2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

(1)ミンダナオ和平

フィリピン南部のミンダナオ地域では、フィリピン政府とイスラム反政府勢力との間で40年間に及ぶ紛争が続いていましたが、この歴史に終止符を打つべく、2001年から政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との間で和平交渉が行われてきました。そして、2014年3月27日、両者の間で包括和平合意文書が署名され、ミンダナオ紛争の根本的な解決に向けて、大きな一歩を踏み出しました。
 同合意では、2016年に新自治政府(バンサモロ(注20))が発足するまでの移行プロセスとして、バンサモロ基本法の制定、住民投票、暫定統治機関の設置などが予定されています。これと同時に、MILF正規軍の武装解除と兵士たちの社会復帰、現地に数多く存在する私兵グループ等の解体、新たな警察組織の創設による治安の回復、紛争のため立ち遅れている社会経済開発の促進など、様々な「正常化」プロセスを円滑に実施することも課題となっています。

和平合意が着実に実施され、2016年に向けてこれらのハードルをクリアしていけるかどうかが、ミンダナオ地域における真の和平達成の重要な鍵となります。そのためには、フィリピン政府とMILFのたゆまぬ努力に加え、日本を含む国際社会の支援が求められています。

< 日本の取組 >

日本は、ミンダナオ和平が地域の平和と安定に寄与すると考え、長年にわたり和平プロセス支援を継続しています。たとえば、国際監視団(IMT)の社会経済開発部門へJICAから開発専門家を派遣し、必要とされている支援が何かを調査し、小学校や井戸、診療所、職業訓練所などをつくるための支援に結びつけました。また、元紛争地域に対して草の根・人間の安全保障無償資金協力など開発協力プロジェクトを集中的に実施しています。これらは「日本バンサモロ復興開発イニシアティブ」(J-BIRD)と呼ばれる支援で、現地住民やフィリピン政府から高く評価されており、和平に向けた環境整備に大きな役割を果たしています。また、和平交渉にオブザーバーとして参加して助言を行う国際コンタクト・グループにも参加し、ミンダナオ和平プロセスの進展に貢献しています。
 2011年8月には、日本の仲介により、アキノ大統領とムラドMILF議長との初のトップ会談が成田で実現し、ミンダナオ和平問題の解決に向けて信頼関係が築かれるきっかけになりました。

日本は、引き続き、ミンダナオに真の平和が達成されるよう、学校・診療所・井戸などの建設、移行プロセスにおける人材育成、持続的発展のための経済開発(農業、鉱工業、インフラ整備などを見据えた協力)などの分野を柱として支援を継続・強化していく考えです。


  1. 注20 : 「バンサモロ」とは、イスラム反政府派が自分たちを指す呼び方。

●フィリピン

ミンダナオ島紛争地ピキットにおける教育を通じた平和構築事業
日本NGO連携無償資金協力(2011年11月~実施中)

普段は顔を合わせることがない地域のBDA(MILFの復興・開発の実施担当機関)、モロ民族解放戦線(MNLF)、政府軍が、本事業の「平和の式典」に参加(写真:アイキャン)

普段は顔を合わせることがない地域のBDA(MILFの復興・開発の実施担当機関)、モロ民族解放戦線(MNLF)、政府軍が、本事業の「平和の式典」に参加(写真:アイキャン)

フィリピン南部の島、ミンダナオ島では、政府軍と独立・自治を求めるグループとの間で、40年以上にわたって武力衝突が続きました。過去20年間で12万人もの人たちが犠牲になり、200万人が住んでいた土地を追われました。ミンダナオでは、子どものケンカや隣近所での家畜をめぐる口論でさえも、大きな氏族同士の武力衝突にまで発展することがめずらしくありません。また、紛争のために学校が整備されず、多くの子どもたちが学校に行くことができずに、生きるために武器を持つことも少なくありません。

日本のNGOであるアジア日本相互交流センター(ICAN※1)では、日本NGO連携無償資金協力プロジェクトとして、ミンダナオの紛争地ピキット町において、教師や子どもたち、村人たちに対し、暴力に頼らない問題解決法を習得するための平和研修を行うとともに、小学校や中学校の校舎を建設しています。建設された小学校や中学校は、「平和の学校」として、地域レベルで人々の憎しみを取り除き、暴力に頼らない問題解決の方法を広めています。

3か年計画で始まったこのプロジェクトにおいては、フェーズ2までに、8校の「平和の学校」が完成しました。現在実施中のフェーズ3 (2014年11月まで)が終了すると、ミンダナオ島の紛争が多発している三つの地域の一つであるピキット町の7つの村において、計15校の「平和の学校」が完成することになります。これまでの活動を通じて、地域内の争いは減少しており、ミンダナオ島の歴史に残る和平合意を草の根レベルで促進する事業として注目されています。(2014年8月時点)


※1 2014年12月、団体名を「アイキャン(ICAN:International Children’s Action Network)と変更した。

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