(2)ボランティア、NGOなどの市民参加型連携
ア.青年海外協力隊・シニア海外ボランティア(JICAボランティア)事業
1965年に発足し、2015年に50周年を迎えた青年海外協力隊を含むJICAボランティア事業は、累計で91か国に5万人以上を派遣し、まさしく日本の「顔の見える開発協力」として開発途上国の発展に貢献してきました。青年海外協力隊は、技術、知識、経験等を有する20歳から39歳まで、シニア海外ボランティアは、幅広い技術、豊かな経験を持つ40歳から69歳までの国民が、開発途上国に原則2年間滞在し、現地の人々と生活や労働を共にしながら、派遣先国の経済・社会の発展に協力する国民参加型事業です。
JICAボランティア事業は、現地の経済・社会の発展のみならず、現地の人たちの日本への親しみを深めることを通じて、日本とこれらの国との間の相互理解・友好親善にも寄与しています。また、ボランティア経験者が日本の民間企業の開発途上国への進出等に貢献するなど、ボランティア経験の社会還元という側面も注目されています。
日本政府は、こうした取組を促進するため、帰国ボランティアの進路開拓支援を行うとともに、現職参加の普及・浸透に取り組むなど、これらのボランティア事業に参加しやすくなるよう努めています。
なお、青年海外協力隊・シニア海外ボランティアを含むJICAボランティア事業の制度について、総称を「JICA海外協力隊」とし、現行の年齢による区分(青年・シニア)を、一定以上の経験・技能等の要否による区分に変更する見直しを行い、2018年秋募集から順次適用しています。
●マダガスカル
青年海外協力隊[助産師]
青年海外協力隊(2015年10月~2017年10月)
アフリカのマダガスカルの中でも、北東部のマジュンガ郡はとりわけ作物に乏しく、総人口約7万人の多くが貧しい生活を余儀なくされており、食料や栄養に関する十分な知識が得られないため、栄養不良や体重増加不良の子どもが少なくありません。栄養不良は、人の健康状態だけではなく、肉体・認知能力の低下による学習到達度や労働生産性の低下を引き起こし、ひいては経済・社会開発の低下にもつながるため、マダガスカルでは深刻な問題となっています。
青年海外協力隊として同地で活動していた菅沼弘美(すがぬまひろみ)隊員は、マジュンガ郡の基礎保健診療所を拠点に、2015年10月から2017年10月の間、助産師として、妊婦検診、小児予防接種のサポート、健康教育の実施などの活動を行ってきました。
マジュンガ郡保健局では、栄養不良児の特定が十分になされていなかったため、菅沼隊員は、母子が妊婦検診や小児予防接種のために診療所を訪れた際に、子どもの体重測定を通じて栄養不良児の特定を行い、診療所に来られない地域の母子のために農村部の巡回活動を積極的に行いました。また、母子手帳に掲載されている成長発達曲線の見方を説明するなど、母親への知識の啓発や栄養指導を行いました。
栄養指導にあたっては、青年海外協力隊員が協力して作成した教材「栄養改善キット」を用いたバランスのとれた食事の説明や、地元産で安価、かつ栄養価の高い食材を用いた調理のデモンストレーションを行うなど、母親にとってわかりやすく実践可能な方法を伝えました。
さらに、栄養改善を持続的に進めていくための体制作りに向けて、基礎保健診療所で働く保健ボランティアの人々が無理なく活動を続けていけるようなシステム作りにも取り組みました。
イ.日本のNGOとの連携
日本のNGOは、開発途上国・地域において様々な分野で質の高い開発協力活動を実施しており、地震・台風などの自然災害や紛争等の現場においても、迅速かつ効果的な緊急人道支援活動を展開しています。日本のNGOは、開発途上国それぞれの地域に密着し、現地住民の支援ニーズにきめ細かく丁寧に対応することが可能であり、政府や国際機関による支援では手の届きにくい草の根レベルでの支援を行うことができます。外務省はこうした「顔の見える開発協力」を行う日本のNGOを開発協力における重要なパートナーとして、NGOに対する資金協力を含む支援、NGOに対する活動環境整備支援、NGOとの対話の点で連携を進めています。
さらに、外務省は開発協力大綱の下、NGOとの今後5年間における連携の方向性にかかわる計画をNGOと共同で作成し、2015年に発表し、その後NGOと共に同計画の進捗(しんちょく)報告を毎年行うなど、この計画のフォローアップを行っています。
