2017年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 01

マラウイ版母子健康手帳への支援
~子どもの成長記録、ヘルスパスポートの改善活動~

検診で改訂版ヘルスパスポートに体重を記入するヘルスワーカー。(写真:JICA)

検診で改訂版ヘルスパスポートに体重を記入するヘルスワーカー。(写真:JICA)

マラウイは、アフリカ大陸南東部に位置する内陸の国で、人口約1,700万人の8割近くが主に自給を目的とした農業に従事する農業国です。

マラウイでは、出産したお母さんにヘルスパスポートと呼ばれる乳幼児用健康手帳が配布されます。これは子どもに必要なタイミングで必要な医療機会を与えるとともに、栄養不良に陥っていないかなどの判断を行う上でも大切な記録で、予防接種や栄養投与のスケジュールと実施日の記録欄、出生から5歳に至るまでの毎月の身長と体重の記録欄、通院歴の記録欄などから構成されています。日本の母子健康手帳から子どもに関する部分だけを抜き出したようなイメージで、前述したように、栄養不良の子どもを早期に見つけ出して、必要な対処をするためにとても役立つものですが、マラウイではこのヘルスパスポートの活用状況において、これまで様々な問題が存在していました。

2016年に青年海外協力隊員としてマラウイに派遣され、ムジンバ県保健事務所でヘルスパスポートの改善に取り組んだ看護師の野田(のだ)いずみさんは、派遣当時の様子を「ヘルスパスポートの記録の間違いが非常に多く、そこに書かれた子どもたちの成長記録をもとに適切なケアをすることが難しい状況でした」と語ります。

野田さんによると、問題は大きく3つ存在していました。1つ目はお母さんたちの問題です。ヘルスパスポートの表紙に子どもの名前と誕生日を記載する欄があるのですが、冊子の意味や大切さを理解していないお母さん方の管理の悪さのため表紙がすっかり取れてしまい、そこに書かれている名前や予防接種の記録が失われてしまっていたものが多くありました。また、自宅で出産後、時間が経ってから病院を訪れてヘルスパスポートを受け取ることも多いため、子どもの正確な誕生日を記憶していないお母さんもいました。正確な生年月日がわからないと、その後の記録も不正確なものになり、成長不良の子どもを見逃すことになってしまいます。

マラウイ保健省の母子保健担当オフィサーと共にヘルスパスポート運用状況を視察する野田隊員。(写真:JICA)

マラウイ保健省の母子保健担当オフィサーと共にヘルスパスポート運用状況を視察する野田隊員。(写真:JICA)

2つ目はヘルスワーカーの問題です。ヘルスワーカーとは、短期間の教育を受けたのち医療現場で働くスタッフで、ヘルスパスポートに成長の記録を書き込んだりすることが仕事です。しかし、ヘルスパスポートへの記入の方法や、正しい記入の大切さを理解していない人も多く、数字を間違った場所に記入してしまう例が多発していました。また欠勤も多く、一度の検診に100名から200名の子どもが集まることもある中で、残った少数のヘルスワーカーで対応した結果、記入を間違ってしまうということもありました。3つ目はヘルスパスポート、そのものの問題です。記入欄が非常に分かりづらく、記入場所が見つけにくい上に、文字や記入欄も小さすぎ、これが原因で誤記入が起こっていました。

野田さんたちが、地元の病院の協力を得て調査したところ、97%のヘルスパスポートに間違いが見つかり、そのうちの8割が間違った月齢へのマークでした。この調査結果で野田さんたちは多くの改善が必要なことを痛感し、以下の3つを活動の柱に据えました。

・体重と身長の記入欄のデザイン改良

・ヘルスワーカーに対する再教育とトレーニング

・お母さんたちに対するヘルスパスポートの適切な管理のお願い

上記のうち、デザインの改良は、どのように変更すれば間違いを防げるかを念頭において、日本から来ているボランティア5人ほどで試行錯誤しながら進めました。それまで記載欄のなかった検診日の記入欄を追加したり、マークするときに間違いが起きないよう5kgごとに太線を追加したりするなど、細かい部分にも気を配りました。また表紙が取れても記録が追跡できるように、体重と身長の記入欄にも名前や生年月日などを記入する場所を追加しました。そして、完成したヘルスパスポートをムジンバ県の5つの施設で仮導入し、2016年5月から1年間の実地調査を行いました。

実地調査にあたっては、ヘルスワーカーに対して、新しいデザインの狙いを説明するとともに適切な記入のやり方を教育し、それを保管するお母さんたちには、汚れや破損を避けるためのビニール製の袋に入れて保管するなど適切な管理をお願いしました。

最終的に、配布した7,036部の新ヘルスパスポートのうち、5つの施設からそれぞれランダムに20部、計100部を回収して確認したところ、マークする場所や内容の間違いは大幅に減少していました。また、ヘルスワーカーからも使いやすくなったと好評でした。この結果を受けて新ヘルスパスポートがマラウイの保健省でも正式採用となり、予算が確保され次第、全国規模で使われる見通しとなっています。

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