2016年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 02

マラウイの酪農をJICAボランティアが支援
~獣医療技術の改善を目指した活動を展開~

モニタリング調査対象農家にて(後列左端が西田茂さん)(写真:西田茂)

モニタリング調査対象農家にて(後列左端が西田茂さん)(写真:西田茂)

伝統的な農業国であるマラウイは、農村部で国民の約8割が暮らし、主食のトウモロコシを栽培して消費する、自給による生活が主流です。また、マラウイでは雨水に依存する天水農業が中心であり、生産性が低く、国民1人当たりの所得水準も低い状況にあります。

国民栄養の面から動物性タンパク質の供給源としての乳牛飼育の必要性や、都会部では輸入の生乳が販売されており、酪農製品の国内自給の必要性も指摘されています。日本は1995年からこれまで20年以上にもわたり、JICAボランティアが中心となりウシの人工授精用精液の製造や人工授精師の養成、酪農家の収入向上などに向けた支援を継続して行ってきました。

その間に派遣したJICAボランティアの数は、青年海外協力隊とシニア海外ボランティアを合わせて25人に上ります。こうした中、2014年から2年間、シニア海外ボランティアとして派遣されたのが獣医師の西田茂(にしだしげる)さんです。

西田さんは宮城県職員として、畜産試験場や家畜保健所で家畜の飼育や育種、防疫などに長く携わってきました。管理職となった西田さんは58歳のとき、「動物を相手に仕事をしたい」「元気なうちに海外で働きたい」と早期退職し、JICAのシニア海外ボランティアに応募しました。初めて派遣されたセントルシアでは家畜飼養に、次に派遣されたサモアでは農場経営に、それぞれ2年間、自身の知識と経験を活かして取り組みました。そして3回目の派遣先となったのがマラウイです。

ウシ用サプリメントの材料を砕く西田茂さん(写真:西田茂)

ウシ用サプリメントの材料を砕く西田茂さん(写真:西田茂)

マラウイで配属されたのは、農業灌漑(かんがい)水開発省地域農業開発局の地方農業事務所であるブランタイヤ事務所です。そこで西田さんに求められたのは、酪農の振興と家畜診療技術者(獣医師補)を対象にした獣医療技術の改善支援でした。また、JICAからの要請は、これまで行ってきた人工授精技術導入・普及に関する取組のフォローアップでした。ところが、赴任してから実施した調査で、西田さんはあることに気付いたといいます。

「酪農は、乳牛の妊娠、分娩、泌乳(ひつにゅう)、搾乳(さくにゅう)、生乳販売があって成り立つものですが、マラウイではその第一歩である妊娠に至らず、生乳の生産性が非常に低い状況にありました。原因は低栄養による繁殖機能の低下です。人工授精を行っても、卵巣が十分に育っていないので妊娠できずにいたのです」と西田さん。

そこで、ウシたちに不足しがちなミネラルやビタミンを補うため、西田さんは現地で調達できる自給飼料を用いたウシ用サプリメントの投与や周辺に自生する野草を使った飼料づくり(「野草サイレージ」)などを指導し、乳牛の栄養改善を目指しました。「野草サイレージ」は、雨期に大量発生する野草を袋に入れ、発酵させてウシのえさにするものです。また同時に、家畜の疾病診断技術を向上させるため、家畜診療技術者を対象に疾病診断技術を指導しました。

マラウイでは、7~8か月の講習で家畜診療技術者になれますが、実際の知識レベルはさほど高くなく、聴診器や体温計など、診断や治療のための機材も揃っていません。そこで西田さんは、症状を「見る・触る・聞く」ことから疾病を分類する診断法や、直腸検査による卵巣機能障害の診断、難産介助法など、限られた機材でできる診断や治療法を指導しました。また、任期終盤には酪農家向けの乳牛飼養マニュアルと技術者向けの乳牛疾病診断マニュアルを作成し、技術の定着を図っています。 「日本のこれまでの支援により、国営牧場など一部の生産現場では人工授精が行われるようになりました。しかし、この技術を広く一般農家に普及させるためには、マラウイの畜産や酪農行政を現場レベルで担う人材の育成が不可欠です」と西田さんはいいます。

2016年8月、ブランタイヤ事務所の責任者で、マニュアル作成などの現地の活動を西田さんと共にしたスタンフォード・ムイラさんが、ABEイニシアティブ※1の社会人留学生として来日しました。今後2年間、帯広畜産大学大学院で、家畜飼料、栄養、飼養学を学ぶ予定です。西田さんは、彼が近い将来、マラウイの酪農を支える人材となってくれることを信じています。


※1 ABEイニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)は、2013年に横浜市で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V)で日本政府が発表した政策の一つ。アフリカの産業発展を牽引する優秀な人材を育成するために、2014年から5年間で計1,000人の留学生を受け入れ、日本の大学院での修士号取得と日本企業でのインターンシップの機会を提供する。

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