2019年版開発協力白書 日本の国際協力

2 南アジア地域

南アジア地域は、インドをはじめとした巨大な市場を抱え、今後の経済成長や膨大なインフラ需要が期待されるなど、大きな経済的潜在力を有しており、東アジア地域と中東地域を結ぶ陸上・海上の交通路に位置するため、「自由で開かれたインド太平洋」の実現の観点から戦略的に重要な地域です。また、同地域がテロおよび暴力的過激主義に対する国際的取組において果たしている役割に鑑(かんが)みても、この地域の安定の確保は、日本を含む国際社会にとって関心の高い事項です。

一方、この地域には、道路、鉄道、港湾など基礎インフラの欠如、人口の増大、初等教育を受けていない児童の割合の高さ、水・衛生施設や保健・医療制度の未整備、不十分な母子保健、感染症、自然災害、そして法の支配の未確立など、取り組むべき課題が依然として多く残されています。特に貧困の削減は大きな問題であり、南アジア地域に住んでいる約18億人のうち、約2.2億人が貧困層注5ともいわれ、世界でも貧しい地域の一つです。SDGs達成を目指す上でも、南アジアは重要な地域となっています。日本は、南アジア地域の有する経済的潜在力を活かすとともに、拡大しつつある貧富の格差をやわらげるため、多岐にわたる支援を行っています。

●日本の取組

日本の有償資金協力により、2019年5月25日に開通したバングラデシュのグムティ第2橋(写真:大林組・清水建設・JFEエンジニアリング・IHIインフラシステム共同企業体)

日本の有償資金協力により、2019年5月25日に開通したバングラデシュのグムティ第2橋(写真:大林組・清水建設・JFEエンジニアリング・IHIインフラシステム共同企業体)

訪日中のクレーシ・パキスタン外務大臣と外相会談を行った河野外務大臣(当時)(2019年4月)

訪日中のクレーシ・パキスタン外務大臣と外相会談を行った河野外務大臣(当時)(2019年4月)

日本は、南アジア地域の中心的存在であるインドとの間で、両首脳の相互訪問を行っており、「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」に基づいて、経済協力をはじめ、政治・安全保障、経済、学術交流など幅広い分野で協力を進めています。近年、インドは日本の円借款の最大の受取国であり、日本はインドにおいて、連結性の強化と産業競争力の強化に資する電力や運輸をはじめとする経済社会インフラ整備の支援に加えて、持続的で包摂的な成長への支援として、植林や生計向上に資する森林セクターの支援や、女性や子どもなどへの保健医療サービス向上に資する保健セクターの支援などを実施しています。

2018年にモディ首相が訪日した際には、ムンバイ・アーメダバード間高速鉄道建設を含む、計7件の円借款供与のための書簡が交換されました。2019年に両首脳は、ロシア・ウラジオストクでの東方経済フォーラム、タイ・バンコクでのASEAN関連首脳会議に際して首脳会談を実施し、これらの案件に関する連携を再確認しました。高速鉄道整備計画が実現すれば、現在、在来線特急で最短でも7時間必要なムンバイ・アーメダバード間の移動が2時間に短縮でき、料金は航空運賃の約半分になることが見込まれるなど、日本のODAは、インフラ開発、貧困対策、投資環境整備、人材育成など、様々な分野での支援を通じ、インドの成長において大きな役割を果たしています。

また、近年、発展が目覚ましく、日本企業の進出も増加しているバングラデシュとの間で日本は、「日・バングラデシュ包括的パートナーシップ」を推進しており、①経済インフラの開発、②投資環境の改善、および③連結性の向上を3本柱とする「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想のもと、開発協力を進めています。2019年5月に、ハシナ・バングラデシュ首相が訪日した際、安倍総理大臣は、「日本は、バングラデシュのSDGsの達成および『2021年までの中所得国化』実現に向けて支援を継続していく」と述べた上で、BIG-B構想の推進、両国間の人物交流の拡大や貿易・投資の一層の促進への期待などを表明しました。これら首脳間の合意のもと、2019年5月および6月には、日本はバングラデシュとの間で、バングラデシュ国内の連結性向上や経済インフラ整備に寄与する「マタバリ港開発計画(第一期)」、「ダッカ都市交通整備計画(1号線)(第一期)」、「マタバリ超々臨界圧石炭火力発電計画(V)」、「外国直接投資促進計画(第二期)」および「省エネルギー推進融資計画(フェーズ2)」の計5件の円借款の供与に関する交換公文に署名しました。また日本は、ラカイン州からの避難民やホストコミュニティ支援に関する対バングラデシュ支援として、2019年に、保健・医療、水、食料・栄養、環境・インフラ、ガバナンス、教育に関する約41億円の支援を行いました(「バングラデシュ ミャンマー避難民人道支援プログラム」「バングラデシュ バングラデシュ小規模農家への生計向上支援及びミャンマーからの避難民への食糧支援計画」も参照)。

アジアと中東・アフリカをつなぐシーレーン上の要衝(ようしょう)に位置するスリランカは、伝統的な親日国であり、日本は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、特に連結性強化や海洋分野での同国との協力強化を進めています。また、2019年3月には、スリランカで初めてとなる新交通システム(LRT)を導入するため、約300億円の円借款供与のための書簡の交換を行いました。このほか、2019年4月にスリランカで発生した連続爆破テロ事件を受けて、テロ対策機材等の供与のための10億円の無償資金協力を決定するなど、スリランカのテロ治安対策分野における能力向上のための支援を行う旨を表明しました。加えて、日本は、スリランカの質の高い経済発展とともに、進出している日系企業の活動環境の改善にも寄与する港湾、道路等の運輸ネットワークや、電力基盤等のインフラ整備の分野での協力を引き続き行っていきます。また、同国の紛争の歴史や格差が拡大している現状を踏まえ、日本は、開発の遅れている地域を対象に、生計向上や農業分野を中心とした産業育成など、国民和解に役立つ協力、および災害対策への支援を継続していきます。

