国際協力の現場から 01
市場経済の基盤を担う人材を育成
~ウズベキスタン初の日本型ビジネススクール~

プロフェッショナル・マネジメント・プログラムの研修で講師を務める藤田忍さん(中央)(写真:UJC)
ウズベキスタンは、1991年のソビエト連邦の崩壊に伴い独立して以降、計画経済から市場経済への移行を目指して経済改革を行ってきました。1990年代後半からは政府主導の資源開発プロジェクトが進められ、GDP成長率は2004年から7~9%の高水準を維持しています。一方で、資源に依存した経済構造から脱却するため、産業の多角化が求められています。
日本政府は、ウズベキスタン対外経済関係投資貿易省と共に「ウズベキスタン日本人材開発センター(UJC)※1」を設立し、市場経済の基盤を担うビジネス人材の育成を支援してきました。2001年の開所以来、約1万4,000人がUJCのビジネス研修・セミナーに参加しています。その中核コースとなっているプロフェッショナル・マネジメント・プログラム(PMP)は、約6か月間にわたり実践的なマーケティング手法、経営手法などを学ぶことができるビジネススクールとして高く評価されています。
株式会社戦略コンサルティング・ファームの藤田忍(ふじたしのぶ)さんは、マーケティングの専門家として2006年から現在に至るまで、PMPの講師を務めています。
初めてウズベキスタンを訪れた当時を、藤田さんは「たとえていえば、電話のない生活からいきなり携帯電話のある生活に変わるように、急速に人々の生活が変化していたのに、その技術革新のスピードに経営がついていけていない、という印象でした」と話します。
従来のウズベキスタンの市場は、作ったものを売る「プロダクトアウト」が主流で、経営にマーケティングの視点はありませんでした。しかし、近年、市場の消費者ニーズをもとに製品を提供する「マーケットイン」へと移行する中、経営手法にも変化が求められていました。そこでPMPでは、経営の理論的な講義に終始するのではなく、マーケットインのものづくりをどのように進めていくかについて、実践的かつ具体的に学ぶことを重視しています。
これまでPMPを受講したウズベキスタンのビジネスマンは既に1,500人を超え、修了後、成功を収める企業家を数多く輩出しています。
その1人が、首都のタシケントでポテトチップスの製造販売会社を起業したバフチオールさんです。日本への留学経験もある彼は「SAMURAI」というブランド名で、エビ味、牛肉味などいろいろな味のポテトチップスを販売しています。しかし、起業当初は思うような成果を出せず、PMPでマーケティングを学ぶことにしたといいます。このとき、商品の宣伝にかける予算がないと相談を受けた藤田さんは「売り場を宣伝だと思え」と、商品の陳列方法や販売店の選び方などをアドバイスしました。それから2年、SAMURAIポテトチップスは、タシケントで圧倒的なシェアを有していた大手ブランドを追い越してトップとなり、現在も売り上げを伸ばし続けています。
バフチオールさんのほかにも、家具製造販売、食品製造機械の製造販売、アパレル製造販売、文房具販売など、PMP修了生の成功事例は枚挙にいとまがありません。PMPが多くの成功者を輩出している要因には、PMPがウズベキスタン初の実践的なビジネススクールであることや、入学に際して厳格な試験があること、また、修了生に対して継続してコンサルテーションを行っていることなどがあると藤田さんは考えています。
藤田さんが講師になった当初は、多くの人が職を得るための修了証書欲しさにPMPを受講していたそうです。しかし、PMPの実績が上がるにつれ、受講生には若手経営者や中間管理職が増え、その目的も事業の成功に変わってきました。今では、PMPは中小企業向けソリューションセンターとして位置付けられているほどです。
「成功した企業はいずれも、競争戦略、顧客ニーズ開発、価値化、特長化、ターゲッティングなど近代的なマーケティングをPMPでしっかりと身に付け、実行しています」と藤田さん。また、こうした修了生の中には、日本で開催される見本市に出展するなど、日本との取引を希望する経営者も多くいます。
「ウズベキスタンの人たちはとても親日的ですが、日本人はウズベキスタンのことをよく知りません。まずは日本との交流をスタートさせ日本企業とビジネスマッチングできる仕組みをつくり、将来的に両国の貿易拡大に貢献できたらうれしく思います」と、藤田さんは話しています。
「質の高い成長」を遂げるためには、その基盤となる産業人材の育成がたいへん重要です。ウズベキスタン日本人材開発センターの取組により、同国の質の高い成長がより確かなものになることが期待されます。
※1 UJC:Uzbekistan-Japan Center