●(滑川審議官) |
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政府開発援助(ODA)について、ここ1、2年にわたり厳しい批判を受けており、謙虚に反省をしなければならない点が多くある。その中で、ODA改革を実施し、より良い方向を目指すために一所懸命作業している。配布資料の中で川口外務大臣から発表された「ODA改革・15の具体策」があるが、これをひとつひとつ紹介することはかなり技術的・専門的な点が多い。そこで、ODAがどうして批判され、どういう風にODA改革を考えていかなければならないのかについて、本日参加いただいた方々と議論していきたいと思うので、問題提議の形でいくつかポイントを申し上げたい。
ODA予算は、約9千億円となっている。現在、厳しい経済財政状況の中、開発途上国に援助をするよりも日本の国内に資金を振り向けるべきという批判を受けている。そうした中で、なぜODAが必要なのか、開発途上国を支援しその国の安定に寄与することがなぜ必要なのか、ということについて十分国民の皆様に説明をしてこなかったと思う。また、多くの国民の方々が、日本の企業等が援助で儲けているのではないかというイメージを持たれてきたことは否定できない事だと思う。一方、ODAは、開発途上国でインフラを整備したりするだけではなく、例えば宇部市ではペルーの研修員を受け入れているように日本国内とも密接な関係があることも考えて見なければならないと思う。国民の方々がかかわるODAでないと、ODAは30年以上実施してきているが、21世紀のODAとして国民の皆様方に支持をいただくことができないのではないかと考えている。
そうした中で、具体的にODAの色々な手続きを改革することは当然だと思うが、それに加え、ODAをなぜ実施するのか等ODAの根底の政策を今一度見直して議論していく必要があると考えている。後程、脊戸委員から、見直しについてお話を伺えるかと思う。ODAを基本的なところから見直すことがODA改革の一番の課題となっている。企業が開発途上国でダムを建設する、道を整備する、あるいは機械を供与することばかりではない、もっと幅広いODAが出てきておりそれを更に広げなければならないと考えている。地方からの新しい協力を推進していただきたい。ODAは開発途上国の為にもちろん必要であるが、そればかりではなく、日本の閉塞している状況の中で新しいフロンティアを広げるひとつの助けになるのではないかと思う。今日は非常に良い機会であるので、皆様方といろいろ議論させていただきながら、ODAがどのように受けとめられ、これからどうやっていけばいいのか、あるいは国民の皆様にODA、国際協力にご参加頂く、あるいはご支持いただく為にどうしたらいいのか、忌憚のない意見を頂きたい。
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●(中西司会) |
脊戸委員、ODA総合戦略会議について説明ください。
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●(脊戸委員) |
ODA総合戦略会議は6月に第1回会合を持ち、月1回の頻度で行われ、5回目を終えたところである。ODA総合戦略会議は、第2次ODA改革懇談会最終報告をもとに、戦略的な思考を持った形でODAを改革するために発足した。したがって、第2次ODA改革懇談会にて提言された3つのことを、まずご説明させていただきたいと思う。第1点目は、国民参加型のODAである。先ほど審議官からも説明があったように、約9千億円の税金を使ってODAは実施されている。国民1人当たり、約1万5千円位になる。その税金が有効に使われなければならないことは当然であり、国民が持っている技術や様々なノウハウを途上国に貢献できるよう関心をもち参加しやすい形のODAのしくみにすることが第1番目の柱である。第2点目は、戦略を持った重点的・効果的なODAを実施することである。この裏には当然のごとく、厳しい経済・財政事情やODA予算も昨年度に比べて約10%の減額というような状況がある。したがって、ODAの重点的・効果的な活用を実施することを取り組まなければならない。憲法第9条の平和原則、地域の安全保障等を考える上で、ODAが果たす重要な役割を考慮する必要がある。第3点目は、実施体制の抜本的整備である。これはODAの強化であり、ODAを実施した結果がいかに相手国の人達に、国に、或いは経済に寄与しているのか、検証していかなければならない。この3点が第2次ODA改革懇談会最終報告で提言されたものである。
議事等の透明性という点では、ODA総合戦略会議を含め常にホームページで国民の皆様方に情報公開され、皆様からの意見も受けつけることができるように努力している。この会議は、川口大臣が議長を務め、17名の委員から構成されている。学術・大学研究者から8名、企業関係者から2名、NGOから3名、ジャーナリストから2名及び外務省の副大臣と政務官の2名から構成されている。マンデートは基本的なODAのあり方を考えることであり、その手法として、ODA大綱という大きな流れがあり、それに沿って国別援助計画を策定することを想定している。私どもは、ODA総合戦略会議において、国別援助計画を見直す際には、縦軸に国、横軸に様々な分野、医療や教育などがあり、横軸を国別援助計画の中でどのように取り入れていくかを考えている。その根本にはODA大綱があると理解していただければよいと思う。
月に1回の会合の中で、活発な議論がされているが、国別援助計画の作成については全てを一挙に作成できないのでまずどの国を対象とするかを議論した。日本のODAの半分以上がアジア地域に向けられているのは、日本はアジア地域に位置し、日本にとってアジアの経済的・政治的安定が非常に重要であるからである。そこでODA総合戦略会議では、アジアから、ベトナムの国別援助計画の見直しと今後復興支援のモデルとなりうるスリランカの国別援助計画の策定に最初に取り組むことになった。国別援助計画の策定に際しては、従来、日本側を中心に作成していたが、NGOを含め国内外の方々が参加するプラットホーム方式を打ち出している。