●NGOに対する資金協力を含む支援
日本政府は、日本のNGOが開発途上国・地域において開発協力事業および緊急人道支援事業を円滑かつ効果的に実施できるように様々な協力を行っています。
■日本NGO連携無償資金協力
外務省は、日本NGO連携無償資金協力として、日本のNGOが開発途上国で実施する経済社会開発事業に資金を提供しています。事業の分野も医療・保健、教育・人づくり、職業訓練、農村開発、水資源開発、地雷・不発弾処理のための人材育成支援等、幅広いものとなっています。この枠組みを通じて2017年度は日本の62のNGOが、35か国・1地域において、総額約50.7億円の事業を113件実施しました。
■ジャパン・プラットフォーム(JPF)
2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織である「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」には、2019年1月時点で42のNGOが加盟しています。JPFは、外務省から供与されたODA資金や企業・市民からの寄付金を活用して、大規模な災害が起きたときや紛争により大量の難民が発生したときなどに生活物資の配布や生活再建等の緊急人道支援を行っています。2017年度には、アフガニスタン人道支援、イエメン人道危機対応支援、イラク・シリア難民・避難民支援、パレスチナ・ガザ人道支援、南スーダン支援、ミャンマー避難民人道支援、シエラレオネおよび南アジアでの水害支援、スリランカ洪水支援など、10プログラムで83件の事業を実施しました。
■NGO事業補助金
外務省は、日本のNGOを対象に、経済社会開発事業に関連し、事業の形成、事業実施後の評価、国内外における研修会や講習会などを実施するNGOに対し、200万円を上限に総事業費の2分の1までの補助金を交付しています。2018年には8団体がこの補助金を活用し、プロジェクト形成調査および事後評価、国内外でのセミナーやワークショップなどの事業を実施しました。
■JICAの草の根技術協力事業
JICAの技術協力プロジェクトにおいてはNGOを含む民間の団体に委託して実施される場合があり、NGO、大学や地方自治体といった様々な団体の専門性や経験も活用されています。さらに、国際協力の意志を持つ日本のNGO、大学、地方自治体および公益法人等の団体の提案による国際協力活動について、「草の根技術協力事業」を実施しており、2017年度は222件の事業を世界51か国で実施しました。同事業には、団体の規模や種類に応じて、次の3つの支援方法があります。①草の根パートナー型(事業規模:総額1億円以内、期間:5年以内)、②草の根協力支援型(事業規模:総額1,000万円以内、期間:3年以内)、③地域提案型(事業規模:総額3,000万円以内、期間:3年以内。地域活性化特別枠は総額6,000万円以内)
●NGOに対する活動環境整備支援
NGOに対する資金協力以外のさらなる支援策として、NGOの活動環境を整備する事業があります。これは、NGOの組織体制や事業実施能力をさらに強化するとともに、人材育成を図ることを目的とした事業で、外務省は、具体的には以下の4つの取組を行っています。
■NGO相談員制度
外務省の委嘱を受けた全国各地の経験豊富なNGO団体(2017年度は15団体に委嘱)が、市民やNGO関係者から寄せられる国際協力活動やNGOの組織運営の方法、開発教育の進め方などに関する質問や相談に対応する制度です。そのほか、国際協力イベントや教育現場等において国際協力に関する講演やセミナー等を無料で提供し、多くの人がNGOや国際協力活動に対して理解を深める機会をつくるようにしています。
■NGOインターン・プログラム
NGOインターン・プログラムは、日本の国際協力NGOへの就職を希望する若手人材のために門戸を広げると同時に、将来的には日本のODAにも資する若手人材の育成を目指しています。これを通じて日本のNGOによる国際協力を拡充し、ODAとNGOとの連携関係をさらに強化していくことを目的として、外務省はインターンの受入れと育成を日本の国際協力NGOに委託し、育成にかかる一定の経費を支給しています。
