(7)文化・スポーツ
国を象徴するような文化遺産は、観光資源として開発が進めば、地域での雇用創出につながるなど、周辺住民の生活向上に有効に活用できます。国外からの観光客を魅了するような文化遺産は、自国経済の重要な外貨獲得源にもなり得ます。一方、資金や機材、技術などの不足から、存続の危機に晒(さら)されている文化遺産も多く存在し、このような文化遺産を守るための支援が必要とされています。世界的に価値のある建造物などを人類共通の遺産として保護する国際的枠組みである世界遺産条約注99では、遺産の保護とそのための国際協力は国際社会全体の義務であるとされており、こうした開発途上国の貴重な文化遺産を始めとする文化の保護・振興は、対象国のみならず、国際社会全体が取り組むべき課題でもあります。
また、スポーツは国民の健康の維持・増進に寄与するだけでなく、「人間の安全保障」を推進するための「人への投資」として重要な教育の一手段としても位置付けられます。相手を尊重する気持ちや他者との相互理解の精神、規範意識を育むことにも貢献するとともに、スポーツの持つ影響力やポジティブな力は、開発途上国に開発・発展の「きっかけ」を与える役割を果たします。
●日本の取組
カメルーンにおいて、こどもたちにラグビーを教えるJICA海外協力隊員(写真:JICA)
カメルーンにおいて、こどもたちにラグビーを教えるJICA海外協力隊員(写真:JICA)
日本は、文化無償資金協力解説を通じて、1975年から、開発途上国の文化(スポーツを含む)・高等教育の振興、文化遺産の保全などのための支援を実施しています。文化無償資金協力によって整備された施設は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の拠点にもなり、日本に対する理解を深め、親日感情を培う効果があります。2024年には、日本語教育を含む教育分野、文化遺産保存分野、スポーツ分野への支援を含む17件の文化無償資金協力を実施しました。
また、日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO)に設置した日本信託基金などを通じて、文化遺産の保存・修復を支援しています。2024年度は約5億円を拠出し、文化遺産保存分野の事業を複数実施しています。特に開発途上国の人材育成・能力構築に力を入れており、将来、自らの手で自国の文化遺産を守っていけるよう、日本人専門家を中心とした専門家の派遣や、ワークショップの開催などを通じて、保存・修復の技術や知識の移転に努めています。加えて、防災や気候変動への対応など、今日の文化遺産が直面する問題に対応した、複合的な支援を積極的に実施しています。さらに、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、口承伝承(語り伝え)などの無形文化遺産についても、同じく日本信託基金を通じて、継承者の育成や記録保存、保護のための体制作りなどを支援しています。
ほかにも、アジア太平洋地域世界遺産等文化財保護協力推進事業として、アジア太平洋地域から文化遺産保護に携わる若手専門家を招き、文化遺産保護の能力向上を目的とした研修事業を実施しています。木造建築物の保存・修復と考古遺跡の調査記録についての研修を隔年で行っているほか、2024年はラオスの文化遺産保護に携わる専門家を対象に、デジタル技術を用いた考古遺物の記録、保存および活用に関する研修をオンライン形式で実施しました。
スポーツ分野では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の機運を高めるべく2014年から開始された国際貢献策「スポーツ・フォー・トゥモロー」注100を、同大会終了後も継承しています。本事業は、スポーツを通じた国際交流・協力により、日本の存在感を示す取組を発展的に実施していくとともに、日本の強みをいかしたスポーツ分野の国際協力事業を通じてSDGsにも貢献することを目指しています。2024年は、スポーツ分野において173人のJICA海外協力隊員を開発途上国に派遣しました。このほか、スポーツ関連設備や器材の提供、指導者や選手の派遣および招聘(へい)、スポーツ分野での技術協力・日本文化紹介・人材育成といった事業を展開しています注101。
案件紹介5
エクアドル
マナビ県における博物館免震機材整備計画
一般文化無償資金協力(2022年4月~2024年3月)
日本の防災技術を活用した文化財の保護
エクアドルには、古代アンデスの歴史を伝える多様かつ貴重な文化遺産が多く存在しています。エクアドル政府は近年、これら遺産の保存の重要性を再認識し、国立博物館の再編を積極的に進めるなど、市民参加型の文化財保護への理解を推進しています。
一方で、同国は地震多発国であり、2016年にはマグニチュード7.8の地震に襲われました。その被害は文化財にも及び、震源地近くの博物館では免震対策がなく、展示ケースが転倒して大破したほか、展示物が落下して破損するなど、甚大な被害が発生しました。
日本は地震直後から、文化財の被害状況を調査する専門家を派遣し、その後も、エクアドルの技術者を日本に招き、日本で蓄積された文化財防災の取組を紹介するなど、文化財の損害予防に向けた支援を行ってきました。
本事業では、2016年の地震で被災したマンタ国立博物館・文化センターおよびオハス・ハボンシーリョ考古学博物館に対して、日本の防災技術を活用した免震展示ケースや免震機能付き移動棚の整備を支援しました。この支援により、これまで十分な免震対策がとられていなかった文化財1,726点の破損リスクが大幅に軽減される見込みです。
整備機材の供与式に出席したノボア・エクアドル大統領からは、同国初となる免震構造の展示機材が設置されたことは重要なマイルストーンであり、文化財の保護だけでなく、将来の世代による歴史理解の促進にも貢献するものとして、日本に対する感謝の言葉が寄せられました。
マンタ国立博物館・文化センターで展示品の説明を受けるノボア・エクアドル大統領(右奥)(写真:JICA)
マンタ国立博物館・文化センターで、日本政府から供与された免震構造のショーケースに展示された文化遺産を眺める来館者(写真:エクアドル文化遺産省)
用語解説
- 文化無償資金協力
- 開発途上国における文化(スポーツを含む)・高等教育振興、および文化遺産保全に使用される資機材の購入や施設の整備を支援することを通じて、開発途上国の文化・教育の発展および日本とこれらの諸国との文化交流を促進し、友好関係および相互理解の増進を図るための無償資金協力。開発途上国の政府機関を対象とする「一般文化無償資金協力」と、NGOや地方公共団体などを対象として小規模なプロジェクトを実施する「草の根文化無償資金協力」の2つの枠組みがある。
- 注99 : 正式名称は「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」。文化遺産や自然遺産を人類全体のための遺産として損傷、破壊などの脅威から保護し、保存していくために、国際的な協力および援助の体制を確立することを目的とした条約。1972年の国連教育科学文化機関(UNESCO)総会で採択され、1975年に発効、日本は1992年に締結している。
- 注100 : スポーツ・フォー・トゥモローホームページ https://www.sport4tomorrow.jpnsport.go.jp/jp/
- 注101 : 外務省によるスポーツ外交の取組 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/hito/sports/index.html
