(6)不発弾および対人地雷・小型武器等
かつて紛争中であった地域には、複数の小型の爆弾を内蔵し、それらをまき散らす爆弾であるクラスター弾などの不発弾や対人地雷が未だに残っており、非合法な小型武器が広く使われています。これらは子どもを含む一般市民にも無差別に被害を与え、復興と開発活動を妨げるだけでなく、新たな紛争の原因にもなります。不発弾・地雷の除去や非合法小型武器の回収・廃棄への支援、地雷被害者の能力強化など、国内を安定させ、治安を確保することに配慮した支援が重要です。
< 日本の取組 >
日本は、「対人地雷禁止条約」および「クラスター弾に関する条約」の締約国として、両条約の普遍化(なるべく多くの国が条約を締結するように働きかけること)を積極的に推進しています。また、両条約で規定されている、除去、被害者支援、リスク低減教育等にまたがる国際的な協力も着実に実行しています。
たとえば、アフリカで最も多く地雷の被害を受けているアンゴラにおいては、2008年度以降6年間にわたり、(特活(注28))日本地雷処理を支援する会(JMAS)が、アンゴラ国家地雷除去院に対して、同国ベンゴ州を対象に日本NGO連携無償資金協力により地雷除去や地雷除去に関する技術教育などを実施しています。さらに、農業支援や道路整備等を含む総合的な地域復興活動も実施しているほか、日本の民間企業も参加するなど、オールジャパンによる支援が行われてきています。これまでの成果として、東京ドーム(46,755m2)30個分の面積に相当する地雷原の処理が報告されています。
また、アフガニスタンにおいては、(特活)難民を助ける会が、地雷、不発弾等の危険性と適切な回避方法の普及を目的とした教育事業を実施しています。2009年度から、日本NGO連携無償資金協力およびジャパン・プラットフォーム(JPF)(注29)事業を通じて、アフガニスタン各地において、移動映画教室等を通じた地雷回避教育を行っているほか、地域住民が自ら回避教育を行えるよう指導員の育成などを行っており、住民への啓蒙が進んできています。

カンボジア北西部バッタンバン州の地雷除去現場を訪れたアンゴラの研修員たち(写真:JICA)
ほかにも、地雷回避教育支援としては、国連児童基金(UNICEF)経由で2014年3月からシリア、イエメン、チャド、マリ、南スーダンにおいて支援を実施しています(2015年2月までに終了予定)。
また、不発弾の被害が特に大きいラオスに対しては、2011年に不発弾対策に特化したプロジェクトが形成され、①不発弾専門家の派遣、②機材供与、③南南協力の3つの柱から成る協力が行われています。このうち、南南協力については、日本が1990年以来カンボジアに対して行ってきた地雷処理支援の経験を広める観点から、カンボジアとラオスとの間で、不発弾処理支援に関するワークショップが数回行われ、3年間にわたり技術・訓練・国家基準策定・犠牲者支援等に関する両国の知識・経験を互いに共有するための協力が行われています。
2014年3月には、アフガニスタン、南スーダン、ソマリア、コンゴ民主共和国、リビアに対して、国連PKO局地雷対策サービス部(UNMAS)を通じた地雷・不発弾対策支援(除去・危険回避教育等)を行っています。特に、南スーダンにおいては、PKO活動実施中の自衛隊と連携した支援を実施しています。加えて、日・UNDPパートナーシップ基金を通じ、ベナン地雷・不発弾処理訓練センター(CPADD)によるアフリカ地域の地雷除去員の訓練を支援してきています。
小型武器対策としては、開発支援を組み合わせた小型武器の回収、廃棄、適切な貯蔵管理などへの支援を行っています。また、武器の輸出入管理や取締り能力の強化、治安の向上などを目指して関連する法制度の整備や、税関や警察など法執行機関の能力を向上させる支援、元兵士や元少年兵の武装・動員解除・社会復帰事業支援等も実施しています。
- 注28 : 特定非営利活動法人(NPO法人)
- 注29 : ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、日本のNGOが紛争や自然災害に対し迅速かつ効果的に緊急人道支援を行うことを目的に、NGO、経済界、政府の三者で立ち上げた組織(NPO法人)。2000年8月設立。
●ラオス/アンゴラ
不発弾・地雷分野に関するラオス・カンボジア南南協力、アンゴラ・カンボジア南南協力
技術協力プロジェクト(2012年7月~実施中)

