開発協力トピックス3
人間の安全保障
人間の安全保障とは、人間一人ひとりに着目し、人々が恐怖や欠乏から免れ、尊厳を持って生きることができるよう、個人の保護と能力強化を通じて国・社会づくりを進めるという考え方です。日本は長年にわたって人間の安全保障の理念を国際社会で推進してきており、開発協力大綱でも、日本の開発協力の根本にある指導理念として位置付けてきました。一人ひとりに焦点を当てる人間の安全保障は、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指す持続可能な開発目標(SDGs)注1の理念とも軌を一にするものです。
2023年6月の改定後の開発協力大綱においても、引き続き人間の安全保障を指導理念としつつ、複合的な危機の状況に対応する人間の安全保障を実現することを目的として、新しい時代の「人間の安全保障」を基本方針の1つとして掲げています。これは、個人の保護と能力強化といった「人への投資」に加え、様々な主体の連帯を柱として、人間の主体性を中心に置いた開発協力を行っていくものです。なお、この考えは、2022年に国連開発計画(UNDP)が公表した人間の安全保障に関する特別報告書において、従来の人間の安全保障の2つの柱である「保護」と「能力強化」に加えて、「連帯」の概念を取り込んだ新たな時代の人間の安全保障の必要性が提唱されたことを踏まえています。
日本政府は人間の安全保障の推進のため、概念の普及と現場での実践の両面で、これまでに様々な取組を実施しています。2012年には日本主導により人間の安全保障の共通理解に関する国連総会決議が全会一致で採択されたほか、人間の安全保障に関するシンポジウムの開催等を通じて、国際社会における人間の安全保障の概念の普及に積極的に取り組んでいます。日本が議長国を務めた2023年5月のG7広島サミットでも、複合的な危機に直面する開発途上国に対し、新たな時代の人間の安全保障の理念に立脚し、脆(ぜい)弱な立場に置かれやすい人々を支援する取組を重視していく姿勢を示しました。
また、現場での人間の安全保障の実践を推進するため、日本の主導により、1999年に国連に人間の安全保障基金が設置され、2022年度までに日本は同基金に累計で約500億円を拠出しています。同基金は、2022年末までに100以上の国・地域で、国連機関が実施する人間の安全保障の確保に資するプロジェクト293件を支援してきました。
2024年1月には、人間の安全保障に関する国連事務総長報告が発出され、これを踏まえて今後、国連の場を中心に人間の安全保障をめぐる議論が活発になることが見込まれています。長年にわたって人間の安全保障を提唱してきた日本は、こうした議論を積極的に主導していく考えです。

2023年3月、日本が国連人間の安全保障基金を通じて、国連開発計画(UNDP)と国際移住機関(IOM)に拠出して、モルドバに滞在するウクライナ避難民やモルドバのコミュニティ支援を行う旨を発表する様子(写真:UNDP Moldova)
注1 用語解説を参照。