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●(藤田市長) |
私は市長に就任し10年目になるが、宇部市では国際協力に大変熱心な方が多く活動している。宇部市では環境協力に取り組んでいる活動が、東京の方にも届き、ODAタウンミーティング開催ということになったと思っている。「産・官・学・民」が一体となって公害防止に取り組む環境対策(「宇部方式」)が、開発途上国の公害対策や環境対策にとって非常に有効であるということでUNEPより表彰されている。現在、宇部市では、「宇部環境国際協力協会」をつくり、500名位のメンバーを集めている。地方で何をしたらいいのか分からないこともあり、広島の国際協力事業団(JICA)国際センターに相談したところ、ぺルーからの研修員を受け入れることができ、これまで3年間で7人が研修に来ている。研修受け入れ期間には、ペルーの文化を宇部市民に知ってもらうために、市内で交流事業も実施している。
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●(松井教授) |
私の今までの経験も踏まえて、2点お話させて頂きたいと思う。山口大学に大学院東アジア研究科が去年の4月に開設された。全国で東アジアという名前の研究科をもっているのは他にはない。博士課程に5人生徒がいるが、3人がバングラデシュ、マレーシア、中国からの留学生である。修士課程にはベネズエラからの学生もいる。来年度も留学生が来る予定で、大学としても力を入れている。国際協力、経済協力、援助、開発協力等色々な呼び方があるが、なぜ援助を実施しなければならないのか、個人のレベルで考えてみたい。世界中の国がいろいろな所で、いろいろな支援を実施している。政府も、民間も、個人も、地方自治体も実施している。私自身も30年間、経済協力の分野に従事してきたが、なぜ援助するかをどのように考えたら良いか考えてきた。アメリカに滞在していた1998年に、テレビを見ていて、ある女性小説家が言った“by giving, we can be richer” といった言葉が心に残っている。これはお金をあげるという意味ではなく、時間を他の人に提供することで私自身も心が豊かになるということである。これを聞いた時、これだと思った。これが、私が個人のレベルで考えるODAである。人のためになって良かったと思えることである。物ではなく、お金ではなく、人なのである。まだまだ日本はNGO、NPOの活躍の余地がある。数人集まればNGOを立ち上げて、面白いと思うことを始めれば良いのである。この前イギリスで飢餓・貧困の国際会議に出席しいろいろな人達と議論したが、そういう場面に日本人もどんどん出ていくべきである。
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●(中西司会) |
お二人の話を受け、どういう感想を抱かれるか。
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●(滑川審議官) |
普段、ODAは批判を受けることが多いので、本日、あたたかい励ましの言葉をいただきありがたく感じている。話をお聞きして、私たちが取り組まなければならない問題が見えてきた。それは人を中心にした協力を実施していくことである。また、今後充実しなければならないのは、情報公開や広報活動である。どういう人達が、どういう所で、どういう事をやっているのか、ということを広く知ってもらうことが必要である。先程、「ODA改革・15の具体策」を実施すると話したが、その中で、まだ完成していないけれども、HPのサイトへ行くとODA案件の情報が見られるものをつくることを考えている。また、外務省は制度を作る立場にあるのだが、具体的に地方の方々にODAの仕組みを活用して頂くために、国際協力推進員を47都道府県に配置しパイプ役とする制度等を創設している。
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●(脊戸委員) |
宇部市の方々の活動が国と国を越える活動の良い例だと思う。日本のODAはNGOに支援する比率が、主要な援助国の中で一番低い状況である。従って今後、抜本的な整備を考える中で、市民の人達が何かしたいという思いもODAに組み込んでいかなければならないと思う。中央集権よりは、各都道府県、各市で、先程紹介のあった宇部方式のように、市民の持つ技術を活用するために、こうしたいという思いが繋がっていくように、NGOという市民レベルの活動を支える仕組みを構築する必要があると感じている。
青年海外協力隊に参加しアフリカで2年間過ごした私にとって、果たせなかったことを帰国してから果たしていくことが抱負になっている。こうした若者たちをもっと日本で増やしていかなければならないと思う。
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●(質問者A) |
政府では、ODAの国民参加をどのように考えているのか。青年海外協力隊員は、世界中に派遣されているが、安全性は担保されているのか。また、青年海外協力隊員は、任期を2年としているが、その任期では経験が生きず十分な活動はできないのではないか。要望として、NGOのように開発途上国の人たちと密接に連携して活動している方にODAを更に振り向けてもらいたい。
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●(滑川審議官) |
ODAの国民参加には、日本から開発途上国に出ていく側面と開発途上国の方を受け入れる面がある。また、途上国に派遣する場合、事前に地域・国の安全性を十分調査しているものの、全ての可能性がわかるわけではないので極めて難しい面がある。昨今、ザンビアでの青年海外協力隊員への強盗事件の例や観光客への銃撃等が起きてしまったが、外務省は邦人保護の観点から十分注意をしつつ派遣している。隊員の経験を活かす点については、例えば経験を生かす専門員として途上国に派遣される等再び経済協力に参加していただく機会を作るなどの工夫を行っている。
