2019年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 06

土のうを活用した道づくりでガンビアの未来を変える
~インフラ整備を通じた雇用創出で持続的な平和を構築~

土のうを締め固め、道路の基礎を整備している女性たち(写真:道普請人)

土のうを締め固め、道路の基礎を整備している女性たち(写真:道普請人)

道路整備作業を行う聴覚障がいのある女性(写真:ILO)

道路整備作業を行う聴覚障がいのある女性(写真:ILO)

西アフリカ西岸に位置するガンビアは、国民の約半数が1日1.90ドル以下の生活を送る後発開発途上国(LDC)であり、また、高い失業率に悩まされています。特に若者の間では、働き口を国外に求める非正規移民が後を絶ちません。2016年末の大統領選挙を経て、同国では民主化や経済再建が進められていますが、国内の主要な産業の基礎となる道路や水道、電気などのインフラも十分に整備されておらず、依然として経済基盤が不安定であり、失業率は高い水準にとどまっています。

こうした状況を改善するため、国際労働機関(ILO)は2018年4月、「持続的な平和構築のための若者の雇用機会促進」プロジェクトを開始し、現地の若者を雇用して、道路補修・建設事業を行いました。このプロジェクトは、外務省による拠出のもと、特定非営利活動法人 道普請人(みちぶしんびと)と連携して実施されました。

道普請人は、これまでに、ケニアをはじめとした世界29か国で、現地で入手可能な袋材に土砂を詰めた「土のう」などを活用し、現地の人びとと力を合わせて道路整備を進めてきました。道普請人による道づくりは、作業に参加した人が道路整備の技術を働きながら学ぶことができるため、地域の雇用状況の改善や人材育成に貢献します。また、機材の利用を最小限にとどめる工夫をしているため、通常の整備方法に比べ、建設費を大幅に抑えることができます。さらに、団体による直接の支援が終わった後も、現地の人びとの力で補修管理ができるため、より長い期間、整備された道路の状態を維持できるというメリットがあります。

ガンビアにおけるILOのプロジェクトでは、より多くの若者が求人情報にアクセスし、本プロジェクトに参加できるよう、同国の識字率の低さを考慮して、従来の掲示板や求人情報サイトだけでなく、ラジオ放送でも求人を行うなどの工夫がなされました。また、ガンビアの平和構築と社会的結束に貢献する観点から、社会的に弱い立場に置かれた人びとが優先的に雇用され、女性125名、帰還民30名、聴覚障がい者10名を含む計250名の雇用機会が創出されました。

道路整備作業が行われたのは、観光用の遊歩道(1.2km)と、漁港から幹線道路へと続く港湾道路(2.5km)です。遊歩道は、バードウォッチングなどができる観光地の中心に建設されたものの、観光客が陥没を恐れて使用できない程に荒れていました。また、港湾道路は、雨季には浸水して使用できなくなるため、現地の水産業は大きな打撃を受けていました。これらの道路を、土木建築経験がなく、就労に不慣れなガンビアの若者とともに整備する作業には困難も伴いましたが、道普請人の日本人スタッフと、道普請人がケニアで実施した道づくりのプロジェクトで経験を積んだケニア人スタッフがともに指導を行い、作業を進めていきました。

「ガンビアの若者の中には、作業の途中で飽きたり疲れたりすると休んでしまうなど、規律を守って仕事をすることに慣れていない人もいましたが、やっと国が落ち着き、これから自分の力で稼いで生活していきたいという意識の高い人が多く、総じて真面目に仕事に取り組んでいたことが印象的でした。また、ガンビアと同じ英語圏のケニア人スタッフのおかげで、作業に参加した若者との意思の疎通もスムーズに行うことができ、良い関係を保ちながら適切に指導することができました」と、道普請人の福林良典(ふくばやしよしのり)理事は語ります。

土のうによる道づくりの技術指導を受けた現地の若者たちは、プロジェクトの一環として行われた起業研修を通じて道路整備・補修会社を立ち上げ、地域コミュニティから事業を請け負うなど、プロジェクト終了後も活発に活動を続けています。事業参加後に道路整備・維持管理会社を立ち上げ、自ら女性社長を務めるセイナブ・ジャメ氏は、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の機会にILOが主催したサイドイベントに登壇し、「私は求職者(job seeker)ではなく、雇用創出者(job creator)になった」と述べ、自身の仕事への誇りを語りました。そのほか、今回の支援の成果をより持続的なものにするため、土のうによる道づくりをガンビアの公的職業訓練校(Gambia Technical Training Institute)のカリキュラムに組み込むことにより、技術の定着を図る取組も行われました。

現在、ILOと道普請人は、モーリタニアなど、他のアフリカ諸国でも土のうを活用した道づくりの事業を展開し、現地の人びとに働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を生み出すためのプロジェクトを進めています。このように、メイド・イン・ジャパンの土のう技術を取り入れ、現地の雇用を生み出し、人びとの経済的安定と地域の平和を構築するための人間中心の取組が、アフリカで着実に進んでいます。


用語解説を参照。

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