国際協力の現場から 10
日本の支援で収穫量が飛躍的に向上
~ペルー山岳地域で農作物の生産性を改善~

ペルー人技術者と共に紫トウモロコシの病気を確認する吉野倫典さん(左端)(写真:岡原功祐/ JICA)
ペルーは、安定した経済成長が続く一方で、貧富の格差が大きく、国民の2割が貧困層だといわれています。その中でも特に山岳地域の貧困率は高く、経済成長の恩恵から取り残されています。
日本は1997年から10年以上にわたって山岳地域の貧困緩和と環境保全のための協力を実施し、農業生産性の向上と土壌・森林の保全を目的とした小規模灌漑(かんがい)などの農業インフラの整備、営農支援、植林などを行ってきました。そして、これらの協力を踏まえ、2011年7月から2016年7月まで、山岳地域の中でも最も貧困率の高いカハマルカ州を対象に「小規模農家生計向上プロジェクト」を実施しました。
カハマルカ州は住民のほとんどが農業で生計を立てていますが、傾斜地が多いなどの生産環境の悪さ、また雑草除去が不十分といった栽培技術の低さから、たとえば主要作物の一つであるエンドウマメの場合、単位面積当たりの収穫量は、日本の約5分の1にとどまっていました。そこで、このプロジェクトでは、エンドウマメ、そして生計向上を図るための新たな作物として紫トウモロコシを選定し、これらの生産技術の向上に取り組みました。
ペルーでは、この紫トウモロコシはとても需要が高く、丸ごと煮込んで「チチャモラーダ」というジュースにして飲んだり、ゼリーやクッキーなどにして食べたりするほか、芯は色素材料としても使われます。

ペルー人技術者、プロジェクト参加農家と吉野倫典さん。共に身体を動かして共に働く。(写真:岡原功祐/ JICA)
吉野倫典(よしのみちのり)さんは2012年1月にJICA専門家としてペルーに赴任しました。吉野さんは大学卒業後、青年海外協力隊員としてパナマで野菜栽培の普及活動に取り組み、帰国後は日本工営株式会社に入社し、これまでインドネシア、ミャンマー、フィリピンで農業技術改善や農業インフラ整備など、農業一筋に開発の現場に携わってきました。
吉野さんがペルーで最初に取り組んだのが基礎的栽培技術の指導です。山岳地域の栽培技術は非常に低く、吉野さんが雑草を取り除き、畝(うね)を立て、等間隔に種を撒く手法を指導すると、農家の中には「なぜそんなことをする必要があるのか?」と、疑問の声を上げる人もいたそうです。それでも、農家を回り、粘り強く指導していった結果、収穫量は大幅に増え、農家から信頼が得られるようになりました。そしてプロジェクトが終了するころには、参加した農家の単位面積当たりの収穫量は、紫トウモロコシが平均で約2.5倍、エンドウマメが平均で約3.9倍、最大ではそれぞれ7.3倍、9.3倍に増加しました。
こうした大きな成果を収めることができた要因は様々ですが、その一つが、農家に経費の一部負担を求めたことであると吉野さんはいいます。カハマルカ州では、農家は、経済活動の参加者というより社会的弱者ととらえられ、現金給付などの支援が行われており、それが農家の生産意欲を低下させる一因になっていたからです。
また、プロジェクトでは栽培技術を向上させるとともに、農業資材の共同購入や共同販売、運送業者や卸売業者との連携を強めることで、生産から加工、流通、販売までをつなぐフードバリューチェーンの構築にも取り組みました。現地の政府関係者は、仲買人や流通業者、加工業者を「農家から搾取(さくしゅ)する人」と敵視していたため、フードバリューチェーンの構築支援には当初、消極的でした。しかし、農作物をつくるだけでなく、それをどのように売り利益を拡大するかを考えた場合、フードバリューチェーン全体をきちんととらえ、個々の関係者の長所を活かし、かつ、関係者間の信頼関係を構築しなければならないと繰り返し説明し、少しずつ理解が得られるようになりました。
また、こうした活動の中で吉野さんが心掛けたのは、一方的に技術を教えるのではなく、現地の技術者や農家の経験を尊重することでした。共に考え、共に働くことで、最初は受け身だった彼らが、「紫トウモロコシの芯だけを収穫するにはどうしたらいいか」「皮も色素材料にできないか」など、積極的に栽培技術を高めようと議論したりするようになるなど、少しずつ変化していったそうです。
吉野さんはプロジェクトを振り返り「現地の人たちは日本の先進技術を求める傾向が強いのですが、基礎がなければ先進技術も機能しません。新しさはなくても基礎技術を確実にできるようになることが、農業支援では重要です。また、これも日本の強みの一つだと思います」と強調します。
プロジェクトが終了した後も、ペルーの国立農業研究所、州、郡、町政府は、通常予算や特別基金を活用して取組を続けています。また、農業灌漑省も自分たちの予算でカハマルカ州を含む3州への活動拡大を目指した後継プロジェクトを立ち上げようとしています。吉野さんの努力を通じて、農業の振興とフードバリューチェーン構築を通じた貧困の撲滅への取組が結実しつつあります。