開発協力トピックス2
「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた取組の推進

カンボジアのシハヌークビル港の様子(写真:JICA)

JICA課題別研修「海図作製技術」コース

日本の有償資金協力により建設中のインドネシア・パティンバン港開発事業における日本人技術者とインドネシア人技術者による協同作業

アフリカ南東部の連結性向上に向け、ザンビアとボツワナの国境における国境管理施設の建替えおよび税関、出入国管理、検疫などを両国で一本化するワンストップ・ボーダーポスト(OSBP)化を支援。写真は、ボツワナ側OSBP施設入口ゲート。(写真:JICA)
アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域は、世界人口の半数を擁する世界の活力の中核です。この一帯の各国・地域、そして、理念を共有する幅広い国際社会のパートナーと共に法の支配に基づく自由で開かれた秩序を構築するため、日本は2016年に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」を提唱し、その実現に向けた取組を進めています。今や米国のみならず、オーストラリア、インド、カナダ、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州の主要国とも協力を確認しています。2022年5月、岸田総理大臣は、日米豪印首脳会合を主催し、FOIPの実現に向け引き続き強くコミットしていることを確認し、各国・地域との連携・協力をさらに深めていくことで一致しました。また、6月には、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)の中で、来年春までにFOIP協力を強化する新たなプランを発表する旨を述べました。ウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす事態が発生する中、FOIPの重要性はさらに増しています。
FOIPの実現に向けた取組において、ODAは重要なツールの一つです。例えば、日本は、地域全体の連結性向上を通じた経済的繁栄を目指しています。域内の港、空港、道路、鉄道などのインフラを国際スタンダードにのっとった形で整備し、各都市や拠点をつなぐことで、地域全体の成長につなげるという考え方です。
カンボジアのシハヌークビル港への支援はその一例です。カンボジアの輸出入コンテナ貨物の約7割を取り扱うシハヌークビル港は、カンボジア全体の経済発展を支えていますが、同国の堅調な経済成長に伴い、コンテナ貨物取扱容量が逼(ひっ)迫しています。日本は、新コンテナターミナルの整備を実施しているほか、2022年8月には同コンテナターミナルを拡張する事業の円借款供与について署名し、同港のコンテナ貨物取扱容量の向上や大型船の直行輸送の実現に貢献しています。併せてJICA専門家の派遣や技術協力プロジェクトの実施を通じた港湾運営の効率化も支援しており、地域の中核港として機能させるべく支援を実施しています。太平洋とインド洋を結ぶ結節点に位置し、地政学的に重要な同港を整備することは、FOIPの実現を後押しすると考えられます。
2022年9月、日本が国連開発計画(UNDP)と協力して支援することを決定したイエメンに対する無償資金協力「アデン港における効率性改善計画」も、紅海の出入口であるバブ・エル・マンデブ海峡に近接するアデン港の機能強化を図る連結性向上支援です。イエメンでの紛争によりイエメン国内の一部の港へのアクセスが困難となっている影響で、アデン港に入港する貨物船数は年々増加傾向にあるため、同港は同国における商業活動や人道支援活動に必要不可欠となっています。アデン港の貨物上屋の改修およびコンテナ管理のデジタル化のための機材供与等を行う今回の支援により、貨物処理の迅速化および貨物輸送費削減が期待されています。
連結性の確保を通じて、物流の円滑化を促進することは、日本企業の域内輸出、海外展開の促進にもつながります。また、インド洋と太平洋にまたがる連結性の実現に向け、日本は質の高いインフラ整備を支援しており、開発途上国への日本の技術移転や人材育成を通じて、日本企業のODA受注力や日本の信頼の向上にもつながっています。
また、日本は、海洋の平和と安全の確保にも貢献しています。例えば、年間約1万6,800隻の日本関連船舶が航行する物流の要所であるマラッカ・シンガポール海峡において、日本はODAを活用し、沿岸諸国の海賊取り締まり能力向上を支援し、発生件数の減少につながっています。また、インド洋においても、海難救助のための海上保安機関の能力向上支援、海図作成のための技術協力、船舶通行支援サービス(VTS)に関する支援を実施し、海上交通の安全の確保に貢献しています。
さらに、日本は、法制度整備支援や司法改革支援により、途上国における法の支配の普及・定着も強化しています。これにより、途上国におけるグッド・ガバナンスの確立、持続的成長の実現のために不可欠な基盤作り、日本企業の海外展開に有効な貿易・投資環境の整備へ貢献しています。
島国である日本は、世界第4位の輸入大国であり、その産業と生活は、海上輸送物資に大きく依存しています。こうした観点からも、連結性の確保、シーレーンの安全確保は、日本の経済、エネルギー、食料の安全保障の観点からも重要です。透明性の高いルールに支えられ、様々な人・物・知恵が活発に行き交う「自由で開かれたインド太平洋」の存在なくして、日本およびこの地域の安定と繁栄はあり得ません。日本はこれからも、ODAを含む様々な取組を通じて、FOIPの実現を進めていきます。