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●(質問者B) |
高校教員をしている立場から2点程要望がある。ODAという名称は、経済協力関係者でなければわからない用語であるので、もっと親しみやすい用語にしていただきたい。また、外務省では、途上国を開発途上国と呼び、学校の教科書では発展途上国と記載されおり、外務省やJICAでは海外関連の教育を開発教育、文部科学省では国際理解教育と呼んでいる。文部科学省と外務省はもっと連携して欲しい。
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●(質問者C) |
第2次ODA改革懇談会最終報告の中に、開発人材の発掘・育成の推進という項目があるが、どうしても対象を学生にしているので、生涯学習を受講している方々にも目を向けて欲しい。また、地域の国際化に貢献している団体にもっと目を向けていただき、福祉や介護保険の資格制度のように国際協力の資格を創設していただきたい。
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●(滑川審議官) |
国際協力の資格制度に関しては、興味深いアイデアだと思う。
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●(松井教授) |
就職活動をする場合色々な資格が必要であるので、国際協力を進める上でも社会的な資格認定が重要である。
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●(質問者D) |
宇部市には、藤田市長を学長としてシルバーカレッジ国際社会学部が開設している。そこでは講義の大半以上を語学に向けられている。60才以上の学習には、むしろODAとか国際関係を教える方が意味があると思う。この卒業生を活用し、海外に向けられたODAだけではなく、国内の外国人にもODAを活用して支援することを考えて頂きたい。
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●(滑川審議官) |
研修・留学で来日した外国人への支援を考えている。わずかだがJICAでは支援する仕組みがある。国内での活動にどこまで、ODAを活用して支援できるかは大きな宿題である。
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●(質問者E) |
現在、宇部で、山口県から予算を受けエクアドルから研修員を受け入れている。県から来年度は予算が厳しいので支援をうち切るという話を受けているので、国から支援を頂くことはできないか。
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●(脊戸委員) |
研修員制度については、必ずしも適切な人が選ばれているとは限らず、効果の点からも、現在、見直しの時期に来ている。
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●(質問者F) |
世界の飢餓問題等を考える場合、人口抑制の問題が出てこないが、どういう事情があるのか。
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●(滑川審議官) |
国連には、人口問題を扱う国連人口基金(UNFPA)という組織があり、その事務所は日本にもある。その機関では、人口を直接抑制するのではなくて、保健サービスの向上、家族計画の指導等を行っている。人口問題の解決は大変難しい。例えば、開発途上国には農業国が多いため、家族が多いほどたくさん耕地を耕せるので、子どもをたくさん持つことがよいという考えがあるからである。ただ、ある程度所得水準が上がると、日本や一部のアジア諸国にも当てはまるが、人口の増加率は落ちてくる。経済・社会が発展することが人口抑制には重要だと思う。
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●(質問者G) |
政府開発援助は長年続けられているが、どのような効果をあげてきて、どのような国々から評価を受けているかということのアピールが非常に少ないと思う。アフリカに行った時、日本のODAにて支援を受けた精密な機械が置いてあるけれども、メインテナンスもされることなくそのまま放置されている状況もあった。本当に何が必要で、それを使いこなせる能力が開発途上国にあるか否か検討する必要があると思う。
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●(滑川審議官) |
機材等供与後のメインテナンスや案件実施後のフォローアップの重要性はご指摘の通りである。
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●(質問者H) |
専門家をしていたが、途上国への支援は協力というよりも資機材の供与である。また、若い人達が積極的に海外に関心を持ち出ていくということが大切であると思う。その点を促進するための日本の政策が見えてこない。
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●(滑川審議官) |
開発途上国における援助慣れの問題もあると思う。私自身も専門家として赴任していた経験から、相手国が援助に慣れてくると専門家の存在より機材をあてにすることがある。その意味では、常に見直しを実施する必要がある。
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●(質問者I) |
今回参加し宇部市は国際協力の地盤ができている所だと思う。是非、地方発のODAを進めて頂きたいと思う。また、評価を進めるにあたっては、東京中心に情報発信するのではなく、地方の意見も入れた評価をして頂きたい。
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