2 普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現
2-1 公正で包摂的な社会の実現のための支援
(1)法制度整備支援・経済制度整備支援
開発途上国の「質の高い成長」の実現のためには、一人ひとりの権利が保障され、人々が安心して経済社会活動に従事でき、公正かつ安定的に運営される社会基盤が必要です。こうした基盤強化のため、途上国における自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値の共有や、グッド・ガバナンス(良い統治)の実現、平和と安定、安全の確保が重要となります。
この観点から、法制度整備支援として、法令の整備、実務の運用改善、司法関係者(法曹および矯正・更生保護に従事する職員を含む)の育成などが必要です。また、人づくりも含めた経済制度整備支援として、税制度の整備、税金の適切な徴収・管理・執行、公的部門の監査機能強化、金融制度改善などが必要です。
●日本の取組

「法の支配発展促進プロジェクト」において、日本の支援により2018年に成立した民法典と、それを知らせるポスターを掲げるラオスの最高裁判事とJICA専門家(写真:JICA)
日本は、法制度・経済制度整備支援の一環として、法・司法制度改革、法令の起草支援、法制度運用・執行のための国家・地方公務員の能力向上、内部監査能力強化、制度整備(民法、競争法、知的財産権法、税、内部監査、公共投資など)に関する支援をインドネシア、ウズベキスタン、カンボジア、シエラレオネ、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、東ティモール、ベトナム、モンゴル、ラオスなどの国々で行っています。特に、ラオスでは、日本が20年以上にわたり法制度整備支援に一貫して取り組んだ結果、2020年5月には、同国初の民法典が施行され、現在はその運用支援が行われています。また、インドネシアでは、2022年3月には、主に知的財産事件を扱う裁判官向けの判決集(商標編)が刊行、同年7月には、法令の起草および審査を担当する公務員向けの執務参考資料である「法制執務資料条例・地方首長規則編」が刊行され、同国における法律実務家などの能力向上のために広く活用されています。
このように、途上国の法制度・経済制度が整備され、その運用を適切に行う人材が育成されれば、日本企業がその国で活動するためのビジネス環境が改善されることにもつながります。法制度・経済制度整備への支援は、日本のソフトパワーにより、アジアを始めとする世界の成長を促進し、下支えするものです。
2021年3月に京都で開催された第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)注35において採択された「京都宣言」注36に対して、日本は、具体化に向けたフォローアップを積極的に行っています。具体的には、日本の官民連携による再犯防止の知見をいかした再犯防止国連準則策定の主導に加えて、次世代を担う若者のエンパワーメントを目的とする「法遵守の文化のためのグローバルユースフォーラム」(Col-YF)および国際協力を一層推進するためのアジア太平洋地域における刑事実務家による情報共有プラットフォーラムである「アジア太平洋刑事司法フォーラム」(Crim-AP)の定期開催などの取組を進めています。
法制度運用・執行のための国家・地方公務員の能力向上支援について、具体的には、法律実務家などの人材育成の強化などを目的として、国際研修や調査研究、現地セミナーを実施しています。2022年には、2021年に引き続き、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴う外国人の新規入国制限などの影響により、日本における研修実施が困難であったことから、オンライン方式を用いて、上記の国々から、司法省職員、裁判官、検察官などの立法担当者や法律実務家の参加を得て、各国のニーズに応じて、法令の起草、法制度の運用や法曹育成などをテーマとして研修を実施したほか、現地で開催されたセミナーやワークショップなどに対面で参加し、同様のテーマでの講義を行いました。
さらに、日本は、途上国のニーズに沿った支援を積極的に推進していくため、その国の法制度や解釈・運用などに関する広範かつ基礎的な調査研究を実施して、効果的な支援の実施に努めています。その一つとして、2022年4月からは、インドネシア、カンボジア、フィリピン、ラオスの不動産法制に関する比較研究を行う場として、「アジア・太平洋不動産法制研究会」を定期的に開催しています。
- 注35 : 5年に一度開催される犯罪防止・刑事司法分野における国連最大の国際会議。事務局は国連薬物・犯罪事務所(UNODC)。
- 注36 : 犯罪防止、刑事司法の分野における国連と国連加盟国の中長期的な指針を示す京都コングレスの成果文書。