きを共和国法に従って実施しており、住民への支援もフィリピンの他のプロジェクトと比較し格段に優遇度が高い。それにも関わらず、強制取り壊しまでに至ったのは、移転の合意形成途中で住民側より強硬反対派が台頭し、以降、住民側と政府側が互いの立場を貫いたためである。住民代表から住民への情報伝達もシステマティックに行われてなかった。より住民参加型の協議を行うためには、住民代表から住民への情報伝達についても配慮し、住民間のコンセンサスも確認することが重要である。これに対し、1998年に実施されたII期事業の住民移転では、I期事業の教訓も活かして綿密に計画され、住民との十分な協議を経て実施されている。

 また、移転住民にもたらしたインパクトとしては、住民の大半は家屋や基礎インフラ等の住環境には満足している。しかし、オフサイト移転(元の居住地から離れた場所への移転)に典型的であるように、主たる負のインパクトは、所得、就業機会の減少である。これは、移転対象住民の多くが露天商や荷担ぎなど、港に密着したインフォーマルな就業形態をとっていたためで、政府はいくつかの生計向上プログラムを試みたものの、これらは移転住民のスキル不足により必ずしも十分には機能しなかった。住民達には、生活設計、組織形成、ビジネス手法等について、訓練の機会が与えられることが望まれる。


5.タイ・「観光基盤整備事業」

第三者評価実施者:
 篠原 正治 財団法人国際観光開発研究センター観光開発研究所長

プロジェクトの目的

 本事業は、大バンコク圏を除く全国8地域で71の小規模観光基盤プロジェクト(以下「サブ・プロジェクト」)、およびタイの観光に係るマーケティング・プロモーションを実施することにより観光開発を促進し、もってタイ全域にわたる近代化(地方開発)、所得の分配、雇用の創出、そして外貨の獲得を行おうとするものである。山岳・海洋国立公園など自然対象観光資源と、遺跡、寺院等の文化・芸術対象観光資源を対象とし、道路建設や、その他施設の建設、発掘・復元などを行う。


評価結果

 チェンライ地区とプーケット地区の現地実査から得られたサブ・プロジェクトの事業効果は、主に以下のとおりである。チェンライ地区では、Doi Luang National Parkは、本事業完成後に入場者数が増大した。Chiang Saen Townでは、遺跡発掘保全事業に伴い、地域住民の自らの歴史・文化に対するPublic Awarenessの高揚という社会的、文化的に価値の高い副次的効果が出現した。その他、道路建設プロジェクトでは、Mae Sai-Chiang Sean Highwayは交通量5,300台/日に上り、ゴールデン・トライアングル地域(タイ、ミャンマー、ラオスの国境がメコン河で接する地域)の観光振興に大きな役割を果している。また、プーケット地区では、Ra Wai Beach-Surin Beach Provincial Highwayの整備により、ビーチ・ホッピング(ビーチを次々と渡り歩くこと)を楽しむ観光客を誘致した他、大規模テーマパークの建設という副次的効果も見られる。

 今後の課題としては、事業実施後の維持管理につき実施機関タイ観光公社は権限を有せず適切なフォローアップが出来ていないため、本事業のように実施機関が複数に亘る場合は事業実施後の管理責任体制を予め確立させる必要があることが挙げられる。また、本事業では地方自治体がサブ・プロジェクトの維持管理に当っている場合、財源不足により適切な維持管理が行われていないケースもある。タイでは地方分権が進められることになっているが、そのためには、地方自治体への適当な財源委譲が必要だが、ホテル滞在客への特別宿泊税の一部を地方自治体に譲与する税制を設け、地方自治体の観光関連インフラ施設整備の建設・管理の財源として利用することも一案である。


6.パキスタン・「農村電化事業」

第三者評価実施者:
 National Rural Support Programme (NRSP)
 Ghazi Barotha Taraqiati Idara (GBTI)

プロジェクトの目的

 本事業は、全国24,085村の電化を図る「農村電化プログラム」の一部を成す事業であり、円借款はこのうち6,300村の電化を対象として、新規電化、および需要増に伴う既設配電線の容量アップの為の増強を実施するものである。


評価結果

 事業実施により、予定の95%にあたる5,977村が電化された。対象村の特定、選定、および承認作業や、ローカル・コンサルタント選定、設備・資材調達など様々な遅延が生じたことから、工期は当初予定の3倍余りの時間を要した。これらは、実施機関である水利電力開発公社(WAPDA)の組織能力およびマネジメント能力不足が要因の一つと思われる。運営・維持管理は、一部の地域で実施された計画停電が長期間におよぶ場合があったり、アース不良による感電事故なども発生しているが、それを除いては、定められた標準手順と標準設計指示書に基づいて行われており、またWAPDAの定めた安全基準は概ね達成されており、特段の問題はない。

