(7)文化・スポーツ
国を象徴するような文化遺産は、観光資源として開発が進めば、地域での雇用創出につながるなど、周辺住民の生活向上に有効に活用できます。国外からの観光客を魅了するような文化遺産は、自国経済の重要な外貨獲得源にもなり得ます。一方、資金や機材、技術などの不足から、存続の危機に晒(さら)されている文化遺産も多く存在し、このような文化遺産を守るための支援が必要とされています。世界的に価値のある建造物などを「人類共通の遺産」として保護する国際的枠組みである世界遺産条約注88では、遺産の保護とそのための国際協力は国際社会全体の義務であるとされており、こうした開発途上国の貴重な文化遺産を始めとする文化の保護・振興は、対象国のみならず、国際社会全体が取り組むべき課題でもあります。
スポーツは、国民の健康の維持・増進に寄与するだけでなく、「人間の安全保障」を推進するための「人への投資」として重要な教育の一手段としても位置付けられます。相手を尊重する気持ちや他者との相互理解の精神、および規範意識を育むことにも貢献するものであり、スポーツの持つ影響力やポジティブな力は、開発途上国に開発・発展の「きっかけ」を与える役割を果たします。
●日本の取組

開発教育に取り組む教員を開発協力の現場に派遣し、帰国後そこで得た学びを授業にいかすことを目的とした教師海外研修事業で、ラオスのソークカム小学校で日本文化紹介授業を行う日本人教師(写真:JICA)
日本は、文化無償資金協力解説を通じて、1975年から、開発途上国の文化(スポーツを含む)・高等教育の振興、文化遺産の保全などのための支援を実施しています。文化無償資金協力によって整備された施設は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の拠点にもなり、日本に対する理解を深め、親日感情を培う効果があります。2023年には、日本語教育を含む教育分野、文化遺産保存分野、スポーツ分野への支援を含む20件の文化無償資金協力を実施しました。
また、日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO)に設置した「日本信託基金」などを通じて、文化遺産の保存・修復作業、機材供与や事前調査などを支援しています。2023年度は約6億円を拠出し、その中から文化遺産分野の事業を複数実施しています。特に、将来、自らの手で自国の文化遺産を守っていけるよう、日本は開発途上国の人材育成に力を入れており、日本人専門家を中心とした国際的専門家の派遣や、ワークショップの開催などを通じて、技術や知識の移転に努めています。また、有形の文化遺産だけでなく、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、口承伝承(語り伝え)などの無形文化遺産についても、同じく日本信託基金を通じて、継承者の育成や記録保存、保護のための体制作りなどを支援しています。
ほかにも、アジア太平洋地域世界遺産等文化財保護協力推進事業として、アジア太平洋地域から文化遺産保護に携わる若手専門家を招き、文化遺産保護の能力向上を目的とした研修事業を実施しています。木造建築物の保存修復と考古遺跡の調査記録についての研修を隔年で行っているほか、2023年は中央アジア地域(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)の専門家を対象に、デジタル技術を用いた考古遺物の記録、保存および展示に関する研修をオンライン形式で実施しました。
スポーツ分野では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の機運を高めるべく2014年から開始された国際貢献策「スポーツ・フォー・トゥモロー」注89を、同大会終了後も継承しています。本事業は、スポーツを通じた国際交流・協力により、日本の存在感を示す取組を発展的に実施していくとともに、日本の強みをいかしたスポーツ分野の国際協力事業を通じてSDGsにも貢献することを目指しています。2023年は、スポーツ分野において105人のJICA海外協力隊員を開発途上国に派遣しました。このほか、スポーツ関連設備や器材の提供、指導者や選手の派遣および招へい、スポーツ分野での技術協力・日本文化紹介・人材育成といった事業を展開しています注90。
用語解説
- 文化無償資金協力
- 開発途上国における文化(スポーツを含む)・高等教育振興、および文化遺産保全に使用される資機材の購入や施設の整備を支援することを通じて、開発途上国の文化・教育の発展および日本とこれらの諸国との文化交流を促進し、友好関係および相互理解の増進を図るための無償資金協力。開発途上国の政府機関を対象とする「一般文化無償資金協力」と、NGOや地方公共団体などを対象として小規模なプロジェクトを実施する「草の根文化無償資金協力」の2つの枠組みがある。
- 注88 : 正式名称は「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」。文化遺産や自然遺産を人類全体のための遺産として損傷、破壊などの脅威から保護し、保存していくために、国際的な協力および援助の体制を確立することを目的とした条約。1972年の国連教育科学文化機関(UNESCO)総会で採択され、1975年に発効、日本は1992年に締結している。
- 注89 : スポーツ・フォー・トゥモローホームページ https://www.sport4tomorrow.jpnsport.go.jp/jp/
- 注90 : 外務省によるスポーツ外交の取組 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/hito/sports/index.html