国際協力の現場から 07
ポイ捨てから分別回収へ意識を変える
~ボリビアで環境教育に取り組む青年海外協力隊~

リサイクルセンターの資源ごみ分別活動中に同僚と細川知世さん(写真:細川知世)
戦後、多くの日本人が移り住んだ南米のボリビアは、日本人移住者や日系人が様々な分野で活躍するなど、日本とのつながりが強い国の一つです。また、亜鉛や鉛、リチウムなどの天然資源が豊富なことから、日本との貿易経済関係も深まっています。しかし、ボリビアは国民の60%以上が貧困層に属するなど所得水準は南米で最も低く、多くの課題を抱えている国でもあります。
そうした課題の一つに環境問題があります。ボリビアではごみの分別、収集、処理などの公共サービスが十分に行き届いておらず、都市部ではごみ投棄場の周辺は悪臭と害虫で衛生状態が悪化し、水質や土壌などの環境汚染や健康への悪影響も懸念されています。こうした問題に取り組むため、これまで日本はごみの処理やリサイクルのための支援を実施してきたほか、現在、2人の青年海外協力隊員を派遣しています。
「赴任から1年が経ちますが、ようやくごみの分別の必要性を理解してもらえるようになったと感じています」
そう話すのは、2015年6月に赴任した細川知世(ほそかわともよ)さんです。細川さんは大学卒業後、協力隊員となり、サンタクルス県バジェグランデ市役所に配属されました。

カラフルなごみ箱を学校に贈呈した際に城井香里さん(左端)と学校のみなさん(写真:城井香里)
バジェグランデ市は、日本が草の根技術協力事業「バジェグランデ市を対象にしたごみリサイクルプロジェクト」や草の根・人間の安全保障無償資金協力「ゴミ処理施設及びゴミ処理収集車整備計画」などの支援を実施している地域です。環境問題に対する行政の意識は他の地域に比べ高いものの、住民の意識は低いのが現状です。
ここで細川さんが取り組んだのが、ごみの分別を推進するための環境教育です。これまでの環境教育は、市役所の職員が学校へ出向き、子どもたちにごみの分別について口頭で説明するというものでした。しかし、内容が抽象的で子どもたちにうまく伝わっていない上、学校の教員が環境教育は自分たちの仕事ではなく、市役所の仕事だと考えていると細川さんは感じました。そこで、細川さんは生徒ではなく教員を対象にした環境教育を行うことにしました。教員が子どもたちに教えるときにも活用できるようにと紙芝居などの手づくりの教材をつくり、学校巡回を繰り返すことで教員の理解を深めるとともに、市内にあるすべての学校に分別用のごみ箱を設置しました。
細川さんは「同僚や先生たちとは、話し合いの機会を持つたびに、何のためにやるのか、何を伝えたいのかということを明確にするよう意識しました。最近では、目的意識を持って『こうしよう』という話し合いができるようになり、小さいながらも活動の成果だと感じています」と話しています。
そしてもう一人、福岡県飯塚市の職員である城井香里(きいかおり)さんは、市の自己啓発等休業制度を活用して協力隊に応募し、2014年7月からサンタクルス県パンパグランデ市役所で環境教育に取り組んでいます。パンパグランデ市も同様、環境に対する住民の意識は低く、ごみの分別が行われていないばかりか、道路や川への投棄が常態化しています。そのごみには農薬の容器も含まれているため、農業に利用する水の汚染も心配されています。
住民の意識改革を促すため、城井さんが始めたのが学校での資源ごみの分別回収です。月に1回、教員を対象に分別回収等のワークショップ(参加型の講習会)を開催したり、教員が子どもたちに分別回収を指導する仕組みを作ったりして、なぜ分別するのか、ごみの「ポイ捨て」がなぜいけないのかなどを伝えています。城井さんは子どもたちに伝えることで、家族や親せき、友人、地域へとごみ問題への関心が広がっていくことも期待できるといいます。
また、城井さんは農薬容器の回収率を向上させるため、農薬の正しい使い方、容器の処理の仕方について、生産者への講習会も開催しています。コミュニティ向けのテレビCMは安価で放映できるため、ごみのポイ捨て防止や農薬容器の回収を呼び掛けるCMを制作するなど、テレビやラジオを通じた啓発活動にも力を入れています。
「子どもたちに直接環境教育を行うときには、必ず『ごみのポイ捨てはやめよう。親がやっていたら注意しよう』と伝えてきましたが、知り合いに『自分の息子からポイ捨てを注意された』といわれ、人々の意識が少しずつ変わっていることを実感しています」と城井さんは話します。
環境教育に取り組む二人の青年海外協力隊員による活動の成果は、少しずつ現地の人々の心の変化という形で現れており、このような小さな一歩が環境対策を通じた持続可能な社会の実現に貢献していくことが展望されます。