地雷除去現場視察の様子(写真:JICA)
カンボジアには、長く続いた内戦の負の遺産として、数百万個の地雷が埋設されています。しかし、日本を含む国際社会からの支援を通じ、カンボジア地雷対策センター(CMAC)※1に地雷、 不発弾除去に関するノウハウを蓄積することができました。そして、カンボジアは、2011年からは「南南協力」※2という形で、カンボジアが築いた地雷・不発弾除去のノウハウをラオスとアンゴラとも共有する支援を実施しています。
ベトナム戦争により約8,000万個の不発弾が残存しているといわれているラオス。CMACは隣国ラオスのこの状況を改善するため、日本の支援により、ラオス不発弾対策プログラム(UXO Lao)※3において、知識を共有するワークショップをこれまでに6回実施し、不発弾除去に関するノウハウを伝えてきました。今後もラオスに対しては、カンボジアがCMACの持つ知見を共有し、日本もさらなる研修管理能力向上と不発弾処理の専門家を派遣、不発弾探知機・後方支援体制の強化のための機材を整備するなどの支援をしていきます。
アフリカ南西部に位置するアンゴラは、2002年の和平合意により27年間に及んだ内戦を終結させました。しかし、カンボジア同様多くの地雷が残され、住民の安全を脅かしているばかりか、開発を阻む原因にもなっています。このような状況を改善するため、日本は既にラオスなどへの南南協力の経験を持つCMACと協力して技術支援を実施しました。また国家地雷除去院(INAD)※4の能力向上のため、日本人専門家を派遣して組織改善も行いました。CMACはこれまでに計40名のINADの職員を受け入れ、講義や現場の活動を紹介したほか、CMAC職員をアンゴラに派遣し、地雷対策の知見を共有しています。今後も日本はCMACと共にアンゴラの地雷除去に貢献していく予定です。(2014年8月時点)
※1 CMAC:Cambodian Mine Action Centre
※2 より開発の進んだ開発途上国が、自国の開発経験と人材などを活用して、他の途上国に対して行う協力。自然環境・文化・経済事情や開発段階などが似ている状況にある国々によって、主に技術協力を行う。また、援助国(ドナー)や国際機関が、このような途上国間の協力を支援する場合は、「三角協力」という。
※3 UXO Lao:Lao National Unexploded Ordnance Programme
※4 INAD:National Demining Institute
●ウガンダ
アチョリ地域コミュニティ開発計画策定能力強化プロジェクト
技術協力プロジェクト(2011年11月~実施中)

北部の行政官が、南部の住民から一村一品運動についての体験談を聞いているところ。行政と住民の信頼関係づくりのヒントを模索(写真:JICA)
ウガンダの北部地域は、1980年代の“神の抵抗軍(LRA)※1”をはじめとする武装勢力と政府との衝突により、20年以上紛争状態にありました。2006年からLRAとの和平交渉が進み、2008年ごろからようやく200万人ともいわれる国内避難民が本格的にもともと住んでいた地域に戻ってきています。しかし、避難民キャンプの閉鎖により緊急・人道支援の必要性は下がっていく一方で、帰還先である北部地域では、長年の紛争により行政機能が事実上停止していたため、帰還民の定住を支える地方政府の行政能力に多くの課題を抱えています。
これを受け、日本は紛争の影響を強く受けたアチョリ地域を対象に、避難民の帰還支援に続き、地方政府の行政能力の回復や向上を支援しています。具体的には、地方行政機関の開発事業計画の策定能力や、調達や施工監理といった開発事業の運営能力の向上のため、実施ガイドラインなどを作成しています。また、県や郡の関係職員を対象に、資料管理、データ管理、予算作成、モニタリング・評価などに関する研修も実施しています。
このプロジェクトでは、地方行政官に対し支援することで、行政官が実際の事業運営を通して能力を向上させていくことを目指しています。これにより、各地の行政官が知識を実践に応用する力を身に付けることに役立つほか、行政官が主体的に開発事業に取り組む様子を示すことで、帰還民が地方政府に対して信頼感を持てるようになります。(2014年8月時点)
※1 LRA:Lord’s Resistance Army
●ネパール
コミュニティ内における調停能力強化プロジェクト
技術協力プロジェクト(2010年1月~実施中)

コミュニティ調停サービスをよく知ってもらおうと、劇団による調停の模擬劇・ストリートドラマが開催されている様子(写真:JICA)
ネパールは1996年から2006年まで10年にもおよぶ内戦を経験しました。地域間の格差や民族・カースト間の対立が内戦の要因の一つといわれています。憲法制定などの新たな国づくりが進みつつある現在も、依然としてコミュニティの中では様々なレベルにおいて対立が解消されておらず、将来新たな紛争に発展しかねないという指摘もされています。
こうしたコミュニティレベルにおける住民間の対立やトラブルを円滑に解決することを「コミュニティ調停」といい、その役割を担うのが村人の中から選ばれるコミュニティ調停人です。
「コミュニティ内における調停能力強化プロジェクト」では、試験的にシンズリ郡、マホタリ郡において、コミュニティ調停人の育成、コミュニティ調停センターの設立、紛争管理が適切に機能し続ける仕組みづくり、コミュニティ調停が住民に広く認知されるための広報活動などを行ってきました。
これまでに18名が調停人講師となるためのトレーナー研修を、そして557名が40時間程度の基礎的な調停人研修を修了しました。2012年2月に最初のコミュニティ調停センターを開所して以来、現在二つの郡に、全部で20ある村でコミュニティ調停サービスが提供されています。
この間に、合計451件の紛争事案が登録され、うち78%に当たる351件で和解が成立しました。また、20の村では合計357件の紛争事案が登録され、うち305件が解決されています。今後は、中央レベルでもコミュニティ調停の制度を推進するよう働きかけ、全国的に展開されることが期待されています。(2014年8月時点)