6 中央アジア・コーカサス地域
東アジア、南アジア、中東、欧州、ロシアを結ぶ地政学的な要衝に位置する中央アジア・コーカサス地域は、石油、天然ガス、ウラン、レアアースなどの豊富な天然資源を産出する重要なエネルギー輸送路に位置していることから、エネルギー安全保障の戦略的な観点からも重要な地域です。特に、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略以降、中央アジア・コーカサス地域は、ロシアを経由しない欧州および東アジア地域との連結性の要として注目されています。
1991年の独立以降、中央アジア・コーカサス諸国は市場経済体制への移行と経済発展に向け取り組んできていますが、旧ソ連時代以来の経済インフラの老朽化や、一層の市場経済化に向けたビジネス人材の拡大、保健・医療などの社会サービス提供体制の構築などの課題を抱えています。また、内陸に位置する同地域は、地政学的に周辺の大国の影響や近隣諸国の治安の影響を受けやすく、アフガニスタン等の紛争地域から帰還した人々の再統合に伴う社会不安が懸念されています。また、違法薬物等の越境取引に対する国境管理および税関手続の強化等も求められています。
高い成長と人口増を続ける中央アジア・コーカサス地域との協力は、国際的な環境が急激に変化していく中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していく観点からも、重要性を増しています。
●日本の取組
2024年6月のキルギス訪問時に、技術協力「一村一品運動」によって支援を受ける店舗を視察する辻󠄀外務副大臣(当時)(写真左から3人目)
2024年6月のキルギス訪問時に、技術協力「一村一品運動」によって支援を受ける店舗を視察する辻󠄀外務副大臣(当時)(写真左から3人目)
日本は2004年、中央アジアの発展には地域間の協力が不可欠であるとの認識から「中央アジア+日本」対話を立ち上げ、2024年に20周年の節目を迎えました。自由で開かれた国際秩序を維持・強化するパートナーである中央アジアの平和と安定に寄与することを目的に、日本が触媒となり、中央アジア諸国が主体となった域内協力を促進しています。「中央アジア+日本」対話の枠組みで、これまで9回の外相会合を行い、友好と相互信頼に基づくパートナーシップおよび互恵的協力を深化させてきました。さらに、政府関係者による高級実務者会合(SOM)やビジネス対話のほか、麻薬対策・国境管理、観光等をテーマとした専門家会合、中央アジア・コーカサスとの連結性等をテーマとした東京対話(有識者による公開シンポジウム)を実施するなど、政治や経済、人的交流を始めとする様々な分野での協力を促進しています。
これらの取組とあわせ、日本は、中央アジア・コーカサス地域の自由で開かれた持続可能な開発に向け、民主主義・市場経済発展、経済・社会インフラ整備、連結性の強化、国境管理、麻薬対策などの協力を行っています。
連結性の強化に関しては、カスピ海ルートの整備に取り組んでいます。例えば、中央アジア・コーカサス地域では各国で税関システムが異なり、国境を通過する度に煩雑な手続や検査に相当の時間を要しています。こうしたコストを低減するため、2024年、税関分野での国際協力に取り組む世界税関機構(WCO)と連携して、中央アジア・コーカサス地域の税関職員を対象とした通関の効率化につながる協力を開始しました。また、グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)注27の枠組みで、日本を含むG7はカスピ海ルートの整備に関する協力を行っています。
人材育成に関しては、1993年以降、日本は、中央アジア・コーカサス諸国から保健、農業、教育などの分野の研修員約1万3,220人を受け入れるとともに、これら諸国に約3,380人の専門家を派遣しています。また、市場経済移行期から、人材育成奨学計画(JDS)を通じて各国の若手行政官の日本留学を支え、JICA開発大学院連携プログラムの開講、日本人材開発センターによるビジネス人材育成などを通じて、国造りに必要な人材の育成に協力してきました。
