2019年版開発協力白書 日本の国際協力

(3)万人のための質の高い教育

教育は、すべての人が等しく享受すべき基本的な人権であり、貧困削減のために必要な経済開発において重要な役割を果たすと同時に、個人が持つ才能と能力を伸ばし、尊厳を持って生活することを可能にするものです。また、他者や異文化に対する理解を育むことで、平和の礎(いしずえ)となると考えられています。ところが、未だ世界には小学校に通うことのできない子どもが約6,400万人もいます注29。中等教育も含めると、2017年の統計で、約2億6,200万人が学校に通うことができていません。特に、2000年以降、サブサハラ・アフリカでは、学校に通うことのできない子どもの割合が増加しています。さらに、世界銀行が世界開発報告(2018)で指摘しているように、学校に通っていても子どもたちが基礎的な読み書きや計算さえできないという「学びの危機(Learning Crisis)」も大きな問題となっています。社会の変化や技術革新に対応した、若者に対する教育や職業訓練の機会の提供、および地球規模課題の解決に向けてイノベーションを創出できる人材育成も求められています。

このような状況を改善するために、SDGsの目標4として、「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」ことが掲げられました。国際社会は、2015年に「教育2030行動枠組」を策定し、同目標の達成を目指しています。

2019年には、日本はG20議長国として、「G20持続可能な開発のための人的資本投資イニシアティブ~包摂的で強靱(きょうじん)かつ革新的な社会を創造するための質の高い教育~」を取りまとめ、G20大阪首脳宣言では、人的資本に投資し、すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を推進するというコミットメントを再確認しました。また、安倍総理大臣は、2019年9月の第74回国連総会における一般討論演説で、すべての女児および女性に対する包摂的で質の高い教育の推進に言及し、「教育をひたすら重んじるところに、日本の対外関与はその神髄(しんずい)をみる」と強調しました。

●日本の取組

「女性リーダー育成のための理数科目強化と全人教育のモデル校開設プロジェクト」で、理科の授業を受けるタンザニアの女子中学生たち(写真:JICA)

「女性リーダー育成のための理数科目強化と全人教育のモデル校開設プロジェクト」で、理科の授業を受けるタンザニアの女子中学生たち(写真:JICA)

カイロ市内のエジプト日本学校を訪問した中谷真一外務大臣政務官(2019年12月)

カイロ市内のエジプト日本学校を訪問した中谷真一外務大臣政務官(2019年12月)

日本は、従来から、人間の安全保障を推進するために不可分な分野として、教育分野の支援を重視しており、開発途上国の基礎教育や高等教育、職業訓練の充実などの幅広い分野で支援を行っています。2015年の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」採択のための国連サミットに合わせ、日本は、教育分野における新たな戦略である「平和と成長のための学びの戦略」を発表しました。同戦略では基本原則として、①包摂的かつ公正な質の高い学びに向けた教育協力、②産業・科学技術人材育成と社会経済開発の基盤づくりのための教育協力、③国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大を挙げ、学び合いを通じた質の高い教育の実現を目指しています。

2019年6月21日に開催された第7回SDGs推進本部会合において、「拡大版SDGsアクションプラン2019」が決定され、G20議長国である日本のイニシアティブの一つとして、2019年から2021年の3年間で、少なくとも約900万人の子ども・若者を支援する「教育×イノベーション」イニシアティブが発表されました。2030年までにすべての子どもが質の高い初等・中等教育を修了できるようにするためには、支援を加速化させるイノベーションが不可欠です。このイニシアティブを通じて、基盤的な学力を育む教育やSTEM教育注30、eラーニングの展開などの支援を一層強化していきます(「匠の技術、世界へ」も参照)。

2019年8月のTICAD7では、アフリカに対する教育・人材育成分野の取組として、理数科教育の拡充や学習環境の改善を通じて300万人の子どもたちに質の高い教育を提供することや、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)およびケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学への支援などを通じて、科学技術イノベーション分野で5,000人の高度人材を育成すること、およびE-JUSTにおいてアフリカからの留学生150人を受け入れることなどを発表しました。

また、日本は、教育に特化した国際的な基金である「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」に対して、2008年度から2019年までに総額約2,975万ドルを拠出しています。GPEの支援を受けたパートナー国では、2016年時点で、2002年と比較して7,700万人以上の子どもが初等教育を受けられるようになりました。

このほか、ニジェールをはじめとした西アフリカ諸国を中心として、日本は2004年から、学校や保護者、地域住民間の信頼関係を築き、子どもの教育環境を改善するため、「みんなの学校プロジェクト」を実施しており、世界銀行やGPEなどとも連携して、同プロジェクトの普及を各国全土に拡大しています。

