国際協力の現場から 01
日本での経験を未来の感染症対策のために
~ガーナの野口記念医学研究所でコロナ対策に従事するJICA帰国研修員~

野口研の先端感染症研究センターの外観。日本の支援により建設が進められており、2019年3月に完成した。(写真:JICA)

PCR検査の準備を行うポク氏(写真:JICA)
野口記念医学研究所(以下、野口研)──ガーナにおいて、自らの命を賭(と)して黄熱病の研究に尽くされた野口英世博士の業績を記念し、1979年に日本の支援で建設された医学研究所が、今、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に大きく貢献しています。野口研は、2020年12月末時点で新型コロナのPCR検査を35万件以上実施しており、ピーク時にはガーナ国内で行われた全検査の約8割を担いました。日本は、設立から約40年にわたり、野口研に対し、研究施設の整備をはじめとする設備の向上のみならず、多くの研究や疫病対策プロジェクトを通じ、現地の人材育成に貢献してきました。
ミルドレッド・ポク氏は、今まさに、その野口研の第一線で活躍しているガーナ人研究者の一人です。ウイルス研究者であるポク氏は、2009年に初めて野口研で働いたことをきっかけに、2010年から2015年に実施された地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)*「ガーナ由来薬用植物による抗ウイルス及び抗寄生虫活性候補物質の研究プロジェクト」に参加しました。ポク氏は、野口研で働くことになったきっかけと上記のプロジェクトで日本を訪れたときの経験について次のように語ります。
「ガーナでは、大学卒業後の1年間、国への奉仕活動をすることが義務付けられているのですが、私は大学で生物科学を履修していたため、野口研のウイルス学部に配属されました。野口研は、当時もアフリカ最大の研究所であり、感染症や栄養分野での先進的な研究を行っていたため、とても光栄に思いました。その後、SATREPSのプロジェクトの一環で、3週間にわたり東京医科歯科大学で研修した際には、HIV/AIDSに効くガーナ産の植物を発見するための研究に従事し、今まで聞いたことのなかった研究法や課題解決方法を学びました。日本で学んだ内容は、ガーナに帰国した後に野口研で働く同僚にも共有し、自身の研究を今後も続けていきたいという意欲の向上にもつながりました。」
ポク氏は、その後国費外国人留学生として2015年に熊本大学に留学し、HIV/AIDSの研究で博士号を取得しました。異国の地で博士課程に挑戦するといった大きな決断を後押ししたのは、日本への留学経験を持つ、野口研の先輩ガーナ人スタッフたちの存在だったと言います。ポク氏もまた、そうした先輩たちの足跡を引き継ぐべく、ガーナ大学医学部で講師としてウイルス学を教えながら、野口研での新型コロナ対応業務を監督しています。
「ガーナで初めて新型コロナの感染者が確認されたとき、野口研は同国唯一の新型コロナの検査実施機関でした。そのため、国内の検査実施機関を増やすべく、野口研は他の医療機関の能力強化に取り組み、私もその一人として他の機関の職員に検査方法を指導しました。野口研はガーナ国内の感染症対策の質の管理を担っているようなものです。」と、ガーナでの野口研の役割についてポク氏は語ります。
ポク氏は自身の将来について、「今後も国内外の様々な研究者と協力して、感染症分野で世界に貢献できる、新しい研究に携わりたいと思っています。そのためには引き続き多くの知識を身につけたいです。」と話してくれました。これからも、ポク氏のようなアフリカの感染症対策をリードする人材が、野口研から育っていくことが期待されています。
*「用語解説」を参照。