2016年版開発協力白書 日本の国際協力

開発協力トピックス 03

ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現に向けて

2015年9月、国連サミットにおいて、「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」が採択されました。2030アジェンダは、先進国と開発途上国が共に取り組むべき国際社会全体の普遍的な目標として採択され、その中に持続可能な開発目標(SDGs)として17のゴールと169のターゲットが掲げられました。2030アジェンダでは、「ジェンダー平等の実現と女性と女児のエンパワーメントは、すべての目標とターゲットにおける進展において死活的に重要な貢献をするもの」であると、力強く明記されています。

このように、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントは、国際協力における重要な課題です。これまで開発途上国の女性を取り巻く環境の改善のために様々な取組が行われてきました。その結果、教育や保健、経済など、様々な分野で男女間の格差は縮小する傾向にあります。しかしながら、世界には、女性であるがゆえに社会の底辺に置かれ、教育や医療へのアクセスが十分に与えられず、女性が普通の生活を送ることすら困難な状況にある地域も依然として数多くあります。また、紛争地域の混乱した状況下では、特に女性は脆弱な立場に置かれやすく、性的暴力を含むジェンダーに基づく暴力が蔓延しがちです。また、女性は大規模な自然災害発生時にも、脆弱な立場に置かれやすく、ジェンダーに基づく暴力被害や住居、食糧、仕事へのアクセスの不足等の問題に直面することが多い現状があります。こうした悲惨な状況が発生することを予防するためには、当事者のニーズを最も良く理解する女性たち自身が普段から意思決定過程に参画し、リーダーシップを発揮できる環境を整えることが重要です。

日本は、女性が持つ力を最大限発揮できるようにすることは、社会全体に活力をもたらし、成長を支える上で不可欠との考えのもと、「女性が輝く社会」の実現に向け、国際社会との協力や途上国支援を進めています。2016年5月には、開発協力大綱にもとづく新たな分野別開発政策の一つとして「女性の活躍推進のための開発戦略」を発表するとともに、2016年から2018年までの3年間で、約5,000人の女性行政官等の人材育成と約5万人の女子の学習環境の改善を実施する旨を表明、また、同年12月に開催された3回目となる国際女性会議WAW!において、途上国における女性の活躍推進のために、2018年までの3年間で総額約30億ドル以上の支援を行う旨表明し、いずれも着実に実施しています。

「女性の輝く社会」の構築に向けた具体的な取組の事例をご紹介します。

●女性にやさしいインフラ

デリー高速輸送システム建設事業計画(インド) 

インドでは、公共の場所での女性に対する嫌がらせや性的被害が深刻な問題となっています。女性にとって安全で快適な公共交通機関がない場合、学校や勤務先などの選択肢が狭まることになり、女性の社会進出の制約になっています。この事業では、「世界一ユーザーフレンドリーな地下鉄」を目指して、女性、高齢者、障害者等の利用に配慮した駅舎(エレベーター、エスカレーター、防犯カメラなど)や客車(女性専用車両用、各車両に非常通報装置を設置)を採用し、駅員や乗務員を対象とした手話訓練を実施しています。

インド:安心で安全な公共交通機関の整備が、女性の社会進出につながる(写真:JICA)

インド:安心で安全な公共交通機関の整備が、女性の社会進出につながる(写真:JICA)

デリーメトロの女性専用車両車内の様子(写真:JICAインド事務所)

デリーメトロの女性専用車両車内の様子(写真:JICAインド事務所)

●女子の学習環境改善

ナンプラ州中学校改善計画(モザンビーク)

モザンビークでは、中等教育学校に進学を希望する初等教育修了者が急増していますが、教室数の不足から生徒が入学できず、学校施設の整備が喫緊の課題となっています。この協力では、中等教育への就学率が低い北部ナンプラ州において、中学校の教室やトイレ棟便所棟などの新設と、必要な機材の整備を支援しました。安全・安心かつ衛生的なトイレ設備を整備することで、より多くの女子生徒が中等教育学校へ進学することが可能となり、進学率の向上が期待されます。

モザンビーク:トイレの整備をすることで、女子の中等教育就学率の向上に貢献(写真:JICA)
モザンビーク:トイレの整備をすることで、女子の中等教育就学率の向上に貢献(写真:JICA)

モザンビーク:トイレの整備をすることで、女子の中等教育就学率の向上に貢献(写真:JICA)

●女性警察官養成

アフガニスタン女性警察官支援(アフガニスタン)

アフガニスタンでは、家庭内暴力(DV)や性暴力、幼児婚、名誉殺人といったジェンダーに基づく暴力が、アフガニスタン女性の人権と安全を脅かす差し迫った取組課題となっています。日本政府は、UNDPが管理するアフガニスタン法秩序信託基金(LOFTA)への拠出を通じた同国の警察支援を行ってきました。また、JICAでは、2014年度よりUNDP/LOFTAを通じたトルコでのアフガニスタン女性警察官研修に個別専門家を派遣してきました。2015年度の研修には、中堅女性警察官28名及び新人女性警察官361名が参加しました。2016年度から3年間、「アフガニスタン女性警官のジェンダーに基づく暴力への対応能力向上」に係る研修(技術協力個別案件)を日本において実施しています。

アフガニスタン:研修生からの質問に答えるJICA国際協力専門員の久保田真紀子さん(写真:JICA)

アフガニスタン:研修生からの質問に答えるJICA国際協力専門員の久保田真紀子さん(写真:JICA)

アフガニスタン:研修生からの質問に答えるJICA国際協力専門員の久保田真紀子さん(写真:JICA)
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