2019年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 2

小学校の算数初等教育を劇的に変革した日本発の算数ソフト
~ICT立国を目指すルワンダでの中小企業の取組~

ルワンダ向け算数ソフト画面の一例。(写真:さくら社)

ルワンダ向け算数ソフト画面の一例。(写真:さくら社)

さくら社の算数ソフトを使用し、楽しく授業を受ける現地の子どもたち(写真:さくら社)

さくら社の算数ソフトを使用し、楽しく授業を受ける現地の子どもたち(写真:さくら社)

ルワンダでは、2000年のカガメ大統領就任後、ICT(情報通信技術)立国を目指し、ICTの普及や人材育成に注力していますが、初等教育での算数の習熟度が依然として低く、また、利用できる教材ソフトの欠如などにより、教育現場でのICT活用がなかなか進まないという課題を抱えていました。

そうした中、東京に本社があり、日本国内の小学校向けに算数ソフトの開発・販売などを行っている株式会社さくら社は、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業の枠組みを活用し、2018年10月から、独自に開発した算数ソフトをルワンダの小学校に導入するための普及・実証事業を行っています。

ルワンダ向けのソフト開発のため、現地を視察した横山験也(よこやまけんや)社長が目にしたのは、簡単な計算にも苦労している子どもたちの姿でした。子どもたちは「3+4」のような足し算でも、数字と同じ数だけ丸を描き、描いた丸の数を数えて答えを出しており、簡単な暗算さえできない様子でした。また、ルワンダの小学校では、児童一人ひとりに教科書が配布されておらず、教壇から先生が一方的に講義するのをただ黙って聞いているような状態でした。このような状況を目の当たりにした横山社長は、自社が開発する算数ソフトを導入することにより、ルワンダの教育の質の向上に貢献できる可能性を感じました。

本事業の実施を後押ししたもう一つの事情は、ルワンダの小学校におけるパソコンの普及率でした。実は、ICTを強く進める国の政策の一環として、多くの小学校で児童用のパソコンが設置されているなど、パソコン端末は広く普及していました。ところが、教材ソフトがほとんど開発されていなかったため、多くの学校でパソコンはほとんど使われていない状態にあったのです。横山社長は、自社の算数ソフトを提供できれば、眠っているパソコンを活かし、子どもたちが喜んで勉強してくれるような新しい教育ができると考えました。

しかし、ルワンダ向け算数ソフトの開発には様々な課題がありました。一つ目の課題は、現地のパソコンの仕様が日本で一般的に利用されているものと異なっていたために、日本国内用のソフトに使われているプログラミングが使用できず、一から作成し直す必要が生じたことです。二つ目の課題は言語でした。ルワンダの教科書に合わせた内容のソフト開発のためには、ルワンダ語で書かれている教科書をすべて解読する作業が必要でした。横山社長は、元小学校教員としての長年の指導経験と、教材開発の実績を活かし、1年ほどをかけて自ら教科書を解読し、ソフト開発作業の指揮を執りました。ソフト開発の際に気をつけた点について、横山社長は次のように話します。

「日本の学校向けに作られたソフトの数式以外の表記を日本語からルワンダ語に翻訳するだけであれば、比較的簡単に作成できます。しかし、それではルワンダの教科書やカリキュラムに合致しないものとなってしまい、現地の学校で受け入れてもらうのは難しいだろうと考えました。そこで、ルワンダの教科書を読み込み、その教え方に合わせた内容のソフトを開発しました。ソフト起動時に子どもたちが操作するアイコンも、日本では忍者ですが、ルワンダではゴリラに替えるなど、現地の子どもたちに楽しんで使ってもらえるように工夫しました」

こうして完成に至ったルワンダ向けの算数ソフトですが、次に懸念されたのが、それまで一方的な講義を行うのみで、生徒との双方向の指導に慣れていなかった現地の先生たちに、ソフトを使用した新しい授業方法を受け入れてもらえるかどうかでした。しかし、実際に先生たちにソフトを使ってもらい、ゲーム感覚で操作できるソフトの面白さを体感してもらった結果、教え方が改善されました。

「実際の授業では、先生が生徒の席まで来て一緒にソフトを操作しながら教えるといった、それまでのルワンダの授業スタイルからは考えられない光景を目にすることが出来ました」と、さくら社の町田真理子(まちだまりこ)氏は語ります。

授業中の生徒たちの反応も素晴らしいものでした。ソフトを操作するたびにキャラクターが動き、音が出るため、それまで教科書もなく、中には内容が理解できずにただ座っているだけだったルワンダの子どもたちも、笑顔で先生と話しながら、積極的な姿勢で授業に臨むようになりました。その結果、ソフトを試験導入したすべての学校で成績が劇的に上昇するなど、大きな成果が得られ、中には、ソフトを使用した1週間の集中講義の後、テストの正答率が12.6%から64.3%に上昇したクラスもありました。

横山社長はこれからの目標を次のように語ります。

「2021年までに、より多くの現地の小学校で算数ソフトを試験導入し、学習効果を実証する予定です。すでに、同ソフトを使用する小学校が大統領視察先の候補に上がるなど、ルワンダの教育局や学校教育関係者からは、ソフトの導入に好意的な反応を頂いています。今後も彼らと連携し、最終的には、同国内すべての公立小学校での算数ソフトの普及を目指しています。」

日本発のコンテンツでルワンダの算数教育を変革し、子どもたちの未来、ひいては同国の未来にもプラスの変化をもたらす、そのための取組が、ルワンダで着実に進んでいます。

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