2018年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 07

地方独自の農業技術支援で互いの地域活性化へ
~宮城県丸森町の農家によるザンビアへの農業支援~

アフリカ南部にあるザンビアは、農村人口のおよそ8割弱が貧困の状態にあり、多種多様な農産物の安定的な生産が課題となっていました。

一方で、宮城県丸森町耕野(こうや)地区では人口減少・高齢化に加え、2011年の東日本大震災の際の原発事故による放射能の被害とそれに伴う風評被害のため、地域社会が活力を失い閉塞感が漂うようになっていました。

同地区の住民自治組織である耕野振興会は、こうした状況を打破すべく、他の地域では行っていないような特徴ある地域づくりをしようと考えました。折よく、震災前に丸森で暮らしたあと、日本がザンビアで実施する技術協力プロジェクトに専門家として赴任した方が、ザンビアと耕野地区を繋げてくれました。その方が「丸森とザンビアは決して農業に恵まれた環境とはいえない共通点がある。丸森の農家が培ってきた伝統的技術をザンビアに伝えたら面白いのでは」と提案してくれました。そこで、耕野振興会から丸森町役場に相談し、さらに他の地区にも協力を呼びかけ、丸森町民が持っている農業技術、様々なアイデアや創意工夫などを途上国の小規模農家に伝えることで貧困解消に貢献できるかもしれないという思いの中で、丸森町とザンビア・ルサカ州の農村部との関係が始まりました。

丸森町は2016年から草の根技術協力プロジェクトの地域活性化特別枠を活用し、ザンビア・ルサカ州内の農村部において丸森の伝統的な農業技術を伝える技術協力を行いました。丸森からは短期専門家をルサカ州に派遣し、さらにザンビア農業省から研修員を丸森に招待して地域住民と交流しながら農業技術研修を行いました。

ザンビアでの技術協力や丸森における研修では、農業の多様化を実現するための農産物生産、生産した農産物を長期保存できるための加工・保存技術、生産した農産物を売るためのマーケティング、生産した農産物を消費するための栄養・調理の4分野を取り上げました。

この研修で取り組んだ活動の一つが養蜂でした。以前のザンビアでは、蜂蜜の収穫は、蜂の巣を壊して採取する方法しか行われておらず、非常に効率が悪いものでした。そこで、日本で行われている重箱式巣箱を使った方法を伝え、効率的かつ継続可能で安全な養蜂を行うための支援を行いました。また、ザンビアの研修員は、丸森で「土」を作ることの大切さも学びました。「化学肥料を使用すればうまくいくことは分かっていましたが、農家にとっては高価で購入することができませんでした。しかし、丸森では身近な材料である竹を使って堆肥(たいひ)を作ることで良質な土づくりを行っていることを知り、ザンビアの農家にとって身近なトウモロコシの収穫後の残りかすなどを使って堆肥作りを行ったところ、生産量を上げることができました」と、かつて丸森で研修を受け現在プロジェクトのカウンターパートであるチパシャ・ルサカ州農業長官は成果を語ります。

日本の養蜂技術を使って蜂密採集を行うザンビアの養蜂農家(写真:耕野振興会)

日本の養蜂技術を使って蜂密採集を行うザンビアの養蜂農家(写真:耕野振興会)

丸森町で土づくりの研修を行っている様子(写真:耕野振興会)

丸森町で土づくりの研修を行っている様子(写真:耕野振興会)

こうした農業技術の支援を通じた丸森町とザンビアとの関係は、ザンビア側への一方的な技術支援のみならず丸森にも様々な変化をもたらしました。農業技術研修に協力した町民の間では、ザンビアの研修員と交流する事で国際協力への理解が深まり、ザンビアのことをさらに知ろうという動きの下、ザンビアの農業に関する勉強会を開催しています。ザンビアに実際に行った丸森の農家の中には、ザンビアで活用され始めた農業技術を丸森でも試してみるといった動きもあります。

2018年12月19日、訪日したザンビアのエドガー・チャグワ・ルング大統領と安倍総理大臣との首脳会談および安倍総理大臣主催夕食会が行われ、夕食会には保科(ほしな)丸森町長も出席ました。「いつかザンビアに行って、交流し、文化に触れてみたい」との研修員受入れ家庭の高校生の手紙を町長が紹介しメッセージを読み上げると、ルング大統領は喜びの笑顔を浮かべました。

そして何より大きいのは、町民の方たちのモチベーションの変化です。自分たちの伝えた技術やアイデアが、ザンビアの農家の暮らしを豊かにしている。この事実が、自分たちの持っている知識や技術や経験の大切さを認識する素晴らしい機会になっています。丸森町で農業を営み、ザンビアの研修員のホームステイの受け入れ先の一人は、このように語ってくれました。

「ザンビアの農業の現在の姿は、戦後日本の農業が歩んできた道です。日本人がかつて十分な機械もない中で懸命に知恵を絞ってやってきたことが、今ザンビアで行われようとしています。そこに日本の、丸森の技術が伝えられている。ザンビアとの交流は、自分たちがたどってきた道を振り返り原点に返る素晴らしいきっかけとなりました。」

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る