2022年版開発協力白書 日本の国際協力

世界の現場で活躍する国際機関日本人職員注1

根本巳欧(みおう)
国連児童基金(UNICEF)東京事務所 副代表注2(元JPO注3

根本巳欧氏

2022年夏、ウクライナ緊急人道支援のため、UNICEFブルガリア事務所に緊急支援調整官として3か月間派遣されました。

当時、ブルガリアには70万人近くのウクライナ人がルーマニアなどを経由して到着。そのほとんどがこどもや女性でした。現地では、政府、NGO、コミュニティと連携し、難民のこどもたちに教育や心のケアを提供する支援プログラムの計画と実施、物資調達、人材確保、資金管理を含め、UNICEFの緊急支援活動全般を指揮しました。また、ウクライナ大使館や日本大使館、EUなどとも連絡を取りつつ、日々刻々と変化するウクライナ難民の動きに対しての柔軟な対応を心がけました。

ウクライナ周辺国支援の核となったのが、「ブルー・ドット」と呼ばれる支援拠点です。UNICEFは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と協力し、こうした支援拠点を周辺国に40か所設置。こどもたちと家族に対し、避難生活に必要な情報や支援物資、心のケアや学びと遊びの場を提供しました。「ブルー・ドット」の運営には、日本政府からの拠出金や日本の個人、団体、企業の皆様からの募金も活用されています。日本からの支援が、誰一人取り残さずウクライナ難民のこどもたちの日常を取り戻す、大きな手助けとなっています。

前原真澄
UNICEFタジキスタン事務所 栄養専門官(元JPO)

前原真澄氏

私は、UNICEFタジキスタン事務所で母子栄養プログラムを担当しています。国の経済成長に伴わず、国民特に女性とこどもの栄養状態は望ましいものではありません。発育阻害や重度の消耗症、微量栄養素欠乏症に加え、近年では過体重や非感染性疾患が増加傾向にあります。新型コロナウイルス感染症による社会経済へのダメージからの回復の最中に、ウクライナ紛争による物価高騰が追い討ちをかけ、栄養のある食料の入手や医療サービスへのアクセスが困難になっています。

栄養不良の予防のために、母子の食生活の向上、母乳育児と健康的な離乳食の促進、医療機関やコミュニティでの栄養サービス提供のサポートをしています。また重度の急性消耗症に陥ってしまったこどもの治療とケアを提供するため、医療従事者の能力強化や物資の支援をしています。

栄養支援に加え、日本政府の支援の下、ワクチンや水と衛生の分野など包括的なサポートを提供することを目指し、妊産婦やこどもたちの命と健康を守っています。

金田尚子(かねだたかこ)
国連世界食糧計画(WFP) ローマ本部 サプライチェーン部局 物流担当官(元JPO)

金田尚子氏

2022年2月にウクライナでの武力紛争が激化したことを受け、WFPは、戦争から逃れ、家も仕事も失い、自活できなくなった人々に食料を提供するため、ウクライナ国内および周辺国での支援活動を開始しました。WFPは、2018年以降ウクライナでの事業が無く、提携する倉庫も運送業者もありませんでした。ゼロから物流拠点と欧州からウクライナへの運送網を構築するため、私は緊急派遣一次隊として、ポーランドへ3月から3カ月間派遣されました。

現地の物流規則、国境の混雑状況や燃油価格などに応じ、急速に事態が変化する中での活動は緊張感を伴いましたが、民間物流・調達業者、WFP主導の物流クラスターや人道支援パートナーと協働し、支援を必要としている人々に物資が行き届くように注力しました。活動展開初期からの日本政府の協力の下、WFPは食料支援、現金支給そして物流支援を通じて、戦争が始まって1カ月後には紛争の影響を受けたウクライナ国内および周辺国の100万人、年内までに300万人以上に支援を届けることができました。


  1. 注1 国際機関職員の方からの寄稿。人物の肩書きは執筆時点のものです。
  2. 注2 2023年2月よりUNICEFシリア事務所 副代表に就任予定。
  3. 注3 ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)。JPO派遣制度については、図表IV-3を参照。
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