巻頭言
2015年2月、これからの日本の開発協力方針を定める開発協力大綱が閣議決定されました。これは2003年に策定された従来の政府開発援助(ODA)大綱を12年ぶりに改定するものです。
新たな大綱の策定は、開発協力をめぐる国際環境が近年になって大きく変化していることを踏まえたものです。今日の世界では、グローバル化の一層の進展に伴い、その恩恵が広がる一方で、貧困、紛争は依然として根強く存在し、感染症など世界の国々が直面するリスクがますます拡大しています。また、開発途上国に流れる民間の資金や新興ドナー国の存在感がますます大きくなっています。加えて、世界の様々な地域において政治・安全保障環境が変化する中で、平和構築をはじめとする地域の平和と安定の実現や、普遍的価値の共有といった面で開発協力が担う役割も大きくなっています。これからの日本の開発協力は、このような国際環境の変化に適切に対応していかなくてはなりません。
新たな大綱では、2014年で60周年の節目を迎えた日本のODAのこれまでの歩みと成果が、次の時代の日本の開発協力にも継承されていくことも明らかにしています。日本のODAは、アジアを中心に、世界各地の開発途上国の経済発展や貧困の削減に貢献しながら、日本自身の平和と繁栄をより確かなものとしてきました。相手国との対等なパートナーシップの下で、開発途上国の自助努力を後押しし、その持続的な経済成長を導き、社会的弱者を含む一人ひとりの人間の安全保障を実現するという日本のODAの基本的な姿勢は、国際的な開発協力の潮流の形成に大きく貢献してきたのです。
今年の白書は、日本のODAの60年間の歩みを振り返るとともに、今後の日本の開発協力のあり方を展望するものとなっています。このような節目の年に、日本のODAが、戦後まもなく、日本自身が援助を受けていた時代から、いかにして日本自身がアジア等の国々と共に成長しながら、日本自身の平和と安全を確かなものとする上で役割を果たしてきたか、また、日本がいかにして主要なドナー国として国際社会の中でリーダーシップを発揮してきたのかを振り返ることは有益でしょう。これからの日本の開発協力は、そのような60年の歩みの上に立って、新たな大綱の下で、開発途上国との互恵的な協力関係を追求していくとともに、民間企業やNGO、地方自治体などとの連携を一層強めていく必要があります。また、国際協調主義に基づく積極的平和主義の基本理念の下、日々変化する国際環境の中で戦略的に対応し続けていくことが必要です。本書が、日本の開発協力をめぐる様々な課題に対する国民の皆様方のご理解を深めるとともに、活発な議論を喚起する上での一助となることを心から祈念します。
2015年3月