国際協力の現場から 05
シリアとレバノンの青少年が学ぶ場を
~難民とホストコミュニティの相互理解のために~

レバノンのベカー県非公式テント居住地でシリア難民青少年と話をする長島麻奈さん(右から2人目)(写真:セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)
シリア、イスラエルと国境を接するレバノンは、人口約400万人の小さな国です。現在この国では、シリア紛争から逃れてきた100万人を超えるシリア難民が避難生活を送っています。国連に登録されていない難民も含めると、その数は150万人に上るともいわれ、レバノンは国民1人に対する難民の割合が世界で最も高い国となっています。
しかし、レバノンの経済が停滞していることもあり、シリア難民の流入は雇用の機会を奪い、社会や治安を不安定化させると危惧する人もいます。また、方言や生活環境の違いなどもあり、シリア難民コミュニティと避難先のレバノン人コミュニティとの交流はごくわずかです。
こうした状況の中、特にシリア難民の青少年たちは進学や就業の機会が少なく、地域社会から孤立した存在になっています。シリア難民の青少年たちが安定した生活を取り戻し、地域社会の中で一定の役割を果たしていくためには、進学や就業の機会を増やしていくとともに、レバノン人との相互理解を促進していくことが必要です。
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、ジャパン・プラットフォーム※1の助成により、2013年4月から「レバノンにおけるシリア難民青少年支援事業」を実施しています。支援の対象は、14歳から24歳までのシリア難民とホストコミュニティのレバノン人青少年たちです。シリアと国境を接するベカー県と首都ベイルートの6か所に「青少年クラブ」を開設し、コミュニケーションやリーダーシップ、チームワークのほか、あらゆることを多面的かつ客観的にとらえ、感情的ではなく論理的に理解するための批判的思考法などを育むため、研修や実習の機会を提供しています。社会から切り離された存在の青少年たちに、社会生活を営むためのライフスキルを身に付けてもらうことに加え、シリア難民の青少年の地域参加を促進することが目的です。
青少年クラブでは、研修修了後、難民とホストコミュニティの青少年が一つのグループを形成し、難民テント居住地区の子どもたちにレクリエーション活動や学習指導を行うとともに、大人たちには識字教室、保健衛生の啓発活動、運動場や公園の整備などの地域貢献活動を行っています。シリア難民とレバノンの青少年が共に活動に参加することで互いの理解が深まるだけでなく、地域の住民たちから存在を認められることで、彼らの大きな自信につながっているといいます。
「青少年クラブでは、各地域の難民とホストコミュニティの中から選定された『青少年ファシリテーター』がリーダーとなって地域の青少年を指導しており、彼らが主体的に活動を実施する能力を高めるための研修と、活動の場を提供するというのが私たちの基本姿勢です」。そう話すのは、事業開始当初から現地で支援を続けてきたプロジェクトマネージャーの長島麻奈(ながしままな)さん。
また、長島さんは「当初、ホストコミュニティは本事業がシリア難民だけを支援するのではないかと警戒していましたが、難民とレバノン社会の両方を支援対象としていることが分かってからはとても協力的です。参加当初はぎこちなかったシリア人とレバノン人青少年が、活動を通して自然と友人同士になっていく姿を見ると、プロジェクトの成果を実感します」と話しています。
青少年クラブの卒業生の中には、既に社会で活躍している人も多くいます。たとえば青少年ファシリテーターからセーブ・ザ・チルドレンの現地スタッフになったレバノン人女性のゼイナさんもその一人。青少年クラブでの経験が自身にもたらした変化について、「シリア難民の人たちは私たちの村の経済的負担になり、社会を不安定にする存在だと考えていましたが、活動に参加したことで、彼らの中にはとても才能豊かな人たちがたくさんいることを知りました。今では、彼らがレバノン社会でより安心して生活していけるように手助けできることに生きがいを感じます」とゼイナさんは話しています。
これまでの活動を通じて、シリア難民とホストコミュニティのレバノン人との交流や相互理解は少しずつ進んでいるものの、シリア紛争の解決の糸口は未だに見えておらず、難民の多くが不安を抱えて生活をしています。「私たちのこうした支援活動も、資金面でいつまで続けられるか分からないという不安はありますが、彼らを就学・就職の機会のない『失われた世代』としないためにも、できる限り事業を継続していきたい」と、語る長島さん。
紛争から逃れてきた人々や彼らを受け入れている地域の平和と安定、安全の確保のための支援はたいへん重要であり、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの活動はまさにそのニーズに沿ったものです。
※1 ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、日本のNGOが紛争や自然災害に対し迅速かつ効果的に緊急人道支援を行うことを目的に、NGO、経済界、政府の三者で立ち上げた組織(事務局はNPO法人)。2000年8月設立。