(10)SDGs達成のための科学技術イノベーション(STI for SDGs)
現在、世界では、人工知能(AI)やロボット技術に代表される科学技術の進展により、製造業、サービス業にとどまらず、農業や建設を含む多様な産業分野でIT(情報技術)、ICT(情報通信技術)が活用されるなど、社会変革が生じ、経済成長を支えています。科学技術イノベーション(STI:Science, Technology and Innovation)を活用して社会変化への適応を図ることは、先進国のみならず、開発途上国にも共通するテーマであり、各国における議論に加え、G7やG20、OECDといった多国間の議論においても着目されています。
国連は、持続可能な開発のための2030アジェンダ(パラグラフ70)において、加盟国や市民社会、民間セクター、科学団体、国連やその他のマルチ・ステークホルダー間の協力に基づいた「技術促進メカニズム(TFM:Technology Facilitation Mechanism)」を立ち上げるとしており、このメカニズムの中で国連機関間タスクチーム(UN-IATT:UN Inter-agency Task Team on STI for SDGs)を設立し、各国との連携のもと、地球規模でのSTI for SDGsを推進しています。また、TFMの取組の一つとして、2016年以降、SDGsに関する国連STIフォーラムが毎年開催され、2019年9月のSDGサミット政治宣言では、持続可能な開発のためのデジタル変革に重点を置いたSTIの活用に貢献する旨が盛り込まれるなど、限られた資源を最大限活用し、SDGsの実現に貢献するための「切り札」として、STIへの国際的な期待が高まっています。
●日本の取組

南アフリカにおいて、感染症流行の早期警戒システムの構築プロジェクトにより設置された自動気象観測装置を点検する様子(写真:JICA)
日本は、これまでの経済発展の過程で、STIを最大限活用しながら、保健・医療や環境、防災などの分野で、自国の課題を克服してきた経験を有しています。そうした経験を基礎として、近年、「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」などにより、途上国が抱える課題解決のための科学技術面での協力に取り組んできました(SATREPSについて、詳細は「用語解説」を参照)。たとえば、南アフリカでの気候変動予測や感染症の早期警戒システム開発や、タイでの水災害の解決・適応に向けたシステム構築は、SATREPSによる課題解決の好例といえます(SATREPSによる具体的な取組について、「匠の技術、世界へ」も参照)。
2015年12月、日本の外交や国際会議を含む各種外交政策の企画・立案過程に活用する「科学技術外交アドバイザリー・ネットワーク」の一環として、科学技術外交の関連分野における学識経験者で構成される「科学技術外交推進会議」が設置されました。同会議では、2017年5月、「未来への提言:科学技術イノベーションの『橋を架ける力』でグローバル課題の解決を」として、民間企業や市民社会などの異なるセクター間の連携の推進や、科学技術分野の人材育成などを含む、SDGs実施に向けた科学技術外交の具体的取組に関する提言が公表されました。また、2018年5月には、SDGs達成のための科学技術イノベーションとその手段としてのSTIロードマップに関する提言が提出されました。
この2つの提言も踏まえて、2019年のG20大阪サミットでは、STIの重要性、ならびに、STIの潜在力を活用する上で、政府、学術界、研究機関、市民社会、民間セクターおよび国際機関を含む様々な利害関係者の効果的な関与が不可欠である旨が認識され、大阪首脳宣言の付属文書として、G20開発作業部会で作成された「持続可能な開発目標達成のための科学技術イノベーション(STI for SDGs)ロードマップ策定の基本的考え方」が承認されました。
これに並行し、UN-IATTは、世界各国でのロードマップ策定検討を促進させるため、「グローバルパイロットプログラム」と呼ばれる取組を開始し、エチオピア、ガーナ、ケニア、インド、セルビアの5か国が最初のパイロット国に選ばれました。日本は、EUおよび国際機関と協力してこれら5か国を支援するため、特にケニアとインドについて、ロードマップの策定やその実施における支援の検討を始めています。
また、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)において、日本は、同会議に向けて科学技術外交推進会議から提出された提言である「イノベーション・エコシステムの実現をアフリカと共に」の内容を踏まえ、STI for SDGsのための国際共同研究および国際機関と連携した研究開発成果の実用化の促進に向けた議論に貢献しました。また、TICAD7の成果文書として採択された「横浜宣言2019」の中でも、STIの重要な役割を認識する旨が盛り込まれました。
加えて、TICAD7の機会に、アフリカをはじめとする途上国などのSDGs達成に貢献しうる日本の優れた科学技術や、それを活用した優良事例を紹介するウェブサイトとして、SDGs Solution Hub(https://sdgs-solution-hub.go.jp/)を公開しました。日本政府は、今後も、同サイトのコンテンツを充実させていくとともに、途上国の現地課題を収集する仕組みや、課題を技術で解決していくための支援も含んだ枠組みである「STI for SDGsプラットフォーム」の構築に向け、取り組んでいきます。
また、日本は引き続き、STIの高いポテンシャルを生かして、気候変動、海洋環境の変化、生物多様性の減少、食料・水資源問題、感染症、災害など、SDGsが掲げる幅広い地球規模課題の解決に向けた国際社会の取組に積極的に参画していきます。