 電化後4~7年を経た8村落において、住民参加型手法により実施したインパクト評価によると、住民の多くはWAPDAの電力サービスに満足している。ただし、停電時の対応があまり迅速でなく、また有力者のいる地域の復旧が優先されやすいことや、WAPDA事務所から遠い村では、料金請求の不整備に不満も聞かれる。電化による負の影響としては、一部地域で電化に伴う地下水の汲み上げ過ぎにより地下水位が低下していると、住民が意識していることが挙げられる。

 一方、住民の意識する電化の正の効果としては、1)電気照明器具、扇風機やテレビなどの利用により、家庭生活の便利さと快適さが増加したこと、2)扇風機、電気アイロン、洗濯機、給水ポンプ、電気調理器具などの利用により、主婦の家事労働が軽減したこと、3)テレビの普及により、娯楽に加え、ニュース、社会生活・経済活動についての重要な情報の入手が可能になったこと、4)扇風機の設置により、蚊に刺されなくなりマラリアが減少したほか、給水ポンプにより水が容易に得られるようになり環境衛生の改善が促進されたこと、5)教室に照明や扇風機が備えられ、また、家庭で夜にも勉強が出来るようになるなど、教育環境の改善が図られたこと、6)電気照明器具や扇風機の利用により、商店などで経済活動に従事できる時間が増えたこと、7)電動ポンプによる管井が設置され、天水・水路灌漑に代り、地下水による灌漑が行われるようになったこと、8)照明が設置されたことにより、盗難の減少や安全が確保されたこと、などが挙げられる。また、本事業は、家事労働の軽減や内職の増加などにより、女性の経済力向上、家庭内での発言権拡大をもたらした。


7.メキシコ・「モンテレイ上下水道事業」

第三者評価実施者:
 松岡 俊二 広島大学大学院国際協力研究科助教授
 河内 幾帆 広島大学大学院国際協力研究科博士課程

プロジェクトの目的

 本事業は、メキシコ第3の都市圏であるモンテレイ都市圏の人口増に対応し、上下水道の整備を図るモンテレイ上下水道計画の一環として、2005年を目標とする下水処理システムを構築することにより、未処理のまま放流していることから生じる河川の汚染を防止するとともに、下流域の水使用に対応するものである。


評価結果

 同都市圏では1970年より米州開発銀行(IDB)により上下水道整備事業が行われてきており、今次事業は第4期の上下水道整備事業(モンテレイIV)のステージ1にあたる。本評価は円借款対象である3つの下水処理場を直接の対象としつつ、集水管システムや上水供給も含んだモンテレイIVについても言及した。

 また、評価基準としてはDACの評価5項目に基づきつつも、評価順序を、目標達成度、効率性、持続性、効果、妥当性と組み替えて評価を実施した。各項目の評価結果は以下の通り。

 目標達成度としては、目標年次を1997年とし、量的目標を「全ての処理場が100%稼動すること」、質的目標を「処理水の水質をBOD 30ミリグラム/リットル、TSS 30ミリグラム/リットル、 N-NH 32.0ミリグラム/リットル、大腸菌数1,000/100ミリリットル以下とすること」としたところ、同達成度は全般に高く、当初の目標を達成したと評価された。

 事業の効率性については、3つの処理場の下水処理方式がそれぞれ異なる結果となったこと等の変更があったが、実際の維持管理費用は計画時予測よりも低く推移しており、大きな問題はないものと評価された。

 事業の持続性については、実施機関の料金徴収率は90%を超えるといわれ、また下水道契約者も順調に増加しており、その他実施機関は高い経営能力を示している(処理水を工場向けの冷却水として販売するといった営業努力等)ことから、持続性は高いと評価された。

 また、事業の妥当性についても、メキシコの発展段階に適合的な環境保全案件であるとされ、群を抜いた経営能力をもつ実施機関の存在が評価された。

 一方、事業実施による効果の面では、水質の改善といったプラスの効果が確認されるものの、他方で水利権争いが激しくなり、流域の水秩序が混乱するといったマイナスの効果もあったと評価された。

 以上の通り、本事業は目標達成度、事業の効率性、事業の持続性という3つの評価項目において高く評価され、妥当性という観点からもメキシコに適合的な環境案件といえる一方、事業実施による効果という点では、プラスの効果と同時にマイナスの効果も認められたといえる。


