2019年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)水・衛生

水と衛生の問題は人の生命にかかわる重要な問題です。世界の約22億人が、安全に管理された飲み水の供給を受けられず、42億人が安全に管理されたトイレなどの衛生施設を使うことができず、30億人が基本的な手洗い施設のない暮らしをしています。さらに、安全な水にアクセスできないことは経済の足かせにもなっています。たとえば、水道が普及していない開発途上国では、多くの場合、女性や子どもが水汲みの役割を担っています。時には何時間もかけて水を汲みに行くため、子どもの教育や女性の社会進出の機会が奪われています。また、不安定な水の供給は、医療や農業にも悪影響を与えます。こうした観点から、SDGsの目標6において、「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」旨が定められています。

ルワンダにおいて、青年海外協力隊員が井戸の維持管理を指導するとともに、地域住民と協力して水を汲んでいる様子(写真:JICA)

ルワンダにおいて、青年海外協力隊員が井戸の維持管理を指導するとともに、地域住民と協力して水を汲んでいる様子(写真:JICA)

●日本の取組

若宮健嗣外務副大臣(右から3番目)が、日本のODAにより改修されたラオスの首都ビエンチャン南部のチナイモ浄水場を視察した時の様子(2019年10月)

若宮健嗣(わかみやけんじ)外務副大臣(右から3番目)が、日本のODAにより改修されたラオスの首都ビエンチャン南部のチナイモ浄水場を視察した時の様子(2019年10月)

日本は、1990年代から累計で、世界一の水と衛生分野における援助実績を有しています。この分野に関する豊富な経験、知識や技術を活かし、円借款、無償資金協力、および専門家の派遣や途上国からの研修員受入れなどの技術協力により、途上国での安全な水の普及に向けて支援を続けているほか、UNICEFなどの国際機関を通じた支援も行っています。具体的には、①総合的な水資源管理の推進、②衛生施設の整備などによる安全な飲料水の供給と基本的な衛生の確保、③食料増産を目的とした農業用水の安定的利用のための支援、④排水規制などによる水質汚濁の防止および緑化や森林保全による生態系の保全、⑤水に関連する災害の被害軽減のための予警報システムの確立や、地域社会の対応能力の強化など、ソフトおよびハードの両面で支援を実施しています。

日本は、アジア・大洋州地域のインドネシア、カンボジア、ベトナム、ラオスといった国々で上水道の整備・拡張のための事業を実施しました。たとえば、2019年10月には、日本はラオスとの間で、世界遺産地区を抱えるルアンパバーン市での配水管の新規敷設などを含む水供給サービス改善のための無償資金協力に関する交換公文に署名しました。この協力により、同市の給水人口が2017年実績の約58,800人から、事業完成3年後の2025年には約70,000人に増加し、持続可能な都市環境整備に寄与することが期待されます。また、2019年12月には、日本はカンボジアとの間で、地方都市部の中でも特に給水普及率が低いプルサット市において、上水道施設を拡張するための無償資金協力に関する交換公文に署名しました。この協力により、当該地域住民約10万人が安全な水へアクセスできるようになり、同国の生活の質の向上に寄与することが期待されます。

また、アフリカでは、日本は安全な水へのアクセス改善、給水率の向上に向けた事業を実施しており、たとえば、給水施設や機材の老朽化が課題となっているエリトリアにおいて、給水・浄水関連機材(給水車、給水タンクなど)供与のための無償資金協力に関する交換公文に署名しました。ほかにも日本は、カーボベルデにおいて、災害時における安全な水へのアクセス改善を図るため、移動可能型海水淡水化装置や給水車などを整備する無償資金協力に関する交換公文に署名しました。

このほか、日本NGO連携無償資金協力の枠組みを利用して、日本のNGOにより、水・衛生環境改善事業が実施されています。たとえば、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンは、ネパールにおいて、2018年2月からネパール地震で被災し、水源枯渇(こかつ)などの水不足の問題を抱えるシンドゥパルチョーク郡において、地元住民参加型の給水施設の建設を通じて水アクセス改善事業に取り組んでいます。事業1年目には、同国の8村で、取水口9ヶ所、貯水槽8ヶ所、公衆栓52ヶ所の給水施設を建設しました。

こうした取組と並行して、草の根・人間の安全保障無償資金協力においても、日本は、井戸や給水・灌漑設備の整備、災害対策など、地域の住民に直接裨益(ひえき)する水・衛生分野の支援を多数実施しています。たとえば、タジキスタンにおいて、日本は、「テムルマリク行政郡河岸補強用掘削機供与計画」により、掘削機を同国の地方自治体に供与しました。これにより、同機材を使用して堤防が建設されており、日本の支援は、雪解け水による洪水被害の防止や耕作地の拡大に貢献しています。

また、日本国内および現地の民間企業や団体と連携した途上国の水環境改善の取組も、世界各地で行われています(「匠の技術、世界へ」も参照)。たとえば、大洋州のパプアニューギニアでは、JICAの中小企業ビジネス支援の枠組みを利用して、省電力小型海水淡水化装置を用いた住民向け飲料水の販売事業に関する案件化調査が実施されました。同調査により、同事業が現地のニーズに合致することが確認され、その後機材の販売が開始されるなどの成果が現れています。

また、環境省でも、アジアの多くの国々において深刻な水質汚濁が生じている問題に対して、現地での情報や知識の不足を解消するため、アジア水環境パートナーシップ(WEPA)を実施しており、アジアの13の参加国注28の協力のもと、人的ネットワークの構築や情報の収集・共有、能力構築などを通じて、アジアにおける水環境ガバナンスの強化を目指しています。また、SDGsの目標6.3に掲げられている「未処理汚水の半減」の達成に貢献すべく、主にアジア地域を対象に、日本の優れた技術である浄化槽に関するワークショップやセミナーを開催するなど、浄化槽の技術や法制度などを紹介する取組を通じて、途上国における浄化槽の普及を後押ししています。


  1. 注28 : カンボジア、中国、インドネシア、韓国、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナム、日本の13か国。
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