国際協力の現場から 04

沖縄の経験と技術が太平洋島嶼国のハイブリッド発電を実現
~電力に脆弱性を抱える島嶼国へ安定的かつクリーンで低コストな発電技術を~

キリバスの技術者にエンジンの部品測定を指導する様子(写真:沖縄エネテック)

各国技術者とのオンライン研修の様子(写真:沖縄エネテック)
太平洋地域の島嶼国(とうしょこく)の多くはディーゼル発電を主流としていますが、燃料のほぼ100%を輸入に頼っており、輸送コストや価格の高騰による影響を受けやすく、エネルギー安全保障上の問題となっています。また温暖化対策としても太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの転換が求められています。
このような状況を受け、フィジーを拠点に、ミクロネシア、マーシャル、キリバス、ツバルの5か国の電力公社を対象とした「太平洋地域ハイブリッド発電システム注1導入プロジェクト」が2017年に開始されました。
「ディーゼル発電は安定した電力供給が可能ですが、燃料費や発電設備のメンテナンスコストが高く、電力公社の負担が大きくなります。一方、太陽光発電などの再生可能エネルギーは低コストでクリーンですが、発電出力が気象条件に左右されるため、適切に計画しなければ電力供給が安定しません。安定性と低コスト、この2つの発電方式の利点を活かせるのが、ハイブリッド発電システムです。対象国政府は、温暖化やエネルギー問題への意識も高く、プロジェクトに寄せられる大きな期待を感じています。」と本プロジェクトのチーフアドバイザーを務める小川忠之(おがわただゆき)JICA国際協力専門員は話します。
プロジェクトでは、ハイブリッド発電システムの導入促進を図り、プロジェクト終了後も各国電力公社の技術者によって適切な設備の維持管理を行えるようにするため、各国で中心となる技術者をコアトレーナーと位置づけて指導しています。また、フィジー電力公社(EFL)の研修センターを地域の南南協力の拠点とするため、沖縄の専門家が日本の島嶼部での経験を踏まえた知識と技術を伝えています。
現在は新型コロナウィルス感染症の影響もあり、テレビ会議システムを活用して、ディーゼル発電の稼働効率の向上やハイブリッド発電システムの導入・維持管理についての研修を実施しています。「遠隔研修でも、講義資料をより充実させたり、理解度の確認テストを行うなど工夫を凝らし研修の効果は確実に上がったと思います。現地で分からないことがあると、オンラインで連絡が来て直接アドバイスを行える等の利点もあります。」と語るのは、技術指導で中心的役割を果たす沖縄エネテックの掛福(かけふく)ルイスさんです。こうしたきめ細やかな指導の結果、各国で太陽光発電の効率が向上し、ディーゼル発電機の燃料消費率が改善されるなどの具体的成果も出ています。
また、研修では、安全管理や整理整頓など、発電に携わる各国電力公社職員の意識変革にも努めました。「継続的な指導の結果、発電所内が整理整頓されるようになったり、研修に参加した技術者の安全に関する認識が高まり、安全靴を購入したという話を聞いて、彼らの前向きな思いを感じました。」と掛福さんは語ります。
太平洋地域全体でプロジェクトへの関心は高く、2021年3月、フィジーEFLの技術者が講師となり、当初対象国となっていなかった7か国注2向けの地域研修を実施しました。沖縄の経験に基づいたノウハウがフィジーに蓄積され、EFLを拠点として、太平洋地域全体にハイブリッド発電システム導入に向けた取組が広がりつつあります。
注1 ディーゼル発電と再生可能エネルギー(太陽光・風力など)から2つ以上の方式を組み合わせて行う発電形態のこと。
注2 クック、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン、トンガ。