8.中国・「観音閣多目的ダム建設事業(I)(II)(III)」

評価実施者:JBIC

プロジェクトの目的

 本事業は、中国遼寧省を流れる太子河の本渓市上流約40キロメートルの小市・観音閣に、総貯水量21.68億立方メートルを持つコンクリート重力式ダムを建設するものである(実施機関:遼寧省水利電力庁(当時、現在は遼寧省水利庁))。本事業は、1985年4月に国の第7次5ヶ年計画において承認され、1986年に建設が開始された。このダム建設の最大の目的は洪水制御であり、併せて都市・工業用水供給、灌漑用水供給、発電、水産養殖などの目的を持つものである。


評価結果

 本事業の効果としては、経済・社会インフラの整備により移転住民の民生の向上に寄与したことがあげられる。ダムができる前の農民の生活は、水道水、電気、ガス、通信、道路はもちろん、学校、病院などの施設も乏しく、住宅の水準も低かった。このダム建設に伴い多額の資金が投入された結果、社会・経済インフラの大幅な改善に寄与した。

 本事業の最大の目的である洪水制御については、すでに具体的な効果が発現している。観音閣ダムが完成した直後の1995年には太子河流域で20年確率の洪水があったが、本ダムによる洪水調節等により、氾濫による被害は発生しなかった。水利庁設計院の試算によると、仮に本ダムがなかった場合には下流ダムからの大量放水が避けられず、8.6億元程度の損害が発生したと考えられている。

 都市・工業用水および灌漑用水に関して、本ダム完成後の1998年には計画供給量11.8億立方メートルの3分の2に達する7.8億立方メートルが給水された。下流域にある本渓、鞍山、営口の4都市においては、これらの都市への年間供給量約10.3億立方メートル(1998年、遼寧統計年間1999年)のうち、本ダムから2.7億立方メートル(1998年)が供給されている。すなわち、本事業は総給水量のほぼ4分の1を提供し、これらの都市の水不足緩和に大きく貢献している。灌漑用水についても、本ダムは太子河水系から供給される灌漑用水量の4分の1以上を担い、既に当初計画を上回る量を供給している。また、1997年には大規模な干ばつが発生したが、本ダムの水を放流することで、5月の種まき時の水が確保されるなど、完成早々のその効果を発揮した。なお、水利庁は2003年には計画給水能力(11.79億立方メートル)が達成されるとの見通しを持っている。

 本事業での発電については、計画どおり年間170メガワットアワーを発電しており、工場での動力源や、民家での電化のために供給されている。

 水産養殖は始まったばかりであり、現在のところではまだ計画の3分の1程度の生産にとどまっているが、大か房ダムの水産養殖チームの技術指導を受けて早急に計画の実現に努めている。


9.中国・「福建省ショウ泉鉄道建設事業」

評価実施者:JBIC

プロジェクト目的

 本事業は、中国福建省の泉州市の経済発展に伴う貨物取扱量の増加に対応するため、鉄道を有しない泉州市に新たに鉄道を建設し、泉州市の貨物輸送の円滑化を図り一層の経済発展を促進することを目的とするものである。事業内容は、湖頭より肖サク間128.2キロメートルの幹線ならびに肖サクから肖サク港間10.5キロメートルおよび泉州から後渚港間7.0キロメートルの2支線を含める総計145.7キロメートルの非電化単線鉄道を建設するものである。


評価結果

 本事業の目的の一つであった泉州~厦門間の一般道路の渋滞解消については、今後の泉州市における貨物取扱量の増加分を本事業が吸収すること、および既に泉州~厦門間の高速道路が完成していることにより、十分に達成されるものと判断される。本事業の貨物需要については、今後、肖サク経済開発区の進展ならびに各港への支線(および支線への各社の専用線)が整備されれば利用は飛躍的に伸びるものと考えられる。また、沿線に100万都市を3つ有し、それぞれの都市では比較的開発用地を有する郊外に大規模な駅舎およびアプローチ道路を建設し、駅を中心とした新たな街造りを進めており、各地への運転本数等が増えれば人口規模からみてもかなりの需要が吸収されるものと考えられる。したがって、本事業のもう一つの目的であった泉州市の経済発展への貢献についても、ダイヤの設定等運営機関の適切な経営努力が加われば、十分に達成されていくものと判断される。

 さらに、「福建省地方鉄道開発計画」に基き福建省内および周辺の地方鉄道の建設が進んで鉄道ネットワークが拡充されれば、さらなる需要が喚起されるものと考えられる。特に、現在建設中の梅州(広東省)~坎市(福建省)が完成すれば、泉州~広州間が約22時間で結ばれることとなり、泉州市経済に大きく寄与するものとして期待される。

