3.大洋州地域
太平洋島嶼(とうしょ)国は、日本にとって太平洋で結ばれた「隣人」であるばかりでなく、歴史的に深いつながりがあります。また、これらの国は広大な排他的経済水域(経済的な権利が及ぶ水域、EEZ)を持ち、海上輸送の要(かなめ)であるとともに、かつお・まぐろ漁業に必要不可欠な漁場を提供しています。太平洋島嶼国の安定と繁栄は、日本にとって非常に重要です。
一方、太平洋島嶼国は比較的新しい独立国が多く、経済的に自立した国家を築くことが急務です。また、経済が小規模で、第一次産業に依存していること、領土が広い海域に点在していること、国際市場への参入が困難なこと、自然災害の被害を受けやすいことなど、小島嶼国に特有な共通の課題があります。このような事情を踏まえ、日本は太平洋島嶼国の良きパートナーとして、自立的・持続的な発展を後押しするための支援を実施しています。
●日本の取組
太平洋島嶼国の政治的な安定と自立的経済発展のためには、各国の社会・経済的な脆弱(ぜいじゃく)性を克服するための支援のみならず地域全体への協力が不可欠です。日本は、太平洋島嶼国で構成される地域協力の枠組みである太平洋諸島フォーラム(PIF)注7との協力を進めるとともに、1997年以降、3年ごとに、太平洋島嶼国との首脳会議である太平洋・島サミット(PALM)を開催しています。また、2010年以降、PALMの1年半後を目処にPALM中間閣僚会合が開催されています。
2018年5月、福島県いわき市で第8回太平洋・島サミット(PALM8)が開催され、「①自由で開かれた持続可能な海洋、②強靱(きょうじん)かつ持続可能な発展の基盤強化、③人的交流・往来の活性化」を柱とし、これまでの実績を踏まえた、従来同様のしっかりとした開発協力の実施と、成長と繁栄の基盤である人材の育成・交流の一層の強化(3年間で5000人以上)を謳(うた)った協力・支援方針が発表されました。
また、2019年5月、関係省庁間会議である「太平洋島嶼国協力推進会議」において、オールジャパンでの太平洋島嶼国への取組を強化する方針がとりまとめられました。こうした支援方針も踏まえ、日本は、太平洋島嶼国に対し、港湾・空港など基礎インフラ整備をはじめとする二国間の協力や、複数の国を対象とした技術協力を実施しています。
PALM8の第1の柱である「自由で開かれた持続可能な海洋」では、太平洋島嶼国の担当職員に向け、違法・無報告・無規制漁業(IUU)の抑止のための研修を行いました。また、第2の柱の「強靱かつ持続可能な発展の基盤強化」では、各国気象局の人材の育成、住民が迅速に避難できる体制づくりなどの包括的な支援による「防災の主流化」や、廃棄物管理にかかる人材と制度の強化に取り組んでいます。たとえば、G20大阪サミットで共有された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の達成に向け日本が立ち上げた「マリーン(MARINE)・イニシアティブ」(詳細は「海洋環境の保全」を参照)の一環として、大洋州地域の持続可能な廃棄物管理にかかる人材および組織・制度的な基盤強化のための支援を行っています。同イニシアティブを通じて、2019年度には約300人を育成し、間接的な裨益(ひえき)者は約5万人に達しました。また、太平洋島嶼国の気候変動問題への取組を支援するため、日本は、サモアにある地域国際機関である太平洋地域環境計画事務局(SPREP)と連携し、各国の気候変動対策に携わる人材の育成に向けた支援も進めています。加えて、第3の柱である「人的交流・往来の活性化」では、若い行政官らに対する本邦大学院における修士課程教育と、本邦省庁におけるインターンシップを実施する事業などを行っています。
さらに、2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を受け、日本は、2020年に大洋州地域の14か国に対し、総額約40億円の保健・医療関連機材等の供与や技術協力支援を行っているほか、経済の回復を支援するため、パプアニューギニア、フィジー、およびソロモンに対して総額425億円の財政支援借款(しゃっかん)を供与することを決定しました。
日本は今後も保健医療システムの強化や新型コロナの影響を受けた経済の回復のための支援を米国、オーストラリアやニュージーランド、その他のパートナーと連携しつつ行っていきます。これらの取組により、ポスト・コロナ時代において、安定した、強靭(きょうじん)かつ繁栄した大洋州地域をともに構築していきます。
- 注7 : PIF加盟国・地域は、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジー、サモア、ソロモン、バヌアツ、トンガ、ナウル、キリバス、ツバル、ミクロネシア連邦、マーシャル、パラオ、クック、ニウエ、フランス領ポリネシア、ニューカレドニアの16か国および2地域。