インターン受入れNGOは、「新規」に10か月採用されたインターンをさらに12か月間の「継続」インターンとして採用するための申請を行うことができ、最長22か月かけてインターンの育成を行うことが可能となっています。2017年度は、このプログラムにより、計10人がインターンとしてNGOに受け入れられました。
■NGO海外スタディ・プログラム
NGO海外スタディ・プログラムは、日本の国際協力NGOの人材育成を通じた組織強化を目的として、日本の国際協力NGOの中堅職員を対象に、最長6か月間、海外での研修を受けるための経費を支給するものです。このプログラムは、国際開発分野の事業や同分野の政策提言等において優良な実績を有する海外NGO、または国際機関にて実務能力の向上を図る「実務研修型」と、海外の研修機関が提供する有料プログラムの受講を通じて専門知識の向上を図る「研修受講型」の二つの形態で実施しています。研修員は、所属団体が抱える課題に基づき研修テーマを設定し、帰国後には研修成果の還元として、所属団体の活動に役立てるとともに、ほかのNGOとも情報を広く共有し、日本のNGO全体の能力強化に尽力することとしています。2017年度は、このプログラムにより、7人が研修を受けました。
■NGO研究会
外務省は、NGOの能力、専門性向上のための研究会の実施を支援しています。具体的には、業務実施を委嘱されたNGOがほかのNGO等の協力を得ながら、調査、セミナー、ワークショップ(参加型の講習会)、シンポジウムなどを行い、具体的な改善策の報告・提言を通じて、NGO自身の組織および能力の強化を図ります。2017年度、NGO研究会は、「日本のNGOによる、アジア・アフリカ諸国における政府と現地NGOの対話プロセス構築支援の方法に関する研究」「日本のNGOの安全管理における課題の把握と政策の提言」「グローバル・ヘルスとNGO」の3つのテーマに関する研究会を実施しました。活動の報告書・成果物は外務省のODAホームページに掲載されています。
■JICAのNGO等活動支援事業
外務省が行う支援のほかに、JICAでは国際協力活動を実施しているNGO・NPO、公益法人、教育機関、自治体等の団体(NGO等)が、より効果的で発展的な事業を実施・推進するため、様々な形で研修等のNGO等活動支援事業を実施しています。JICAの企画やNGOからの提案により、草の根技術協力事業等の実施に際して必要となる開発途上国における事業実施に係る研修や、NGO等の機能強化に資する各地域や分野の状況に応じた研修を実施しています。
■NGO-JICAジャパンデスク
JICAはNGOの現地での活動を支援するとともに、NGOとJICAが連携して行う事業の強化を目的として、「NGO-JICAジャパンデスク」を海外20か国に設置しています。NGO-JICAジャパンデスクでは、主に①日本のNGO等との連携によるJICA事業の円滑な実施に必要な業務、②日本のNGO等の現地活動を支援する業務、③日本のNGO等とJICAとの連携強化に必要な業務の3つのサポートを行っています。
●NGOとの対話
■NGO・外務省定期協議会
NGO・外務省定期協議会は、NGOと外務省との連携強化や対話の促進を目的として、ODAに関する情報共有やNGOとの連携の改善策などに関して定期的に意見交換する場として1996年度に設けられました。現在では、年1回の全体会議に加え、「ODA政策協議会」と「連携推進委員会」の二つの小委員会が設置されています。どちらの小委員会も原則としてそれぞれ年3回開催されます。「ODA政策協議会」ではODA政策全般に関する意見交換が、「連携推進委員会」ではNGO支援・連携策に関する意見交換が行われています。
■NGO・在外ODA協議会
2002年以降、日本政府は日本のNGOが多く活動している開発途上国において、大使館、JICA、NGO関係者が意見を交換する場として「NGO・在外ODA協議会」を設置して、ODAの効率的・効果的な実施等について意見交換を行っています。
■NGO-JICA協議会
JICAは、NGOとの対等なパートナーシップに基づき、より効果的な国際協力の実現と、国際協力への市民の理解と参加を促すために、NGO-JICA協議会を2017年度は年に4回開催しました。