(2)日本のODAの特徴
■質の高い経済成長
日本は、戦後の復興の経験を背景に、一貫して包摂的・持続的・強靭(じん)性のある経済成長を通じて貧困削減等を達成することを重視し、インフラ整備を始め、産業人材育成、法制度整備などを通じた開発途上国の産業基盤、投資環境整備を行ってきました。他の主要ドナーが、教育、保健、上下水道などの社会インフラ分野への支援を重点的に行っているのに対して、輸送、通信、電力などの経済インフラ分野への配分が多いことは、日本の支援の特徴です注4。こうした大規模なプロジェクト支援は、時に貧困削減や財政支援・プログラム支援を重視する欧州諸国との考え方の違いもありましたが、結果的にアジアを始めとする開発途上国の高成長を促し、それらの国々の貧困削減にもつながったことは、国際社会から高い評価を得ています。
日本は、開発途上国における質の高い経済成長の実現のためには、開放性、透明性、ライフサイクルコストから見た経済性、債務持続可能性等を考慮した「質の高いインフラ」注5を整備する必要があることを提唱し、G20など国際場裡において国際社会をリードしています。近年、開発途上国は著しい経済成長を遂げ、抱える課題も複雑化しています。グリーン・トランスフォーメーション(GX)、デジタル・トランスフォーメーション(DX)注6、サプライチェーンの強靭化・多様化等を通じた食料やエネルギー安全保障など、日本とも共通する課題についての解決も追求すべく、多様な主体とも連携して幅広い取組を行っています。
【事例2】タイ東部臨海開発
日本は臨海工業地帯の開発による輸出産業育成の経験をいかし、タイ東部臨海地域に技術協力や円借款などを組み合わせた支援を提供してきた。工業地帯として整備された同地域は首都バンコクに次ぐ第2の経済圏に発展し、日本企業を含む自動車産業、電気・電子産業など多様な業種が拠点を構え、タイ経済を牽(けん)引している。日本は現在、タイ政府が目指す次世代自動車やスマート・エレクトロニクスなどの新しい産業での成長を後押しすべく、高度産業人材の育成を支援している。
円借款の支援を受けたレムチャバン港。遠浅で大型船が入れないバンコク港の代替として、1991年に開港。今ではタイ最大のコンテナ取扱い港となっている。(写真:OKUNO Yasuhiko/JICA)
レムチャバン港で貨物の積卸しをする船舶(写真:OKUNO Yasuhiko/JICA)
■自助努力の後押し
かつて被援助国だった日本は、戦後復興に必要な多岐にわたる分野で世界銀行等から多額の資金を借り入れ、戦後の高度成長の基盤を築きました。このように、自力で返済することで被援助国から経済発展した自国の経験を背景に、開発途上国が自身の事業として取り組む意識を高めることが、効果的な開発協力のために重要との考えに基づき、日本のODAは、返済義務のある有償資金協力が占める割合が一貫して多くなっています注7。
このような背景から、日本は、相手国の意思や自主性を重視し、オーナーシップ(主体的な取組)を尊重して対話・協働に努めてきています。インフラ整備などハード面での支援を行うだけではなく、現地の人々が自らの生活を自立的に発展させていけるよう、人づくり、法制度整備などのソフト面の支援を組み合わせた協力を通じて、開発途上国の自助努力・自立的発展の基礎を支援してきました。
【事例3】フィリピン沿岸警備隊(PCG)支援
フィリピンの海上安全確保と海上法執行等を担うPCGに対して、日本は、2002年から、法執行や安全な航行、海難救助のための研修から教育システムの構築まで、能力向上と人材育成のための協力を継続的に実施。当時4,000人程度だったPCGの人員は今では3万人を超える。PCGには、円借款で大型巡視船2隻の建造も支援しており、太平洋沿岸地域の国にとって重要なシーレーンに面するフィリピンに対する協力は、日本を含むインド太平洋沿岸地域の国にとって重要なシーレーンの安全の確保、ひいてはインド太平洋地域の平和と安定にもつながる。
日本の支援により供与された巡視船。4,000海里以上の航続距離能力を有するほか、排他的経済水域(EEZ)を監視する能力を持つ通信設備やヘリコプター用設備、遠隔操作型の無人潜水機、高速作業艇等、海洋状況の把握と海事法執行活動に必要な装置や機器を装備している。特に、荒天時の救難活動や沖合・沿岸域での巡回業務において重要な役割を担っている。(写真:JICA)
PCGに対して技術指導を実施。
■人間の安全保障
人間の安全保障の実践を先導した緒方貞子氏が、2008年にシリアのアレッポにあるパレスチナ難民キャンプの学校を訪問する様子(写真:JICA)
SDGsにおける「誰一人取り残さない」というキーワードは有名ですが、開発途上国における開発を進める上で、特に配慮すべき存在は社会的弱者です。人間の安全保障とは、貧困・飢餓にあえぐ人々、自然災害、戦争・紛争の被災者、女性、こども、障害者、難民・避難民といった社会的に脆(ぜい)弱な立場にある人間一人ひとりに着目し、人々が恐怖や欠乏から免れ、尊厳を持って生きることができるよう、個人の保護と能力強化といった「人への投資」を通じて国・社会づくりを進めるという考え方です。日本は国連開発計画(UNDP)を始めとする国際機関とも連携し、人間の安全保障の考え方の理解促進を図るとともに、感染症や気候変動など深刻化する脅威への対応や、食料、難民、災害対応といった緊急人道支援、医療・教育等基礎的なサービス提供など、様々な分野でこうした社会的に脆弱な人々に支援を届けてきました。
人間の安全保障の考え方は、日本のあらゆる開発協力に通底する指導理念としても位置付けられています。日本は個人の保護と能力強化といった「人への投資」に加え、様々な主体との連帯を新しい時代の人間の安全保障の柱とし、人間の主体性を中心に置いた開発協力を行っていきます。
【事例4】トルコ南東部を震源とする地震被害を受けた人道支援と相互の協力
2023年2月、トルコ南東部を震源とする大地震の発生を受けて、日本は発災直後から緊急援助活動を展開。テントや毛布などの緊急援助物資を迅速に供与するとともに、国際緊急援助隊を派遣し、日本の災害対応の知見をいかし、行方不明者の捜索・救助活動および医療活動、災害救援物資の輸送活動、復旧・復興に向けた円借款の供与等の支援を実施。また、国際機関やNGOとも連携し、緊急無償資金協力を実施した。1890年、和歌山県紀州沖で台風による海難事故に遭遇したトルコからの使節団を救助しトルコへの送還を支援した「エルトゥールル号事件」に交流の端緒を有し、地震多発国としての共通点を持つ両国は、2011年の東日本大震災に際しトルコからの緊急援助隊が宮城県で救助活動を行うなど、長年にわたる相互の協力関係がある。
トルコ南東部を震源とする被災地で活動する日本の救助チームと救助犬(写真:JICA)
東日本大震災時、宮城県で救援活動を行うトルコの救援隊