 本事業の運営については、福建省政府・泉州市政府および鉄道部が出資し、1997年12月に「泉州鉄路有限責任公司」が設立された。運営・維持管理についての技術水準については、泉州公司職員の大多数が鉄道部の出身者であることから、特段問題はないものと判断される。


10.フィリピン・「アセアン日本開発基金、工業・支援企業拡充事業」

評価実施者:JBIC

プロジェクトの目的

 本事業は、フィリピン開発銀行(DBP)、および適格金融機関(PFIs)を通じて中小企業への融資を行う開発金融事業である。本事業は、フィリピンの中小企業にとって調達が困難な低利長期固定資金を供給することにより、それら企業の発展・育成を図ること、また、仲介機関として民間金融機関を介在させることにより、それら機関の中小企業向け融資技術の向上を図ること、を目的としている。中小企業の育成・強化は、ひいてはフィリピン経済の基盤強化につながると期待される。


評価結果

 エンド・ユーザー企業への貸付実行に関しては、対象企業規模・セクター、融資対象(初期運転資金を含む設備資金)、融資条件(融資限度額、金利、返済期間など)は何れも当初計画とおりに実施された。サブ・ローン回収状況については、エンド・ユーザーからPFIsへの、PFIsからDBPへの返済共に延滞は発生していない。DBPは、金融機関をPFIsと認定する際には、その金融機関全体の延滞率に関して、地方銀行は20%以下、その他商業銀行は15%以下であることを要件としており、これを守れないとDBPはその金融機関から外している。この管理が本事業に関しても良い結果を生んでいるようである。但し、経済危機後はPFIsからDBPへリスケジュールを相談する例もあり、事態の推移に注意が必要であり、またDBPは審査の強化を予定している。エンド・ユーザーからの返済資金は、リボルビング・ファンドを通じて二次貸付が実行されるが、リボルビング・ファンドの管理は良好である。

 本事業の結果、二次貸付を含め、延べ609のエンド・ユーザーに設備投資およびそれに付随する初期運転資金が供給された。エンド・ユーザーの延滞率の低さが示すように、投資意欲が旺盛で成長力のある中小企業に対する低利長期固定資金の提供により、中小企業の成長が促進されたと言える。また、本事業の実績により、以前は非常に困難であった民間金融機関からの長期資金調達を実現できるようになったことも本事業の効果と言える。また、本事業では、規律ある融資審査体制の確立と債権管理能力向上を目指し、DBPおよびPFIsに対する技術支援を行ったが、技術支援は本事業の円滑な運営・管理に大きく寄与した。DBPは、政策金融の実施・監督機関としての意識改革や職員の技術向上に積極的に取り組み、PFIsに対する管理能力が向上し、また、技術支援により導入された情報管理システムを有効に活用し、効率的で高水準のPFIs管理およびサブ・ローン管理を実施している。また、PFIsへの研修は、PFIsの中小企業融資に関する技術向上に貢献したと評価されている。


11.タイ・「小規模企業育成計画(I)(II)」

評価実施者:JBIC

プロジェクトの目的

 本事業は、タイ産業金融公社(IFCT)を通じてエンド・ユーザーたる小規模企業に融資する開発金融借款であり、タイの小規模企業にとって調達が困難な低利長期固定資金を供給することにより、それら企業の発展・育成を図り、ひいてはタイ経済の基盤強化を図ろうとするものである。


評価結果

 サブ・ローンの一次貸付は、1989年から、1993年までに合計220のエンド・ユーザーに対しての貸付が承認された。対象企業規模・業種、融資対象(設備資金)、融資条件(融資限度額、金利、返済期間など)などは当初計画どおりである。サブ・ローンの回収状況に関しては、3ヶ月未満の延滞発生率は年々減少しているが、1年以上の延滞は、金額、件数ともに横這い状態であり、対策が必要である。エンド・ユーザーから返済された元利金については、IFCTではリボルビング・ファンドを設け二次貸付を実施している。1期事業のリボルビング・ファンドからの貸付は1990年をピークに毎年2千万~3千万バーツが承認されていた。

 本事業の結果、当初の目的通り投資意欲が旺盛な小規模企業に対し、長期・固定・低利資金を供給することにより、小規模企業の成長が促進された。また、多くのエンド・ユーザーが、本事業での実績を梃子に、以前は困難であった民間金融機関からの長期資金調達が実現している。また、IFCTは、本事業を契機に小規模企業向け融資のノウハウの向上と蓄積に努め、その結果、短期の延滞が着実に減少するなど、債権管理能力の向上が図られた。