また、エジプトにおいて日本は、2016年に発表された「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」のもと、2017年2月から現地の学校での日本式教育の導入を進めており、2019年11月までに、この日本式教育を導入する「エジプト日本学校」が新たに40校開校しました。エジプトにおける日本式教育モデルである「特活プラス」では、掃除、日直、学級会など、感性や徳性を含む調和的な人格形成を目的とした全人的教育の中心となる小中学校での特別活動に加えて、幼稚園での遊びを通じた学び、および特別活動を行うために必要な学校経営を協力活動に含めて、エジプトにおける人材育成に協力しています。

さらに、アジア・太平洋地域において、日本は、同地域の教育の充実と質の向上に貢献するため、国連教育科学文化機関(UNESCO)に設置した信託基金を通じて、SDGsの目標4の進捗を議論する「アジア太平洋地域教育2030会合(APMED2030)」の開催や、初等中等教育の完全普及と質の向上、幼児教育の充実、学習環境の整備および教員の指導力向上など、同地域のSDGsの目標4達成に向けた取組を支援しています。ほかにも日本は、日ASEAN間の高等教育機関のネットワーク強化や、産業界との連携、周辺地域各国との共同研究、および「留学生30万人計画」に基づく日本の高等教育機関等への留学生受入れなどの多様な方策を通じて、途上国の人材育成を支援しています。

…持続可能な開発のための教育(ESD)の推進

2014年に日本で開催された「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」以降、「国連ESDの10年(UNDESD)」の後継プログラムとして採択された「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」のもと、世界中で持続可能な社会の創り手を育むためのESDに関する活動が展開されてきました。その後、2020年から2030年までの新しい国際的な実施枠組みである「ESD:SDGs達成に向けて(ESD for 2030)」が、2019年4月の第206回UNESCO執行委員会、同年9月の第74回国連総会、および同年11月の第40回UNESCO総会で採択されました。また日本は、UNESCOに拠出している信託基金を通じて、ESD実践のための優れた取組を行う個人または団体を表彰する「ユネスコ/日本ESD賞」を創設し、これまでに15団体に授与するなど、積極的にESDの推進に取り組んでいます。また、2019年12月時点で、ESDを具体的に推進するための「ESD for 2030」のロードマップの策定について、国際的な議論が進められています。

用語解説
教育2030行動枠組(Education 2030 Framework for Action)
万人のための教育を目指して、2000年にセネガルのダカールで開かれた「世界教育フォーラム」で採択された「EFAダカール行動枠組」の後継となる行動枠組。2015年のUNESCO総会と併せて開催された「教育2030ハイレベル会合」で採択された。
基礎教育
生きていくために必要となる知識、価値そして技能を身につけるための教育活動。主に初等教育、前期中等教育(日本の中学校に相当)、就学前教育、成人識字教育などを指す。
エジプト日本科学技術大学(E-JUST:Egypt-Japan University of Science and Technology)
2009年に締結された「エジプト・日本科学技術大学の設置に関する日本国政府とエジプト・アラブ共和国政府との間の協定(二国間協定)」に基づいて設立された大学。同協定に基づき、日本は、日本型工学教育の特徴である「少人数、大学院・研究中心、実践的かつ国際水準の教育提供」をコンセプトとする大学としてE-JUSTが開設・運営されるよう、日本国内の大学の協力も得ながら、教育・研究用資機材の整備などの技術支援を行っている。現在は、E-JUSTが今後、中東・アフリカ地域における高等教育セクターや産業界の発展に貢献する産業・科学技術人材を輩出していけるよう、エジプト国内のトップレベルの研究大学としての基盤を確立することを目指し、技術支援を実施している。
教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE:Global Partnership for Education)
開発途上国、ドナー国・機関、市民社会、民間企業・財団が参加し、2002年に世界銀行主導で設立された途上国の教育セクターを支援する国際的なパートナーシップ。2011年にファスト・トラック・イニシアティブ(FTI:Fast Track Initiative)から改称された。
持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
持続可能な社会の創り手を育む教育。「持続可能な開発」とは、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させる」開発を意味しており、これを実現する社会の構築には、環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な現代社会の課題を、自らの問題としてとらえ、その解決を図る必要があり、そのために新たな価値観や行動を生み出すことが重要であるとされる。2017年の第72回国連総会決議において、ESDがSDGsのすべての目標達成に向けた鍵となることが確認され、さらに、2019年の第74回国連総会決議で採択された2020年からの「ESD for 2030」においても、そのことが再確認された。

  1. 注29 : 「Global Education Monitoring Report 2019」 120ページより。
    http://gem-report-2019.unesco.org/chapter/monitoring-progress-in-sdg-4/primary-and-secondary-education-target-4-1/
  2. 注30 : Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの単語の頭文字をとったもので、その4つの教育分野の総称。
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