第3章 人道と開発と平和の連携の推進
近年、世界各地で発生している人道危機は、長期化・複雑化してきています。2017年時点で、難民をはじめとする避難を余儀なくされた人々の数は、第二次世界大戦後最多を更新し、増加し続けています。特に、2015年の夏以降、大量の難民や移民が中東やアフリカから欧州に流入した問題が注目を集めるなど、難民問題は国際社会が真剣に対応しなければならない喫緊の課題の一つとなっています。
第1節 長期化・複雑化する人道危機に対する人道支援

2017年9月、佐藤正久外務副大臣は、レバノンのタナーエル非公式難民居住区を訪問し、シリア難民の家族と懇談した。
人道危機の脅威にさらされ、難民や国内避難民が発生した場合にまず必要となるのは、緊急的なシェルター(簡易テント)や、水、食料、医療などを提供する「人道支援」です。
しかし、難民や国内避難民を保護の対象とのみとらえるべきではなく、将来彼らが自立して祖国の復興を担う人材となることを意識した中長期的な視点が重要です。こうした観点から、日本は、人道危機が発生した初期の段階から、「人道支援」と並行して、難民・国内避難民に対する「開発協力」を行うことを重視しています。その際には特に次の2点が重要です。
①難民・国内避難民に対する自立・生計向上のための支援
たとえば、未来の国づくりを担う子どもたちへの教育は避難開始当初から必要なものであり、決して断絶期間があってはなりません。教育や職業訓練等を通じて、将来的に、難民・国内避難民の帰還と、帰還した後の社会への再統合を促進することが期待されます。
②難民・国内避難民と受入れコミュニティの双方が必要とする基礎的インフラ(水供給、保健医療、廃棄物管理、道路等)の支援、その管理・運営を担う行政(特に地方行政)能力の向上を図る支援
難民・国内避難民が大量に流入し、避難が長期化する中で、しばしば受入れコミュニティとの間で摩擦や不和が生じがちです。しかし、たとえば日本の支援で提供した保健医療施設を難民・国内避難民と受入れコミュニティの双方が利用することで、両者が日常的に接し、お互いの緊張緩和にもつながることが期待できます。
日本は、この「人道と開発の連携」のアプローチを積極的に推進しており、これは難民や国内避難民が再び人道支援を必要とする状況に陥ることを防ぐ観点からも極めて重要です。難民や難民受入れ国に対する支援については、これまで国際機関が中心となって実施してきましたが、これまで培った相手国との良好な関係を最大限に活用し、二国間協力も拡充させることを視野に入れています。