2025年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)JICA海外協力隊の特徴─多様な連携と社会への広がり─

JICA海外協力隊は、現地での草の根活動を通じた経験をいかす形で、国内の大学、企業、自治体、地域社会との有機的な連携により、海外と日本を双方向に結ぶグローバル人材の育成や各団体の海外事業展開を推進する重要なツールとして進化しています。ここでは、近年の特徴的な取組について紹介します。

■民間企業、大学、地方自治体等との連携

社会や経済の国際化が進む中、JICA海外協力隊と、民間企業、大学等の教育機関、および地方自治体など多様な主体との連携が、2012年以降本格的に行われています。

民間企業との連携派遣では、社員が協力隊として海外に派遣され、現地で得た知見を社内に還元することにより、グローバル人材育成や企業の社会的責任(CSR)注2活動の強化、企業の海外展開の後押しにつながっています。社員を派遣し、現地での技術支援や教育活動を通じ、社内の人材育成に活用している企業や、ボランティア特別長期休暇制度を設けることで、社員の協力隊派遣を支援している企業もあります。

大学との連携では、学生が派遣前に開発課題について学び、現地での実践を通じて地域と国際社会の関係性を理解する教育プログラムが進められています。これにより、学生が早い段階から国際協力に関心を持ち、同分野において将来的に活躍する人材の育成にも寄与しています。2026年度からは、日本の大学や研究機関に所属する若手研究者を、1~2年間、協力隊員として派遣する「科学技術協力隊」も開始する予定です。現地の研究員への指導や共同での研究を通じて、国際的な頭脳循環に貢献することが期待されています。また、学校の教員が現職の身分を保持したまま協力隊の活動に参加できる「現職教員特別参加制度」を通じ、2025年12月時点で累計1,600名以上の教員が派遣されており、開発途上国における教育の質の向上に貢献しています。参加した教員の中には、帰国後にその経験をいかして教育現場などで活躍している方も多くおり、日本の学生の国際的感覚を育むことにも役立っています。

地方自治体との連携では、自治体職員が協力隊として派遣される例や、帰国隊員が地域の国際理解や地域活性化に携わるケースが増えています。「グローカルプログラム(派遣前型)」注3は派遣前に、自治体・団体等が実施する地方創生などの活動に参加し、国内の地域活性化に関する知識と経験を習得する機会を提供するプログラムであり、隊員が派遣中に必要な能力を身に付けることを可能とするだけでなく、帰国後に隊員が海外での自身の経験を自治体に還元する重要なきっかけ作りとなっています。

なお、2025年の大阪・関西万博のテーマウィークイベントでは、JICA海外協力隊の理念と成果を国内外に発信すべく、「世界と日本を変える力」をテーマに帰国隊員や自治体・有識者の方々が登壇し、地方創生の実現に向けた地域づくり等の実例を紹介しました。

■帰国隊員の社会還元を支援するための制度設計
グローカルプログラムを通して島根県海士町で農作業を体験するJICA海外協力隊候補生と農家の方(写真:JICA)

グローカルプログラムを通して島根県海士町で農作業を体験するJICA海外協力隊候補生と農家の方(写真:JICA)

JICA海外協力隊起業支援プロジェクト「BLUE」の一環で行われた「起業アイデア相談会」の参加者(写真:JICA)

JICA海外協力隊起業支援プロジェクト「BLUE」の一環で行われた「起業アイデア相談会」の参加者(写真:JICA)

協力隊の大きな特徴の一つは、派遣を終えた隊員が国内外の社会に経験を還元し、新しい価値を生み出している点です。日本の若年層の内向き志向が指摘される中、日本から離れた国において現地住民と同じように生活をしながら、言葉、文化、価値観などが異なる環境に身を置くことで協力隊員が培った、国際的視野、そして自ら課題を見つけ、周りの人々と協力しながら解決していく力は日本や国際社会が抱える課題解決のためにも有益です。このため、帰国隊員がそれぞれの能力を存分に発揮し、経験を社会還元できるよう、JICAは民間企業・団体、大学、地方自治体などと連携した取組を推進するとともに、帰国後のキャリア支援も積極的に行っています。

その一環として行われているJICA海外協力隊経験者の起業支援プロジェクト「BLUE」注4は、隊員活動を通じて培った経験・能力をいかし、ビジネスを通して教育、農業、福祉、環境などの分野での課題解決に挑戦する帰国隊員を応援するため、JICAが人材育成サービス企業と共に立ち上げたイニシアティブです。協力隊経験者が日本のこどもの居場所作りや地域資源の有効活用に資するビジネスを立ち上げる事例も出てきており、今後「BLUE」の研修プログラム等を通じて、協力隊の経験を基盤にした新しい社会的価値を創出する動きがさらに広がっていくことが期待されます。2025年の第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)(詳細は第Ⅳ部8を参照)の関連イベントとして開催された「Start UP with Africa!~日本とアフリカと変わる力~ powered by JICA BLUE」では、「BLUE」を通じてアフリカで起業した帰国隊員が登壇し、日本とアフリカの若者が連携し、社会起業や技術協力など新しい形の協働に挑戦するきっかけ作りを行いました。

帰国隊員による社会還元の機運を高めるべく、その好事例を収集・紹介する取組の一環として、2023年からは、国内外・公私問わず社会課題の解決に取り組んでいる協力隊経験者を表彰する「JICA海外協力隊帰国隊員社会還元表彰」が開始されました。2025年の第3回表彰では、様々な背景や課題を抱えるこどもたちや災害で被災した方々への支援、スポーツと開発の取組などの活動を行っている7名が選ばれました注5。


  1. 注2 : Corporate Social Responsibilityの略称。企業活動において、社会的公正や環境などへの配慮を組み込み、従業員、投資家、地域社会などの利害関係者に対して責任ある行動をとるとともに、説明責任を果たしていくことを求める考え方。
  2. 注3 : 詳細はJICAホームページを参照。https://www.jica.go.jp/volunteer/glocal_program/
  3. 注4 : Break the Line, Unleash your Entrepreneurshipの略称。詳細はJICAホームページを参照。https://blue.jica.go.jp/
  4. 注5 : 2025年7月14日に開催された第3回JICA海外協力隊帰国隊員社会還元表彰の様子や各受賞者の活動内容についてはJICAホームページを参照。
    https://www.jica.go.jp/volunteer/obog/syakaikangen/
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