2023年版開発協力白書 日本の国際協力

(3)水・衛生

水と衛生の問題は人の生命に関わる重要な問題です。世界の約22億人が、安全に管理された飲み水の供給を受けられず、約35億人が安全に管理されたトイレなどの衛生施設を使うことができない暮らしをしています注70。特に、水道が普及していない開発途上国では、多くの場合、女性やこどもが時には何時間もかけて水をくみに行くため、女性の社会進出やこどもの教育の機会が奪われており、ジェンダー平等および包摂的な社会の推進の観点からも重要な課題となっています。また、不安定な水の供給は、医療や農業にも悪影響を与えます。水・衛生インフラの整備は、感染症に強い環境整備にもつながり、より強靱(じん)、より公平でより持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)注71実現のためにも必要です。SDGsの目標6は、「全ての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことを目指しています。

●日本の取組

ニカラグア上下水道公社のカウンターパートと送配水機材のニーズを確認するJICA専門家(写真:JICA)

ニカラグア上下水道公社のカウンターパートと送配水機材のニーズを確認するJICA専門家(写真:JICA)

パラオ・コロール州の学校で、日本の支援により新設された手洗い場でいつでも手洗いができるようになったこどもたちの様子

パラオ・コロール州の学校で、日本の支援により新設された手洗い場でいつでも手洗いができるようになったこどもたちの様子

日本は、1990年代から累計で、世界一の水と衛生分野における援助実績を有しています。2023年、インドネシア、カンボジアを始めとする国々で上下水道整備・拡張のための協力を実施しました。例えば、カンボジアでは、下水道管理に係る法・制度の整備を通じて、プノンペン都庁および公共事業・運輸省の下水道管理の体制構築を支援しています。また、タジキスタンでは、給水サービスの改善に向けて、ピアンジ県・ハマド二県の上下水道公社の能力強化を目的とした技術協力プロジェクトを実施しました。現在そのフォローアップのために、給水政策アドバイザー専門家が派遣されています。さらに、パキスタンでは、パンジャブ州ムルタン市における下水・排水サービス改善計画や同州ファイサラバード市における浄水場および送配水管網改善計画等を実施しています(カンボジアに対する支援については、「国際協力の現場から4」、南スーダンにおける日本の取組については「案件紹介」を参照)。

2023年5月にニューヨークで開催された「国連水会議2023」には、約200の国・地域・機関から首脳級20人、閣僚級120人を含む6,700人以上が参加し、日本からは上川総理特使らが出席しました。上川特使は「国連水会議2023」の5つのセッションのうち、水に関する気候変動と強靱化等を議論するセッション3の共同議長をエジプトと共に務め、日本の水防災の経験もいかし、世界における水分野の強靱化に向けた提言を取りまとめました。また、11月、上川外務大臣は、エジプト政府が主催するカイロ水週間にビデオ・メッセージを送る形で参加しました。

日本国内および現地の民間企業や団体と連携した開発途上国の水供給体制改善の取組も、世界各地で行っています。例えば、ケニアでは、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を活用して、「水道施設における無収水対策・管継手導入に係る普及・実証・ビジネス化事業」が実施されています。同国では、配水管からの漏水が多く、課題となっています。同事業では、日本企業の水道管継手(くだつぎて)注72の技術を漏水防止にいかすため、パイロットプロジェクトが立ち上げられています。

環境省でも、アジアの多くの国々において深刻な水質汚濁が生じている問題に対して、現地での情報や知識の不足を解消するため、アジア水環境パートナーシップ(WEPA)を実施しており、アジアの13の参加国注73の協力の下、人的ネットワークの構築や情報の収集・共有、能力構築などを通じて、アジアにおける水環境ガバナンスの強化を目指しています。2023年2月にカンボジアで開催された第18回WEPA年次会合では、「産業排水の管理の現状と課題」に焦点を当て、各国における水環境ガバナンスの進展について情報共有するとともに、活発な意見交換が行われました。また、SDGsの目標6.3に掲げられている「未処理汚水の半減」の達成に貢献すべく、主にアジア地域を対象に、日本の優れた技術である浄化槽の技術や法制度などを紹介しています。11月に第11回のワークショップをオンラインで開催し、日本および海外における浄化槽の処理水の活用事例、浄化槽の良好な処理水質を維持するための日本の法制度や分散型汚水管理に係る海外の地方政府の条例案について発表が行われ、議論を重ねることで、今後の方向性や解決に向けての改善策に関して共通認識を得ました。これにより、浄化槽を始めとした分散型汚水処理に関する情報発信と各国の分散型汚水処理関係者との連携強化を図りました。

また、11月にインドネシアの環境林業省との共催でインドネシア水環境改善セミナーを開催し、日本における浄化槽の法体制や維持管理について知見を提供し、インドネシアでの分散型汚水管理に関する今後の課題や取組について議論を重ねて、日本の浄化槽の海外展開の促進を図りました。

案件紹介4

南スーダン

SDGs8

安全・安価な水を、より多くの住民へ安定供給
ジュバ市水供給改善計画
無償資金協力(2012年6月~2023年1月)

2011年に独立した南スーダンは、長期にわたる衝突により、社会経済を支える基礎的インフラが荒廃し、市民の生活にも今なお様々な影響が及んでいます。1930年代に建設された首都ジュバ市の上水道施設は十分な整備が行われず、経年による老朽化が進んでいました。加えて、2005年に締結された南北包括和平合意以降、帰還民の流入等による急激な人口増加に対応できておらず、浄水の普及率は2010年時点で8%程度に留まり、多くの人が川の原水や井戸水で生活していたため、感染症や経済活動への影響が課題となっていました。

そこで日本は、2012年から浄水施設の拡張および送配水管網・給水施設の新設への協力を開始しました。国内の政情不安や新型コロナウイルス感染症拡大等の影響により工事の中断を余儀なくされながら、2023年1月に完工し、地元市民への給水を開始しました。

日本の協力により、給水車の給水拠点8か所、公共水栓120か所での給水が可能になり、1日に約38万人への給水が行われ、給水人口は施設稼働前の3.4万人から10倍以上に増加しています。給水拠点には、朝から給水車や地域の人々が集まり、昼頃には供給する水を全て配り終える状況であり、住民からは、「給水までにかかる時間が短くなった」「きれいな水がこれまでよりも安い料金で手に入れられるようになった」といった喜びの声が寄せられています。

安全な水へのアクセスは、人々の生活に欠くことのできない基本的な権利です。日本は今後も、こうした基本的な社会経済基盤の整備を通じて、人々の生活を守り、南スーダンの国造りを後押ししていきます。

完成した浄水場全景(写真:株式会社TECインターナショナル)

完成した浄水場全景
(写真:株式会社TECインターナショナル)

公共水栓に水を購入しに来た女性とこどもたち。順番待ちができるほど需要が大きい(写真:株式会社TECインターナショナル)

公共水栓に水を購入しに来た女性とこどもたち。順番待ちができるほど需要が大きい(写真:株式会社TECインターナショナル)


  1. 注70 : UNICEFによるデータ(2022年)。https://data.unicef.org/resources/jmp-report-2023/
  2. 注71 : 注60を参照。
  3. 注72 : 配管と配管をつなぎ合わせるための接合部に使うパーツ。無駄なく水を活用する上で重要な水道インフラの部材。
  4. 注73 : インドネシア、韓国、カンボジア、スリランカ、タイ、中国、ネパール、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス、日本の13か国。
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