2016年版開発協力白書 日本の国際協力

2. 開発協力の適正性確保のための取組

日本の開発協力は、開発協力大綱の実施上の原則を踏まえて立案・実施されています。

(1)平和国家としての開発協力

日本は、開発協力大綱の下で、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、国際社会の平和と安定および繁栄の確保により一層積極的に貢献するために開発協力を推進していくこととしています。そのため、日本は「非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」という、平和国家としての日本にふさわしい開発協力を推進することを基本方針としています。具体的には以下のような原則を踏まえて開発協力を行っています。

開発途上国において政治的な動乱後に成立した政権や反政府デモが多発している開発途上国に対する支援については、日本は、ODAが適切に使われていることを確認するとともに、開発途上国の民主化、法の支配および基本的人権の状況などに日本として強い関心を持っているとのメッセージを相手国に伝え、ODAによる支援を慎重に検討することとしています。

開発協力大綱は、ODAを軍事目的に用いないというこれまでの原則を変えるものではなく、「非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」を掲げ、平和国家としての日本にふさわしい開発協力を推進する方針を堅持しています。一方、近年、感染症対策や紛争後の復旧・復興等の民生分野や災害救援等、非軍事目的の活動において軍や軍籍を有する者が重要な役割を果たしており、国際社会における重要な開発課題への対応に当たり、これらの者に対し、非軍事目的の協力が必要となる場面がより増加していることを踏まえ、開発協力大綱では、「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」の原則の下、これまで十分明確でなかった軍や軍籍を有する者に対する非軍事目的の開発協力に関する方針を明確化しました。大綱策定以降、こうした協力として、たとえば、エクアドルの軍籍を有する職員に対する防災研修や、パプアニューギニア軍楽隊に対する楽器の供与などを実施しています。こうした協力の適正性確保のため、開発協力適正会議のような事前の審査や事後のモニタリングにもしっかりと取り組んでいきます。また、テロとの闘いや平和構築への貢献に当たっても、日本の支援物資や資金が軍事目的に使われることを避けるため、大綱の原則を十分に踏まえることとしています。

さらに、テロや大量破壊兵器の拡散を防止するなど、国際社会の平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、日本はその国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入等の動向に十分注意を払って、開発協力を行うこととしています。

(2)環境・気候変動への影響、社会的弱者への配慮

経済開発を進める上では、環境への負荷や現地社会への影響を考慮に入れなければなりません。日本は、水俣病をはじめとする数々の公害被害の経験を活かし、ODAの実施に当たっては環境への悪影響が回避・最小化されるよう、慎重に支援を行っています。

開発協力を実施する際には、事業の実施主体となる相手国の政府や関係機関が、環境や現地社会への影響、たとえば、住民の移転や先住民・女性の権利の侵害などに関して配慮をしているか確認します。2010年に策定した「環境社会配慮ガイドライン」に基づき、開発協力プロジェクトが環境や現地社会に望ましくない影響をもたらすことがないよう、その影響を回避・最小化するための相手国による適切な環境社会配慮の確保を支援してきています。このような取組は、環境・社会面への配慮に関する透明性、予測可能性、説明責任を確保することにつながります。

また、開発政策によって現地社会、特に貧困層や女性、少数民族、障害者などの社会的に弱い立場に置かれやすい人々に望ましくない影響が出ないよう配慮しています。たとえば、JICAは2010年4月に新環境社会配慮ガイドラインを発表し、事前の調査、環境レビュー(見直し)、実施段階のモニタリング(目標達成状況の検証)などにおいて、環境や社会に対する配慮を確認する手続きを行っています。

(3)不正腐敗の防止

開発協力大綱においては、これまでの実施上の原則に加え、開発協力の効果的・効率的な推進のための原則が具体的に示されたほか、不正腐敗の防止、開発協力関係者の安全配慮など、適正性の確保の観点からの新しい原則も盛り込まれています。

日本のODAは、国民の税金を原資としていることから、ODA事業に関連して不正行為が行われることは、開発協力の適正かつ効果的な実施を阻害するのみならず、ODA事業に対する国民の信頼を損なうもので、絶対に許されません。そのため、政府とJICAは過去に発生した不正事件も踏まえ、調達手続きなどにおいて透明性を確保するなど不正の防止に取り組んでいます。

2014年には、インドネシアにおける円借款事業をめぐる不正により、日本企業が米国司法当局と司法取引を行い、米国において有罪判決を受けたほか、インドネシア、ウズベキスタン、ベトナムにおける円借款事業等に関連した不正の疑いで、日本企業関係者が国内で起訴され、有罪判決を受けました。外務省、JICAとしては、上述のとおり、これまでにも様々な不正防止策を講じてきたところですが、ODA事業への信頼を損ねる事案が発生したことを踏まえ、不正腐敗情報相談窓口の強化、不正に関与した企業への措置の強化、企業へのコンプライアンス体制構築の働きかけなどの再発防止策のさらなる強化を行っています。また、このような事態を未然に抑止するためには、日本側のみならず、相手国における取組・協力も必要であり、その観点から、相手国政府とも協議を行うほか、ガバナンス強化のための支援も行っています。また、日本のODA事業関係者および相手国政府関係者の不正腐敗防止に係る意識向上等を目的とした啓発資料の作成、配布を行いました。

用語解説
環境社会配慮ガイドライン
「環境社会配慮」とは、大気、水、土壌への影響、生態系および生物相等の自然への影響、住民が非自発的に移転しなければならないなど、環境面および社会面へその事業が与える可能性のある負の影響に配慮することをいう。環境社会配慮ガイドラインは、JICAが関与するODA事業において、こうした負の影響が想定される場合、必要な調査を行い、負の影響を回避、または最小化するとともに、受け入れることができないような影響をもたらすことがないよう、相手国等が適切な環境社会配慮を確保できるよう支援し、確認を行うための指針。
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