国際協力の現場から 01一般公募



日本の経験をラオスのインフラ長寿命化に活かし、質の高いインフラを推進!
~長崎大学など産官学連携によりラオスの道路インフラの維持管理と人材育成を促進~

ラオスにて、研究活動の一環として落橋した仮設橋の部材強度の確認作業を行うタボン博士(写真:長崎大学)

「橋梁維持管理研修」にて橋梁の現場踏査を行う様子(左から2番目が西川准教授)(写真:国際開発センター)
ラオスは内陸国であり、人の移動と物流は道路網に大きく依存しています。日本の本州ほどの面積で、その8割が山岳地帯であるため、国の均衡した社会経済発展には、全国に点在する約3,600の橋梁(きょうりょう)の適切な維持管理により道路網を健全に機能させる必要があります。ラオスでは、国道上の橋梁の15%以上が使用を開始してから40年を超え、うち10%が早期かつ緊急の補修を必要としており、こうした橋梁を計画的に維持管理する技術が求められていました。
日本も、高度経済成長期以降に集中的に建設された多くの橋梁が、同時期に老朽化が進行しており、今後数年間で国内の橋梁の約半数が使用開始後50年を超える見込みです。このような状況を改善するために、産官学が一丸となり、研究機関や産業界が主導してインフラ長寿命化にかかる技術革新を行い、国や地方公共団体がこれらの技術の実用化を進めています。
そのような中、長崎大学は、2007年に「インフラ長寿命化センター」を設立し、自治体、民間企業、NPO、一般の市民を対象に道路インフラの維持管理に携わる人材「道守(みちもり)」の養成コースを立ち上げ・運営し、900名以上の道路インフラ維持管理に係る資格保有者を輩出しています。また、その活動は国内だけでなく、国際的な人材育成にも取り組んでいます。
その取組の一環として、長崎大学は、インフラの維持管理を担う人材の育成のため、JICA課題別研修「橋梁維持管理」に参加している開発途上国からの政府職員や技術者を受け入れています。2015年度から2019年度までに受け入れた42か国102名の研修員は、日本の技術を活かして自国で活躍しています。また、JICA長期研修事業「道路アセットマネジメント技術の中核人材育成プログラム」を通じて、大学院に途上国政府の職員、技術者や研究者を受け入れており、ラオスからは公共事業運輸省の橋梁技術者2名が博士後期課程に入学し、2021年に博士号を取得して同プログラムを修了しました。
研修員の一人であるタボン博士は、長崎大学にて「仮設橋注1の劣化メカニズムの解明と維持管理手法」に関する研究を行いました。現在はラオスの公共事業運輸省に戻り、橋梁維持管理の現場での技術指導や後進育成に成果を上げています。また、長崎大学や国際開発センターなど産官学の連携により実施されている技術協力「橋梁維持管理能力強化プロジェクト」の中核的な人材としても活躍しています。
長崎大学からは専門家をラオスに派遣し、国道上の860橋の計画的な維持管理を支援するとともに、研修員の研究成果がインフラ維持管理の実践の場で活かされるように取り組みながら、実務および学術研究の両面からラオスでのインフラ長寿命化に貢献しています。プロジェクト副総括の長崎大学西川貴文(にしかわたかふみ)准教授は次のように語ります。「橋梁などのインフラは、計画から建設、完成後の供用が数十年から百年以上にわたる、非常に長い年月をかけて社会の装置としての一翼を担うものです。インフラの適切な整備と維持管理のための組織構築、人材育成、技術開発も一朝一夕では成し得ません。ラオスでの取組が、安心・安全な道路網形成への一助となり、ラオスがより一層の発展を果たすことを願ってやみません。」
このように、日本は、政府と大学、企業の産官学連携により、途上国におけるインフラの長寿命化に取り組んでいます。このような取組は、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」注2の要素であるライフサイクルコストを考慮した経済性の実現に資するものです。
注1 ベイリー橋と呼ばれ多くの途上国に架けられている。もともと軍事用に開発された橋で、簡易に架けられるが、恒久利用は想定されていない。途上国では日常的に使用され、過積載車両の通行などによる落橋事故が多発している。
注2 用語解説「質の高いインフラ」を参照。