2020年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 02

パラオの空港事業に日本企業が進出!
~パラオの観光産業の発展に貢献するオールジャパンでの取組~

JATによる清掃指導の様子(写真:PIAC)

JATによる清掃指導の様子(写真:PIAC)

建設中の新ターミナル(2021年1月)(写真:PIAC)

建設中の新ターミナル(2021年1月)(写真:PIAC)

パラオでは、観光業がGDPの7割以上を占め、国の財政や産業も観光によって支えられています。しかし2015年以降、観光客数の増加に伴って、同国唯一の国際空港であるパラオ国際空港では空港の施設容量を超える利用者を抱え、ピーク時には出入国審査やチェックインのカウンターに長蛇(ちょうだ)の行列ができるなどの問題が発生していました。パラオが観光立国として今後も成長していくためには、空港施設の拡張や運営面の改善が急務となっています。

このような課題を解決するため、日本はパラオに対し、2019年から「パラオ国際空港ターミナル拡張・運営事業」を実施しています。

本事業は、航空産業に関する豊富な知見や航空会社とのネットワークを持つ双日株式会社、羽田空港の旅客ターミナルビルの運営ノウハウを持ち世界的に高い評価を受ける日本空港ビルデング株式会社(JAT)、および株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)による共同出資事業であり、大洋州地域初となるJICAの海外投融資*1制度に基づく融資で同事業を後押しすることにより実現しました。事業を開始するにあたって、双日およびJATはまずJICAの準備調査を通じて検討を深めたのち、双日、JAT、JOINがパラオ政府とともに現地で空港運営事業会社パラオ・インターナショナル・エアポート株式会社(PIAC)を設立しました。その後、同社を通じてパラオ国際空港の既存ターミナルの改修・拡張を行うとともに、運営および維持管理業務を行い、同国に対して空港運営に関するノウハウを伝達しています。また、改修する既存ターミナルは2003年に無償資金協力で整備したものであり、日本による一貫した支援が本事業化につながっています。

本事業の実施に至った経緯について、PIACに出向していた双日の浅枝真弘(あさえだまさひろ)氏は次のように語ります。「双日とJATは、以前から日本国内外の空港運営に携わることに強い関心を持っていました。そこで、各社の有するノウハウやネットワークが活用できることから、日本と関係が深い親日国であるパラオに注目しました。日本がこれまで実施してきたパラオへの支援の実績により、パラオ政府も日本企業が実施する本事業を好意的に受け止めてくれたのだと思います。」

パラオ国際空港の運営面における改善や指導を実施しているJATにとっては、本事業が初の海外事業となりました。現地では、PIACと双日、JAT、JOINが手を取り合い、新型コロナウイルス感染症の拡大による改修工事の遅れといった予期せぬ事態や、日本とパラオとの文化・慣習の違いに配慮しながらも着実に事業を進めています。

「JATは、パラオ国際空港の運営改善全般にわたり、様々な提案を行いました。具体的には、清掃の徹底、案内サインの設置場所の改善、バリアフリー化を視野に入れた施設の改修、空港とテナントとの協力関係の強化、空港の拡張に伴う新規テナントの配置などです。日本での経験をPIACと共有し、進めています。」と、JATの武井涼(たけいりょう)氏は話します。

また、現地で事業の実施にあたるPIACの成田満(なりたみつる)副社長(JATより出向中)は、「事業開始当初はタイムカードによる勤務時間の管理がなされておらず、設備のメンテナンスや清掃に関する体系的なマニュアルが存在しない状況でした。業務の改善は、現地の方々の意識改革や働きやすい環境づくりから粘り強く行いました。」と、話してくれました。

本事業は、パラオの抱える重要な課題を日本政府と日本企業が協力して解決するといった、まさにオールジャパンの取組です。パラオでは、これまでインフラ施設が民営化された前例がなかったこともあり、本事業は、同国における基幹インフラの民営化を推進するきっかけにもなっています。また、パラオにおける初の官民連携(PPP)インフラ事業*2でもある本事業は、同国において官民連携のモデルケースとなっており、他国の企業との間でも、再生可能エネルギーを活用した電力事業がPPP方式により新しく実施されることが検討されています。日本企業の有する専門的な知見や技術をひとつひとつ現地に伝えていくことを通じ、同空港を利用する旅客とフライト数の拡大につなげ、観光産業に大きく依存するパラオ経済の発展に寄与すること、さらには、本事業の成功を通じて、パラオに進出する日本企業が増えることが期待されています。

新型コロナによる困難を克服し、本事業の成功が、日本とパラオとの友好・信頼関係のさらなる促進につながるよう、日本は引き続き民間企業と連携していきます。


*1 本スキームの詳細については、図「ODAを活用した官民連携支援スキーム」を参照。

*2 制度の詳細については、「(1)民間企業との連携」を参照。

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