2016年版開発協力白書 日本の国際協力

開発協力トピックス 05

ODAをめぐる制度の見直しと改善

重要な外交ツールであるODAを限られた予算の中でより効率的に活用していくために、外務省はODAの各種制度の改善を実施しています。近年は、開発途上国の旺盛なインフラ需要に対応し、かつ日本企業にも利益がある案件形成を目指し、有償資金協力、無償資金協力の制度改善に取り組んでいます。

 

有償資金協力

2015年5月、安倍総理大臣は「質の高いインフラパートナーシップ」を発表しました。このイニシアティブは、アジアの膨大なインフラ需要に応えるべく、アジア開発銀行(ADB)等と連携して、今後5年間で総額約1,100億ドル、約13兆円規模の「質の高いインフラ投資」を実施するというものです。2015年11月には、同イニシアティブのフォローアップ策として、①迅速化の推進、②民間投資の奨励、③日本の支援の魅力向上、を柱とする12項目の制度改善策を発表しました。

具体的には、円借款に関しては、たとえば、通常は3年を要する円借款における政府関係手続き期間を重要案件については最短で約1年半まで短縮し、その他の案件についても最短で約2年まで短縮することや、JICAの財務健全性を確保することを前提として、ドル建て借款や、事業・運営権対応型円借款等の新たな円借款制度を創設しました。円借款だけではなく、JICAが実施する海外投融資に関しても、迅速化、対象の拡大およびJICAと他機関の連携強化を行うことを発表し、民間企業等の申請から原則1か月以内に審査を開始すること、民間金融機関との協調融資を可能とすること等の新たな取組を行うこととしました。また、2016年5月のG7伊勢志摩サミットを機に、「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を発表し、世界全体のインフラ案件向けに、今後5年間の目標として、約2,000億ドルの資金を供給するとともに、円借款のさらなる迅速化等の制度改善を打ち出しました。

 

無償資金協力

無償資金協力については一層効果的に活用していくことを目指し、2016年3月~5月にかけて、木原外務副大臣(当時)の下、無償資金協力事業に関係が深いコンサルタント、建設会社、商社を対象にヒアリングを行い、6月に報告書をまとめました。ヒアリングの結果、①日本企業に魅力的な案件形成、②免税問題、③先方政府負担事項、④積算の改善、につき特に意見が集中したことを受け、以下の方向性で取り組んでいく考えです。

まず、日本企業に魅力的な案件形成については、今後無償資金協力案件を実施する国と分野に関する方向性を示すことにより、中長期的な継続性および予測可能性を向上させるとともに、将来の有償資金協力事業につなげられるような案件や他スキームと連携するスキーム複合型案件の形成を積極的に検討し、日本の優れた技術等を活用した付加価値の高い民間提案型の案件形成も促進していきます。

免税問題については、今後形成される新規案件につき、免税項目および免税対象の範囲を明記した口上書を取り付けていきます。また交換公文締結後に施工・調達業者と先方政府との間で免税について問題が生じた際には、外務省およびJICAが先方政府と速やかに交渉し、解決を図るべく努めていきます。

先方政府が負担する事項については、既に贈与契約に明記していますが、今後は事前調査を強化し、先方政府が負担事項に同意しない場合には閣議請議を見送ることも含め、厳しく対応していくこととし、既に実行に移しています。先方負担事項が遵守されない場合には、現地大使館およびJICA事務所からも先方政府に対応を申し入れるとともに、個別の状況を踏まえ、不可抗力などの真にやむを得ないと判断される場合には、予備的経費を弾力的に適用していく方針です。

最後に積算の改善については、現在多発している入札不調・不落を防ぐため、JICAは積算に必要な期間および経費を確保してコンサルタントによる積算業務を改善させつつ、先方政府から協力の要請が来た段階で要請金額を精査するとともに、予備調査を活用することで想定金額の精度を向上させていきます。

今後も外務省としてJICA、関係省庁、経済界等と連携しながら、ODAの制度改善やさらなる活用策の検討を進め、ODAを戦略的に活用していきます。

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