2022年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 3

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日本の有機肥料技術指導で農業振興に貢献
~キルギス農業大学土壌作物分析センターを通じて技術普及・確立を目指す~

キルギス農業大学の「土壌作物分析センター」にて有機農業指導者に講義している西崎氏

キルギス農業大学の「土壌作物分析センター」にて有機農業指導者に講義している西崎氏

現地の農家に対して堆肥作りの技術指導をしている様子

現地の農家に対して堆肥作りの技術指導をしている様子

キルギスは、ソ連崩壊後の1991年に独立した国です。農業は主要産業の一つですが、独立後、集団農業の解体と行政機能の低下によって、農家への技術支援や化学肥料といった農業資材の配給が止まってしまいました。国内では化学肥料が製造されていないため、高価で不安定な輸入に頼らざるをえず、農家は十分な肥料を購入することも困難な状況でした。その結果、技術の衰退や土壌肥沃度の低下が、農作物の収量や品質の低下を招き、人口の約60%といわれる農業従事者の収入は著しく減少しています。

こうした状況を改善するために、帯広畜産大学発のベンチャー企業として発足し、大学の研究成果を活用したバイオガスプラント事業の実績があるバイオマスリサーチ株式会社は、有機肥料作りの技術指導などを通じて、有機農業の普及を目指すJICAの草の根技術協力事業を2013年から実施しています。2022年2月には、キルギスにおける有機農業技術の確立と普及を目指す「国立農業大学における土壌・作物分析技術人材育成プロジェクト」が、3年6か月の計画で始まりました。

長年にわたってキルギスでの事業に従事するバイオマスリサーチ株式会社の執行役員である西崎邦夫氏は、次のように語ります。「日本の技術を活用し、農家が容易に入手できる家畜糞尿を利用して有機肥料を開発し、普及させることを目指して、協力が始まりました。高価で手が出なかった肥料が、これまで投棄していた家畜の糞尿から得られることで歓迎されました。その有機肥料を痩せた土地に使ってみたところ、作物の収穫量が倍増しました。収穫量が目に見えて増えていくことから堆肥の取り合いになるほどでした。こうした経験から、有機肥料を普及することにより、キルギスの農業振興に貢献できるのではないかと考えたのです。キルギスと北海道は気候風土や産業など共通点が多く親近感もあり、目の前で苦労されている農家に協力したい、ひいては国全体の農業振興に貢献したい、そんな思いから協力を続けています。」

協力を通じて、数多くの有機肥料セミナーも開催されました。環境に優しく、効果とコストの面からも良い有機肥料の使用は、作物の品質や収量の向上、農家の収入向上にもつながることから、有機農業に取り組む農家数も増加しています。キルギスにおける有機農業の普及などへの功績が認められ、2016年、西崎氏は、キルギス国立農業大学から名誉教授の称号を授与されました。

2019年には、キルギスで有機農業推進法が成立し、国を挙げて有機農業を促進していく方針が立てられました。「キルギスで有機農業を今後さらに普及するためには、土壌をきちんと分析して、最小量の肥料で豊かな作物ができるような技術の確立が必要です。現在行っているのは、このために不可欠な土壌・作物の分析技術の確立と、技術を伝達するために重要なツールとなる各種マニュアル類の整備、技術を普及する指導者の育成です。」と西崎氏は語ります。

有機農法で作られた作物は付加価値も高く、今後は輸出も含めた新しいマーケットでの販売も視野に入れているとのことです。キルギスの成長を後押しする技術としても、有機農法に大きな期待が寄せられています。

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