社会サービスの提供については、これら諸国において保健・医療体制の強化や、衛生状況の改善に関する事業を進めてきました。例えば、ウズベキスタンでは、地方での巡回医療を可能とするために、CTスキャンやX線のための医療機器を搭載した医療コンテナの供与を決定しました。また、死因に占める非感染性疾患の割合が世界平均よりも高いキルギスでは、適時・適切な医療サービスの提供を目的とし、循環器疾患や乳がんなどの診断・治療用の医療機材を整備することを決定しました。タジキスタンにおいては、安全かつ安定的な給水サービスを確立できるよう、井戸、高架水槽、送排水管網を建設することを決定しています。
近年、コーカサス地域では、民族間の対立の火種が顕在化しています。2023年9月には、アゼルバイジャンによるナゴルノ・カラバフでの軍事行動を受けて、10万人以上の避難民がアルメニアに退避したことから、翌月、日本は国際機関を通じた200万ドルの緊急無償資金協力により、アルメニアおよびアゼルバイジャンにおける避難民等への支援を実施しました。また、その後も、日本は国連開発計画(UNDP)を通じて、アルメニアにおいて、一時的避難所での電気・水等のインフラや地方医療サービスの整備を行い、復旧・復興を支えています。
その他、日本は、タジキスタンにおけるアフガニスタンとの国境周辺地域で、国境警備所の設置、国境管理のオンライン化用機材の供与や研修等を通じた治安維持体制の強化につながる協力を行っています。また、アフガニスタンと国境を接する中央アジア5か国では、紛争地域や国外の出稼ぎから帰還した青年が社会に再統合できるよう、技能訓練や就労支援を行うほか、コミュニティ活動等を通じ社会参加を促進するなど、社会の安定化を図る支援も行っています。
案件紹介10
タジキスタン
教育推進のための教職課程構築事業
日本NGO連携無償資金協力(2024年2月~2025年2月)
障害者も安心して学べる環境を
タジキスタンでは、障害のあるこどもの公立学校における教育へのアクセスは法律上保障されていますが、実際の就学は限定的です。その背景には、障害に関する知識の欠如や偏見、校舎のバリアフリー化の不足、特別なニーズに対応できる教員養成や教材といった教育環境の整備が進んでいないことなどが挙げられます。
特定非営利活動法人難民を助ける会は、2014年から公立学校や高等教育機関と連携し、インクルーシブ教育注1の推進に取り組んでいます。本事業では、西部のトゥルスンゾダ市にある教員養成専門学校において、インクルーシブ教育に関する教員研修、指導例をまとめた実例集の作成を行っています。研修を受けた教員8人は、将来教員を目指す学生202人に対して講義を行い、その講義を受けた学生たちは公立学校での教育実習で障害に関する授業を行いました。授業を受けた生徒を合わせると、本事業を通じてこれまでに約800人が、インクルーシブ教育に関する知識を深めています。
教育実習生の授業に同席した公立学校の教員は「ダウン症の生徒にどのように接すればよいか分からなかったが、授業の進め方や障害児に対する話し方などの実践例を学ぶことができたので、自分の授業でも活用したい。」と話し、現場でも変化が生まれています。
このほかにも、教員養成専門学校におけるバリアフリー設備の整備や障害への理解に関する地域住民に対する啓発活動なども実施しています。
これからも日本はNGOとの連携を通じて、障害の有無にかかわらず全ての人が質の高い教育を受けられる環境を目指し、インクルーシブ教育を推進し、タジキスタンの国造りを後押しします。
現地の聴覚障害の専門家から聴覚障害者への教授法や手話について学ぶトゥルスンゾダ教員養成専門学校の教員たち(写真:特定非営利活動法人難民を助ける会)
障害者やその家族を対象にしたトゥルスンゾダ教員養成専門学校の入学説明会(写真:特定非営利活動法人難民を助ける会)
注1 人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的および身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ教育。
- 注27 : 注31を参照。