12.ベトナム・「リハビリテーション借款」

評価実施者:JBIC

プロジェクトの目的

 本事業は、市場経済移行期のベトナムが直面していた経済困難を緩和するとともに、特に整備の遅れていた地方の道路と水道のために策定された「リハビリテーション計画」を推進するものである。本借款によって、地方道路整備計画の下、全国の未舗装道路の内、約950キロメートルの舗装が行われた。また、小都市・村落給水整備計画の下、全国32の地方都市の老朽化した上水道施設のリハビリが行われた。


評価結果

 本事業は、ベトナムの53省(当時)すべての省を対象とした事業であり、サブ・プロジェクトは約250あることから、事後評価では、3つの省(ハ・タイ、ク・アンチ、ロン・アン)の6サブ・プロジェクトを選び、それらをケース・スタディとして評価した。

 事業効果に関し、道路整備については、本事業により整備された道路利用者へのインタビュー結果によると、道路利用者の多くが、以前よりも道路の質が向上したと考えており、その結果、利用量も増大したことが明らかになった。また、ケース・スタディを実施した省においては、道路整備により、道路の拡張、車線数の増加、舗装が行われ、車両数の増加や通行時間の短縮が実現された。水道整備については、ほとんどが最近完成したばかりであり、本事業全体による水道整備に係る効果指標の実績データは今後報告される予定であるが、ケース・スタディを実施した3つの省においては、水道普及率の向上や公衆衛生の改善が確認された。

 事業の運営・維持管理に関しては、ケース・スタディとして調査した3省のサブ・プロジェクトの維持管理状況はおおむね良好であることが確認された一方で、道路整備においては橋が未整備であり交通量増大のネックになっていることが判明し、また、水道整備では、一部に未据付けの機器があることが確認された。この点は本行および実施機関である計画投資省(MPI)は今後ともモニタリングする必要がある。


13.パプアニューギニア・「農業振興開発事業」

評価実施者:JBIC

プロジェクトの目的

 本事業は、パプアニューギニア農業銀行(のちに地方開発銀行、以下「RDB」)を通じて、小規模農家へサブ・ローンを供与することにより、主要輸出産品であるコーヒー、ココアの生産水準の維持・品質向上を図るとともに、その他作物の生産の多様化を図ることで、農民所得の増大と国際収支の改善に寄与するものである。

 本事業は、いわゆるツー・ステップ・ローンであり、国際協力銀行から貸付けられた資金はパプアニューギニア政府経由実施機関であるRDBに貸付けられ、その後、エンド・ユーザーに転貸されている。計画時のサブ・ローン対象は、コーヒー・ココアおよびその他の農産品で、新たな輸出換金作物、輸入代替となる食用作物、栄養改善に資する作物とされていた。


評価結果

 本事業により最終的に2,213百万円の事業資金が貸し付けられ、生産活動の拡大、生産性の向上、所得の増加がいくつかのケースで報告されている。それらは金融支援のみがその理由ではないが、種子、肥料、器具備品、機械等の投資支出が先行する事業にとって、利用しやすい制度金融の導入は事業意欲の向上に大きな役割を果たしたといえる。これらは一方で、就業機会の創出効果を産んでおり、インタビュー調査対象の合計で229人、本事業全体では約20千人でパプアニューギニア求職者全体の約1.8%に達する。

 その他の効果としては、1)本事業によりエンド・ユーザーでは新型農業機器の導入、農薬の使用により、農作業の自動化、省略等が行われ、重労働・危険作業等から解放されたケースが数多く見られた。2)市場では多種多様な農水産物が取引されてきており、量的な充足のみならず質的にも充足が図られている。また、所得の増加に伴う十分な食料購入および余剰生産物の自家消費により食料事情は改善されている。ただし、一部で商品作物栽培のために伝統的なタロいも、バナナ、豆類、ジャガイモなどの、市場価値は低いが栄養価の高いものの生産が軽視されるなどの影響も見られる。

 RDBの組織能力はMIS(経営情報システム)の導入、車両調達とともに借款資金を用いて雇用されたコンサルタントによるマネジメントの改善により強化された。これによりその機能の向上が図られ、地方部での制度金融システムが拡大された。

 本事業のサブ・プロジェクトはその大部分が地方各地に分散した小規模農家による小規模事業である。その規模は個別農民の場合、2~3ヘクタールであり、グループで行う場合も10ha程度である。また、サブ・プロジェクトの大部分を占めるコーヒー・ココアについては、すでに存在する農地の改植等であった。このため、本事業による環境に対する悪影響は特に見られなかった。


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