モルディブは、スリランカ同様、インド洋シーレーンの要衝に位置し、日本にとって地政学的な重要性を有する国です。2018年1月には河野外務大臣(当時)がモルディブを訪問したほか、同年6月および現政権発足後間もない12月の2度にわたり、シャーヒド外務大臣が訪日して外相会談を行い、両外相の間で「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力していく旨が合意されました。この方針のもと、2019年には、自然災害・火災対応能力強化のための防災機材(消防艇、運貨艇等)供与およびテロ・治安対策能力強化のための関連機材(警察車両、液体検査装置等)供与のため、それぞれ5億円の無償資金協力を決定したほか、モルディブの財政施策および実行能力向上に貢献すべく、マクロ経済・財政政策専門家の派遣を決定しました。

パキスタンは、テロ撲滅に向けた国際社会の取組において重要な役割を担っています。これまで日本は、空港・港湾の保安能力向上支援や、テロ掃討軍事作戦で発生した避難民への支援を実施しています。また日本は、不正薬物取引および国際的な組織犯罪に対する国境管理能力強化のための支援や、平和構築・テロ対策分野の機材、製品を供与する支援を実施しています。さらに、ポリオ・ワクチンの調達を通じたパキスタンのポリオ撲滅支援など、保健分野でも支援を実施しています。2019年4月のクレーシ外務大臣の来日の際には、同大臣および河野外務大臣(当時)の立ち会いのもと、母子保健の診断・治療機能の拡充、および内陸物流拠点でのテロ対策強化のための貨物検査設備供与に係る2件の無償資金協力の書簡の交換が行われました。

伝統的な友好国であるネパールにおいては、2018年のギャワリ外務大臣の訪日や、2019年1月の河野外務大臣(当時)のネパール訪問、および2019年10月のバンダリ大統領の訪日を通じて、日ネパール関係のさらなる促進・強化が図られたほか、2019年8月に、12年ぶりとなる関西空港-カトマンズ間の直行便が再開し、人的交流も活発化しています。

ネパールへの支援については、2015年に同国で発生した大地震に際して、日本は、8つの国際機関等を通じて1,400万ドル(約16.8億円)の緊急無償資金協力を実施しました。また、中長期の復興プロセスとして、強靱(きょうじん)なネパールの再建に向けて、総額約2.6億ドル(約320億円超)規模の住宅(約6万戸)、学校(約240校)および公共インフラの再建を中心とする支援策を実施中であるほか、地震災害軽減のための各種技術支援を実施中です。加えて、新憲法を通じて民主主義の定着と発展に向けたネパールの取組を後押しするため、中央および地方政府のガバナンス能力向上を支援するとともに、社会的弱者を含む住民のニーズを行政施策に反映させるための支援などを行っています。このほか、地域間、民族間における教育へのアクセスの格差や児童の学力差の是正のため、同国政府の教育開発計画である「学校セクター開発計画」を支援する援助資金の供与や、ネパールの若手行政官が日本で学位を取得するために必要な学費等を供与する「人材育成奨学計画」の支援も行いました。

また日本は、ブータンと1986年に国交を樹立して以来、良好な関係を築いてきており、2016年に国交樹立30周年を迎えました。2019年10月には、ブータンのジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク国王陛下が、即位礼正殿の儀への出席のために2011年以来2度目となる訪日を行い、安倍総理大臣と会談しました。また、同年8月に、秋篠宮皇嗣同妃両殿下および悠仁親王殿下が私的ご旅行でブータンを訪問するなど、近年両国の関係はますます深化しています。ブータンに対する日本の開発協力は、両国間の友好関係の礎(いしずえ)となっており、ブータンの基本理念である国民総幸福量(GNH:Gross National Happiness)を念頭に置いた国家開発計画を尊重しながら、支援が実施されています。この結果、特に農業生産性の向上、道路網、橋梁(きょうりょう)等の経済基盤整備や、人材育成といった分野における支援で、着実な成果が上がっています。2019年6月には、ブータンの若手行政官等が修士または博士の学位を取得するために必要な学費などを供与する無償資金協力事業「人材育成奨学計画」の交換公文に署名し、ブータンの発展のみならず、日本との友好関係強化に貢献する人材の育成を支援しています。

日本NGO連携無償資金協力の防災強化事業の一環として、ネパールのシンドゥパルチョーク郡、カリカ小学校で行われた避難訓練で、教室で使用している座布団で頭を保護しながら校庭へと避難する児童たち(写真:特定非営利活動法人チャイルド・ファンド・ジャパン)

日本NGO連携無償資金協力の防災強化事業の一環として、ネパールのシンドゥパルチョーク郡、カリカ小学校で行われた避難訓練で、教室で使用している座布団で頭を保護しながら校庭へと避難する児童たち(写真:特定非営利活動法人チャイルド・ファンド・ジャパン)

ブータン、ワンディ・ポダン県のバジョ農業研究開発センターの菜園において、研究員にブドウの栽培管理技術を指導するJICA専門家(写真:JICA)

ブータン、ワンディ・ポダン県のバジョ農業研究開発センターの菜園において、研究員にブドウの栽培管理技術を指導するJICA専門家(写真:JICA)

日本の国際協力の方針 南アジア地域の重点課題
図表Ⅲ-3 南アジア地域における日本の援助実績

  1. 注5 : 世界銀行ホームページより。
    人口  https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL?locations=8S
    貧困率 https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2018/09/19/decline-of-global-extreme-poverty-continues-but-has-slowed-world-bank
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