2020年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 04一般公募

世界最大規模の避難民キャンプでの新型コロナウイルス感染症対策
~UNHCRの活動~

新型コロナの感染予防のため設置された手洗い施設で手を洗う避難民(写真:UNHCR)

新型コロナの感染予防のため設置された手洗い施設で手を洗う避難民(写真:UNHCR)

避難民の子どもたちとUNHCRダッカ事務所の細井麻衣氏(写真:UNHCR)

避難民の子どもたちとUNHCRダッカ事務所の細井麻衣氏(写真:UNHCR)

2017年8月、ミャンマーのラカイン州で発生した激しい武力衝突を受けて、何十万人もの人々が、数日のうちに一斉(いっせい)にバングラデシュ南東部コックスバザールに避難しました。着の身着のまま故郷を追われた避難民の命と生活を守るため、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、バングラデシュ政府や国際機関、NGOなどのパートナー団体と密接に連携・協力しながら、住居などのインフラの整備や水や食料などの緊急支援物資の提供を行ってきました。

しかし3年がたった今も、祖国ミャンマーへの帰還に向けた道のりは容易でなく、避難民たちはコックスバザールのキャンプにおける日々の生活でさまざまな困難に直面しています。2020年初頭からは、世界を脅かしている新型コロナウイルス感染症の拡大がさらなる試練としてのしかかっています。

コックスバザールに逃れてきた避難民は約86万人。30以上のキャンプに分かれて避難生活を送っています。バングラデシュの中でも最も貧しい地域の1つであり、キャンプでの密集した環境や脆弱(ぜいじゃく)な医療・衛生環境のもとで、新型コロナの感染リスクは一層高くなっています。

そこで、UNHCRはキャンプ内の感染の抑制・予防のために、パンデミックの初期から対策に取り組んできました。日本も、主要なドナー国として主に2つの分野で大きな役割を果たしています。

1つ目は、医療施設の整備や物資の供与です。UNHCRは日本政府からの資金協力を得て、感染者の治療を行うための隔離施設を整備し、集中治療室(ICU)に必要な医療機器、個人防護具などの物資を提供しました。コックスバザールでは5月に初の感染者が確認されましたが、日本などの支援を受けて、医療体制を早期に整備することができたため、適切な治療を迅速に行うことができました。

2つ目が、避難民キャンプの衛生環境の改善です。感染症の拡大を防ぐためには、衛生管理の徹底が必要不可欠です。感染リスクを抑えるために、トイレやシャワー設備の改良、廃棄物処理システムの改善が行われました。これらの感染対策は、モンスーン襲来への備えとして、水を原因としたコレラなどの感染症の予防にも効果を発揮しています。

こうした支援は、キャンプで実際に人道支援活動に従事する人々の存在なしには語れません。その中には、UNHCRをはじめ、国際機関やNGOで働く日本人も多く含まれています。「不安と恐怖。これがまさに、新型コロナの危機が始まったときの私たちの気持ちです。」と話すのはUNHCRバングラデシュ事務所の細井麻衣さん。UNHCRは医療や衛生システムの整備に休みなく取り組んできましたが、そこに一役買ってきたのが避難民のボランティアたちだと言います。細井さんによれば、避難民は「自分たちの手で自分たちの生活を守るために、自らがボランティアとなって、感染拡大を防ぐための啓発活動などに取り組んでいます。避難先で二重苦、三重苦の困難に直面している彼らの自助努力には勇気づけられる。」とのことです。彼女は、「日本の皆さんにもそんな避難民たちの強さに思いを寄せてほしいです。」と願っています。


*出典:UNHCR Bangladesh, Operational Update External, November 2020 https://data2.unhcr.org/en/documents/details/83629

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