2020年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 03

「カイゼン」でエチオピアの未来を拓く
~日本の強みを生かし、技術協力と無償資金協力の組み合わせで相乗効果を発揮~

建築資材工場でエチオピア人のカウンターパートおよび企業側担当者と協議する杉本専門家(2013年2月)(写真:日本開発サービス)

建築資材工場でエチオピア人のカウンターパートおよび企業側担当者と協議する杉本専門家(2013年2月)(写真:日本開発サービス)

TICAD産業人材育成センター完成予想図(建設:株式会社フジタ、機材調達:株式会社シリウス)(作成:日本工営・コーエイリサーチ&コンサルティングJV)

TICAD産業人材育成センター完成予想図(建設:株式会社フジタ、機材調達:株式会社シリウス)(作成:日本工営・コーエイリサーチ&コンサルティングJV)

縫製業の工場現場で製造工程の「カイゼン」を指導する日本人専門家(写真:日本開発サービス)

縫製業の工場現場で製造工程の「カイゼン」を指導する日本人専門家(写真:日本開発サービス)

アフリカ東部に位置するエチオピアでは、製造業をはじめとした国内産業の競争力を高めるため、日本発の「カイゼン」という手法に着目し、2009年からJICAを通じた協力が開始されました。故メレス首相(当時)の肝いりでエチオピアカイゼン機構(EKI:Ethiopian KAIZEN Institute)が設立され、日本の協力は、EKIを足掛かりに、まずは「カイゼン」の考え方をエチオピア国内で定着させるため、研修や工場でのカイゼン実習を通じて技術や経験を移転する技術協力の取組を進めることからスタートしました。

この協力の成果によって、現在はエチオピア国内に広く概念が普及し、同国企業を対象に「カイゼン」の取組について研修やカイゼン指導を行うコンサルタントの資格認証登録制度も導入されました。設立当初はわずか9名のスタッフで始まったEKIは、約110名のコンサルタントを抱えるまでになり、多くの同国企業に「カイゼン」を広めています。また、現在は、日本人専門家が帰国した後もエチオピア人スタッフ自身の手でEKIが「カイゼン」の普及を行うことができるようにするための協力が進められています。

「私たちの指標では生産性が3~5割上がった例も珍しくありません。これからは学校や省庁などへの展開や、企業においては経営戦略やマーケティングへの波及、さらには『カイゼン』技術を首都圏だけでなくエチオピア全土に広げていくことが課題です。」と、2011年から2020年に技術協力専門家/総括として指導した株式会社日本開発サービスの杉本清次(すぎもとせいじ)氏は語ります。

製造業だけでなく、サービス業などにも「カイゼン」を普及させたいエチオピア政府は、現在、輸送を担う政府系の公社に対してもEKIのコンサルタントによる研修を実施しています。その結果、5Sの徹底や輸送ルート・手段の組み合わせの見直しなどによって、年間約1億円の費用を削減するという大きな成果を生み出す見込みとなっています。

EKIはこれまで自前の施設を持たず、コンサルタントは研修先の工場や企業に直接出向いて個別に指導していたため、活動は首都アディスアベバ周辺に限られていました。無償資金協力で現在、建設と機材の調達が進んでいるTICAD産業人材育成センターは、この問題を解決し、エチオピアにおける「カイゼン」の普及をさらに後押しするものです。アフリカ連合(AU)本部の近くに建設中の同センターは、EKIの本部事務所に加え研修・宿泊施設を備える予定となっており、地方からの研修生が宿泊して研修を受けることができるようになります。

同センターの設計および施工監理を行う日本工営・コーエイリサーチ&コンサルティングJVの星合善文(ほしあいよしふみ)氏は次のように語ります。「センターの完成後は、年間で最大約1万2,000名の研修生を受け入れることが可能になります。新型コロナウイルス感染症の影響で工事が一時中断しましたが、できるだけ早く完成させて、人材の育成とエチオピアの発展につなげてほしいです。」

エチオピア政府は、TICAD産業人材育成センターについて、国内向けの研修施設にとどまらず、近隣諸国に「カイゼン」を広める際にも活用することを視野に入れており、同センターは、アフリカの中核的な人材育成拠点の一つとして、近隣国からも研修生を受け入れる予定です。10年以上に及ぶ日本の地道な協力が実を結び、アフリカ大陸で、日本流の「カイゼン」の取組が着実に根付いています。


*どうすれば少しでも生産過程のムダを省き、品質や生産性を上げることができるか、生産現場で働く一人ひとりが自ら発案し、実行していく手法。戦後の高度成長期の日本において、ものづくりの品質や生産性を高めるために製造業の現場で培われた取り組みで、「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」(5S)などが基本となっている。

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